シナジーとは? 意味や種類、M&Aでシナジー効果を生む条件を解説

シナジー(synergy)とは、2つ以上の要素が組み合わさることによって、1つの要素では生み出すことのできなかった大きな効果・成果を生み出すことを意味します。もともとは、化学や生物学の分野で使われていた言葉ですが、徐々にビジネスの分野でも使われるようになりました。特に、M&Aを検討するにあたっては、シナジーについて考えることが大切ですが、具体的にどのような効果・成果が期待できるのでしょうか? 詳しく解説していきます。

この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?

ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。

目次
  1. シナジーとは
    1. 「シナジー」と「シナジー効果」の違い
      1. シナジーとは
      2. シナジー効果とは
    2. ビジネスやM&Aにおけるシナジーは「1+1>2」が基本
    3. アンチシナジーとは
      1. シナジーとアンチシナジーの違い
      2. M&Aにおいてアンチシナジーが起こる主な原因
  2. M&Aで狙うシナジー効果の4分類
    1. 売上シナジー
    2. コストシナジー
    3. 財務シナジー
    4. 組織・技術シナジー
    5. 4つのシナジーの関係
    6. 4分類をさらに細分化した考え方
      1. 売上シナジー
      2. 販売シナジー
      3. 事業シナジー
      4. コストシナジー
      5. オペレーションシナジー
      6. 財務シナジー
      7. 投資シナジー(インベストメントシナジー)
      8. 組織・技術シナジー
      9. 研究開発シナジー(R&Dシナジー)
      10. 経営シナジー
      11. マネジメントシナジー
  3. シナジーとバリュエーションの関係
    1. シナジーは買収価格の根拠になる
      1. シナジー価値の例
      2. M&Aにおけるシナジー価値の計算方法
    2. 「シナジーの過大評価」が高値掴みを生む
      1. シナジーを過大評価した場合のイメージ
      2. 確度で分ける「ハードシナジー」と「ソフトシナジー」
      3. シナジーを適切に評価するポイント
  4. シナジーを実現する条件
    1. PMIの巧拙で結果が分かれる
      1. PMIでおこなう主な取り組み
      2. PMIが成功するとどうなる?
      3. PMIが失敗するとどうなる?
      4. PMIを成功させるポイント
  5. M&Aにおけるシナジーに関するFAQ
    1. Q. シナジーが見込めなくてもM&Aを実施することはありますか?
    2. Q. シナジー効果はどのくらいで出ますか?
    3. Q. シナジーを適切に評価してもらうにはどうすればいいですか?
  6. シナジーの持続可能性についても考えることが大切

シナジーとは

シナジー(synergy)には、英語で「相乗効果」「共同作用」という意味があります。語源はギリシャ語の「synergia(協働・共同作業)」で、「一緒に働くこと」という意味から発展しました。

ビジネスにおいては、企業同士や事業同士など、2者以上の異なる相手が組み合わさることによって、単独では得られない価値が生み出されることを「シナジー効果」と意味します。

「シナジー」と「シナジー効果」の違い

なお、「シナジー」と「シナジー効果」はほぼ同義で使われますが、厳密には少々意味が異なります。

項目 シナジー シナジー効果
意味 相乗作用そのもの 相乗作用によって得られた成果・利益
英語 Synergy Synergy effect(和製表現に近い)
ニュアンス 状態・仕組み 結果・効果
「両社にシナジーがある」 「シナジー効果で利益が増えた」

シナジーとは

「シナジー」は「1+1が2より大きくなる相乗作用」を意味します。つまり、複数の人・部署・企業が協力することで、一社だけでは得られない価値を生み出すことです。

(例)
・営業部と開発部が連携して、新商品の売上が伸びる
・M&Aで販売網と技術力を組み合わせる
・ブランド力と製造力を組み合わせる

このような「組み合わせによる相乗作用そのもの」をシナジーと呼びます。

シナジー効果とは

シナジー効果は、「シナジーによって実際に生まれた成果や利益」を指します。

例:M&Aを実施した場合

(買収前)
・A社利益:5億円
・B社利益:3億円

(買収後)
合計利益:12億円

本来なら8億円ですが、統合によって12億円になった場合、4億円分がシナジー効果と考えられます。

ビジネスやM&Aにおけるシナジーは「1+1>2」が基本

複数の企業や事業などが協力することによって、単独では得られない大きな成果を生み出せるということは、たとえば「A社だけの利益:100、B社だけの利益:100」の場合、通常であれば合計は200なので、“200より多い”成果が生み出せることが期待される状態だということになります。

