会社に外部の資本を入れる方法は、大きく2つあります。新しく株式を発行して引き受けてもらうか(第三者割当増資)、既存の株主が持っている株式を売るか(株式譲渡)です。
この2つは、お金がどこへ行くかが決定的に違います。第三者割当増資では会社にお金が入り、株式譲渡ではオーナー個人にお金が入ります。
M&Aの文脈でどちらを選ぶかは、「事業に資金が要るのか、オーナーが現金化したいのか」で決まります。この記事では、その分岐を実務の条件で整理します。
第三者割当増資とは
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を発行し、その対価として払込みを受ける資金調達方法です。
「第三者」といっても、既存株主や取引先、役員が引受先になることもあります。不特定多数から募集する公募と区別するための呼び方で、引受先を特定して割り当てる点が特徴です。
新株が発行されるため、発行済株式数が増えます。その結果、既存株主の持株比率は下がります。
株式譲渡との違い
| 第三者割当増資 | 株式譲渡 | |
|---|---|---|
| 株式 | 新しく発行する | 既存の株式が移る |
| お金の行き先 | 会社 | 売った株主(オーナー個人) |
| 発行済株式数 | 増える | 変わらない |
| 既存株主の持株比率 | 下がる(希薄化) | 売った分だけ下がる |
| オーナーの手取り | なし | あり |
| 課税 | 会社に資本金等が増える(原則、益金不算入) | 株主に譲渡所得課税(原則20.315%) |
| 手続き | 株主総会または取締役会の決議、登記が必要 | 譲渡承認、株主名簿の書換え |
「オーナーの手取りがあるかどうか」が最大の違いです。
事業承継やM&Aで会社を手放す場合、オーナーが対価を受け取りたいなら株式譲渡になります。第三者割当増資では、会社に資金が入るだけで、オーナーの手元には何も残りません。
第三者割当増資を選ぶ場合
こういう条件なら、第三者割当増資が合います。
事業に資金が必要なとき
設備投資、運転資金、新規事業への投資——会社そのものが資金を必要としている場合、増資が目的に合致します。
借入と違い、返済義務がなく、利息も発生しません。その代わり、持株比率が下がり、経営への関与を受け入れることになります。
資本提携・業務提携を組むとき
取引先や同業に一部出資してもらい、協業の関係を強める場合に使われます。買収ではなく提携なので、引受先の持株比率は数%〜30%程度に留めることが多くなります。
提携の形そのものの選び方は、業務提携・資本提携・合弁会社設立の違いで整理しています。この記事は、資本提携を選んだ後に「どうやって資本を入れるか」を扱っています。
財務体質を改善したいとき
債務超過や自己資本比率の低下を、資本の増強で解消する目的です。金融機関からの評価にも関わります。
段階的に経営権を移したいとき
いきなり全株を譲渡するのではなく、まず増資で一定比率を持ってもらい、経営に慣れてもらってから残りを移すという設計です。後継者育成を伴う承継で使われることがあります。
株式譲渡を選ぶ場合
こういう条件なら、株式譲渡が合います。
オーナーが対価を受け取りたいとき
事業承継の出口として、創業者利益を確定させたい場合です。M&Aで会社を手放すケースの大半はこちらになります。
手続きを簡単に済ませたいとき
株式譲渡は、譲渡承認と株主名簿の書換えで完了します。登記も原則として不要です(役員が変わる場合は役員変更登記が必要)。
第三者割当増資は、募集事項の決定、割当先の決定、払込み、変更登記という手順を踏みます。資本金の額が変わるため、登記が必須です。
100%の経営権を移したいとき
増資では既存株主が残ります。買い手が完全に支配権を得たい場合、既存株式をすべて買い取る株式譲渡が選ばれます。
どちらも使う設計もある
実務では、両方を組み合わせることがあります。
たとえば、オーナーの持株の一部を株式譲渡で現金化しつつ、同時に第三者割当増資で会社に成長資金を入れるという形です。オーナーは一定の現金を得て、会社は投資余力を得ます。
ファンドが関与する案件で見られる設計です。ただし手続きも税務も複雑になるため、専門家の関与が前提になります。
そもそも増資も譲渡もしない選択
こういう条件なら、資本を動かす必要はありません。
- 必要なのが運転資金だけで、借入で足りる——持株比率を下げてまで調達する理由がありません
- 提携の内容が業務提携で完結する——資本を入れなくても、契約で実現できる協業は多くあります
- 経営権を渡す決断ができていない——増資で外部株主が入ると、後から関係を解消するのは容易ではありません
「資本を入れる」という判断は、原則として不可逆です。株式を買い戻すには相手の同意と資金が要ります。借入なら返済すれば関係は終わります。この違いは大きいものです。
第三者割当増資の実務上の注意点
有利発行に注意する
時価より著しく低い価額で新株を発行する場合、「有利発行」にあたり、株主総会の特別決議が必要になります。
非上場企業では株価の算定が難しく、税務上の評価との差が問題になることがあります。発行価額の決定には、税理士等の関与が要ります。
持株比率の希薄化を計算する
新株を発行すると、既存株主の持株比率は必ず下がります。
たとえば発行済株式1,000株のうちオーナーが1,000株(100%)を持っている会社が、新たに1,000株を発行した場合——オーナーの持株比率は50%になります。
議決権の比率は、経営権に直結します。特別決議に必要な3分の2、普通決議に必要な過半数を、増資後に維持できるかを事前に計算してください。
種類株式という選択肢
普通株式ではなく、議決権のない株式(無議決権株式)などを発行することで、資金は入れつつ経営権は維持する設計も可能です。
ただし発行には定款変更が必要で、設計も複雑になります。引受先が受け入れるかどうかも別問題です。
よくある質問
Q. 第三者割当増資で会社を買収できますか。
A. できます。発行済株式数を上回る新株を引き受ければ、過半数の議決権を得られます。ただし既存株主が残るため、100%子会社化はできません。
Q. 増資した資金に税金はかかりますか。
A. 払込みを受けた金額は原則として資本等取引にあたり、益金にはなりません。ただし資本金の額が増えることで、外形標準課税や中小企業向け特例の適用に影響する場合があります。
Q. 資本金はいくらまで増やしてよいですか。
A. 上限はありませんが、資本金1億円を超えると税務上の中小企業の特例(軽減税率、交際費の損金算入など)から外れます。払込金の一部を資本準備金に充てることで、資本金の増加を抑える方法があります。
Q. 株式譲渡の税率は。
A. 個人株主の場合、上場・非上場を問わず譲渡所得に対して所得税・住民税あわせて20.315%(復興特別所得税を含む)が原則です。
まとめ
- 第三者割当増資は新株を発行して資金を入れる。お金は会社へ
- 株式譲渡は既存株式が移る。お金は売った株主へ
- オーナーが対価を受け取りたいなら株式譲渡
- 事業に資金が必要なら第三者割当増資
- 増資は持株比率が希薄化する。特別決議の3分の2を維持できるか事前に計算する
- 時価より著しく低い価額の発行は有利発行にあたり、特別決議が必要
- 借入で足りるなら、資本を入れる必要はない。資本の受け入れは原則として不可逆
どちらの手法かを先に決めるのではなく、「お金がどこへ必要か」から逆算してください。そこが決まれば、手法は自動的に決まります。
参考
- 会社法(平成17年法律第86号)第199条〜第213条
- 国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 中小企業庁「事業承継」
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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