累進課税は「稼ぐほど税率が上がる仕組み」と説明されますが、経営者にとって重要なのは、どの所得がこの仕組みに乗り、どの所得が乗らないかです。
会社を譲るとき、退職金を取るとき、株式を売るとき——同じ手取りを目指しても、受け取り方で税率が20ポイント以上変わることがあります。その分岐点を作っているのが累進課税です。
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累進課税とは
所得が増えるほど、高い税率が適用される課税方式です。日本の所得税がこの方式をとっています。
誤解されやすいのが、「所得が上がると、全体に高い税率がかかる」わけではないという点です。実際には超過累進課税といって、区分を超えた部分にだけ高い税率がかかります。
例)課税所得700万円の場合
195万円まで → 5%
195万円〜330万円 → 10%
330万円〜695万円 → 20%
695万円〜700万円 → 23% ← 超えた5万円分だけ23%
「330万円を1円超えたら全部20%になる」ではありません。これを誤解して、年収を抑えようとする判断は合理的ではないことがあります。
所得税の税率 — 7段階
国税庁の所得税の税率によると、税率は5%から45%までの7段階です。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円 〜 1,949,000円 | 5% | 0円 |
| 1,950,000円 〜 3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円 〜 6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円 〜 8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円 〜 17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円 〜 39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
計算式:課税所得 × 税率 − 控除額
例)課税所得 700万円
7,000,000円 × 23% − 636,000円 = 974,000円
これに加えて、次の2つがかかります。
- 復興特別所得税 — 基準所得税額の 2.1%(平成25年から令和19年までの各年分)
- 住民税 — 所得割は原則 10%(都道府県民税4%+市町村民税6%)
つまり最高税率の層では、所得税45% + 住民税10% = 実質55%超になります。
⚠️ 令和7年分以後、基準所得金額が3億3千万円を超える場合には追加の負担を求める措置(いわゆる極めて高い水準の所得に対する負担の適正化)が設けられています。該当する規模のときは税理士に確認してください。
🔴 累進課税に「乗らない」所得がある
ここが経営者にとって本題です。
日本の所得税は総合課税が原則で、給与・事業・不動産などの所得を合算して累進税率をかけます。しかし一部の所得は分離して課税されます。
| 所得の種類 | 課税方式 | 税率 |
|---|---|---|
| 給与所得・事業所得・不動産所得など | 総合課税(累進) | 5〜45%+住民税10% |
| 株式等の譲渡所得 | 申告分離課税 | 20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%) |
| 退職所得 | 分離課税(特別な計算) | 退職所得控除後の1/2に累進税率 |
| 土地・建物の譲渡所得 | 申告分離課税 | 所有期間で税率が変わる |
🔴 非上場株式の譲渡益は20.315%の分離課税。総合課税の最高税率(55%超)と比べると、35ポイント近い差があります。
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経営者に効いてくる3つの場面
1. 会社を売る(株式譲渡)
オーナー経営者が保有する自社株式を売却した場合、譲渡所得として申告分離課税の対象になります。税率は 20.315%。
例)株式譲渡による所得 1億円
分離課税 1億円 × 20.315% = 約2,032万円
(仮に総合課税だったら、55%超で5,500万円超)
この差が、M&Aで株式譲渡が選ばれる大きな理由の一つです。事業譲渡(法人が資産を売る)だと、法人税等が課され、さらに株主へ配当する段階で再度課税されます。
⚠️ 株式譲渡と事業譲渡のどちらが有利かは、税率だけでは決まりません。負債・許認可・従業員の雇用契約・簿外債務のリスクをどう扱うかで結論が変わります。税務だけで方式を決めないでください。
2. 退職金で受け取る
役員退職金は退職所得として、他の所得と分離して計算されます。しかも計算方法が有利です。
退職所得 =(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2
退職所得控除額(国税庁退職金と税)
| 勤続年数 | 控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
控除を引いたうえで1/2にしてから累進税率をかけるため、同じ金額を役員報酬で受け取るより税負担が軽くなります。
⚠️ ただし役員退職金には「不相当に高額な部分は損金にならない」という制約があります。適正額の算定(功績倍率法など)は税理士と詰めてください。役員在任期間が5年以下の場合は1/2課税が適用されないなど例外もあります。
3. 役員報酬を毎年上げる
累進課税が最も重く効くのがここです。役員報酬は給与所得として総合課税の対象になり、課税所得1,800万円を超えると40%、4,000万円超で45%(+住民税10%)。
会社に利益を残して法人税を払うか、報酬で取って所得税を払うか——法人税の実効税率と個人の限界税率を並べて判断する場面です。
判断の境界線 — どれを選ぶか
順位はつけません。条件で分かれます。
株式譲渡(M&A)が向いている
- オーナーが引退し、会社ごと譲る
- 許認可・契約・従業員をそのまま引き継いでほしい
- 税率20.315%の分離課税を活かしたい
- 買い手が「会社ごと」を望んでいる
退職金での受け取りを厚くするのが向いている
- 勤続年数が長い(20年超なら控除額が大きく伸びる)
- 会社に利益が蓄積されていて、支給原資がある
- 引退の時期を自分で決められる
- 株式譲渡と組み合わせて、譲渡価格と退職金の配分を設計したい
そもそも急いで動かないほうがいい
- 後継者が決まっていない — 税務の設計より先に、誰に渡すかを決める
- 直近の業績が一時的に落ちている — 株価算定に影響する
- 税制改正の動向が固まっていない — 令和7年分以後の高所得者向け措置のように、制度は動く
- 数字の根拠を自分で説明できない — 提案された節税策の理屈が分からないまま実行しない
よくある質問
Q. 累進課税と超過累進課税は違いますか?
日本の所得税は超過累進課税です。区分を超えた部分にだけ高い税率がかかります。「所得が1円増えたせいで手取りが減る」ということは起きません。
Q. 住民税も累進ですか?
所得割は原則10%の一律です(都道府県民税4%+市町村民税6%)。累進なのは所得税のほうです。
Q. 株式を売った利益は、給与と合算されますか?
上場・非上場を問わず、株式等の譲渡所得は申告分離課税で、給与所得とは合算されません。税率は20.315%です。
Q. 役員報酬と退職金、どちらで取るのが有利ですか?
一般に退職金のほうが税負担は軽くなります(退職所得控除+1/2課税)。ただし不相当に高額な部分は損金算入が認められません。適正額の算定と支給時期は税理士と設計してください。
Q. 復興特別所得税はいつまでですか?
平成25年から令和19年までの各年分の確定申告で、基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。
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まとめ
- 累進課税は超過累進。区分を超えた部分にだけ高い税率がかかる
- 所得税は5%〜45%の7段階。これに復興特別所得税2.1%と住民税10%が加わり、最高層では実質55%超
- 🔴 株式等の譲渡所得は累進に乗らない。申告分離課税で20.315%。総合課税の最高税率と35ポイント近い差
- 退職所得は控除後に1/2してから累進。勤続20年超で控除額が大きく伸びる
- M&Aで株式譲渡が選ばれる理由の一つがこの税率差。ただし方式は税率だけで決めない(負債・許認可・簿外債務の扱いで結論が変わる)
- 令和7年分以後、基準所得金額3億3千万円超には追加の負担措置がある
参考
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 総務省「個人住民税」
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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