この場合において、A社とB社が協力した結果、250という成果を達成することができたとなれば、「50のシナジー効果が得られた」ということになります。

アンチシナジーとは

複数の企業や事業が協力しても、必ずしもいい結果を生むとは限りません。統合・協力の結果、期待した相乗効果が得られなかったどころか、かえって企業価値や業績が悪化してしまう状態のことを「アンチシナジー(anti-synergy)」といいます。

アンチシナジーは、「負のシナジー(ネガティブシナジー)」あるいは「ディスシナジー(dis-synergy)」と呼ばれることもあります。

シナジーとアンチシナジーの違い

シナジー アンチシナジー
1+1が2より大きくなる 1+1が2未満になる
統合によって価値が増える 統合によって価値が減る
売上や利益が向上する 売上や利益が低下する

M&Aにおいてアンチシナジーが起こる主な原因

M&Aでは「どれだけのシナジー効果が見込めるか」に注目されがちですが、実際にはアンチシナジーをいかに防ぐかが成功の重要な鍵になります。期待する効果を過大評価せず、統合後のリスクを現実的に見積もることが、M&Aを成功に導くうえで欠かせません。

①企業文化の違い
社風や意思決定の進め方が大きく異なり、従業員同士の連携がうまくいかないケースです。

(例)
・ベンチャー企業と大企業が統合して、意思決定のスピードが合っていない
・組織風土の違いから社員のモチベーションが低下している

②人材の流出
M&A後に重要な社員や経営陣が退職して、技術や顧客との関係が失われるケースです。

(例)
・優秀な営業担当者が退職して、主要顧客も離れてしまった

③PMI(統合作業)の失敗
M&A後のPMI(統合作業)が計画どおりに進まず、業務効率が低下するケースです。

(例)
・システム統合に時間がかかり、受発注業務が混乱している
・重複する業務の整理が進まず、コストが増加している

④顧客離れ
統合によってサービス内容や担当者が変わり、顧客満足度が低下するケースです。

(例)
・ブランド変更をきっかけに既存顧客が競合へ流れた

⑤想定以上のコスト発生
統合作業や設備更新、人員整理などに予想以上の費用がかかるケースです。

(例)
・システム改修費やコンサルティング費用が当初の見積もりを大幅に超えた

≪アンチシナジーを防ぐポイント≫

  • M&A前に十分なデューディリジェンス(DD)を実施する
  • シナジーだけでなく、アンチシナジーのリスクも事前に洗い出す
  • 統合作業(PMI)の計画を具体的に策定して、統合後の役割分担やスケジュールを明確にする
  • 従業員や取引先に丁寧な説明をおこない、不安や混乱を最小限に抑える

この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?

ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。

M&Aで狙うシナジー効果の4分類

M&Aで期待されるシナジー効果は、いくつかの種類に分類されます。そのうち代表的なものが、「売上シナジー」「コストシナジー」「財務シナジー」「組織・技術シナジー」の4つです。それぞれの内容を理解しておくと、買収の目的や企業価値向上のポイントを把握しやすくなります。

シナジーの種類 主な内容 具体例
売上シナジー 売上・市場シェアの拡大 クロスセル、販路拡大、新商品販売
コストシナジー コスト削減・効率化 共同調達、設備統合、管理部門統合
財務シナジー 財務体質・資金効率の改善 節税、資金調達力向上、資本効率改善
組織・技術シナジー 人材・技術・ノウハウの共有 技術融合、人材交流、研究開発強化

売上シナジー

売上シナジーとは、M&Aによって新たな売上機会を創出して、事業を成長させるシナジーです。4つのシナジーのなかでも、もっとも大きな価値を生み出す可能性があります。

(主な例)
クロスセル
・A社の商品をB社の顧客へ販売する
・B社の商品をA社の営業網で販売する

販路拡大
・海外販売網の獲得
・地域・業界への新規参入

ブランド力の向上
・相互ブランド活用
・商品ラインアップの充実

新市場への進出
・新規顧客層の獲得
・新サービスの展開

(具体例)
ソフトウェア会社が販売会社を買収して、自社製品を販売会社の全国ネットワークで販売することで売上が増加するケースなどがこれに該当します。

コストシナジー

コストシナジーとは、重複する業務や設備を統合することでコストを削減するシナジーです。比較的実現しやすく、M&Aで重視されるポイントの1つです。

(主な例)
共同調達
・原材料や部品をまとめて仕入れ、仕入価格を下げる

間接部門の統合
・経理・人事・総務・法務などを一本化する

設備の統合
・工場や物流拠点を集約する

システム統合
・基幹システムやITインフラを共通化する

(具体例)
同業のメーカー同士が統合して、物流センターを2か所から1か所へ集約して物流コストを削減するケースなどがこれに該当します。

財務シナジー

財務シナジーとは、M&Aによって資金調達や税務、財務体質を改善する効果を指します。

(主な例)
節税効果
・繰越欠損金を活用できるケース(税法上の要件を満たす場合)
・グループ内での税務効率化

資金調達力の向上
・信用力向上による借入条件の改善
・より低い金利での資金調達

資本効率の改善
・余剰資金の有効活用
・キャッシュマネジメントの最適化

財務基盤の強化
・財務体質の改善
・資金繰りの安定化

(具体例)
中小企業が大手企業グループに加わることによって信用力が高まり、銀行から有利な条件で融資を受けられるようになるケースがこれに該当します。

※補足:節税効果はM&Aの目的になり得ますが、繰越欠損金の利用などには税法上の厳しい要件があります。実際のスキームでは税理士などの専門家による検討が欠かせません。

組織・技術シナジー

組織・技術シナジーとは、人材・技術・ノウハウを共有して、新たな価値を生み出す効果です。中長期的な企業競争力の向上につながります。

(主な例)
人材交流
・優秀な人材や経営ノウハウの共有
・人材育成の強化

技術融合
・保有技術を組み合わせた新製品開発
・特許・知的財産の活用

研究開発(R&D)の強化
・研究開発費の共同負担
・開発期間の短縮

ノウハウ共有
・生産技術や営業手法の横展開
・DX・AI活用の促進

(具体例)
AI技術を持つ企業と医療機器メーカーが統合して、AI診断機能を備えた新製品を共同開発するケースがこれに該当します。

4つのシナジーの関係

M&Aによる企業価値向上は、主に「売上拡大」「コスト削減」「財務効率化」の3点によって直接的に実現されます。そして、これらを底上げし、中長期的な競争力向上をもたらす基盤となるのが「組織・技術の強化」です。

4つのシナジーは互いに関連しています。たとえば、組織・技術シナジーによって新製品が開発されれば売上シナジーにつながり、設備やシステムを共通化すればコストシナジーが生まれます。また、企業規模や信用力の向上によって財務シナジーも期待できます。

そのため、M&Aでは1つのシナジーだけでなく、複数のシナジーを組み合わせて企業価値を最大化することが重要です。

4分類をさらに細分化した考え方

売上シナジー、コストシナジー、財務シナジー、組織・技術シナジーは、次のように細分化することもできます。

シナジー 概要 主な分類
売上シナジー 売上拡大・市場シェア向上 売上
販売シナジー 販路・営業網・顧客基盤の共有、クロスセル 売上
事業シナジー 事業同士を組み合わせて新たな価値を創出 売上・組織・技術
コストシナジー 調達・設備・間接部門などのコスト削減 コスト
オペレーションシナジー 生産・物流・業務プロセスの効率化 コスト
財務シナジー 節税・資金調達力・資本効率の改善 財務
投資シナジー(インベストメントシナジー) 投資効率の向上、設備投資・研究投資の最適化 財務
組織・技術シナジー 人材・技術・ノウハウの共有 組織・技術
研究開発シナジー(R&Dシナジー) 研究開発力の強化、新製品・新技術の創出 組織・技術
経営シナジー 経営資源や経営ノウハウを共有し企業価値を高める 組織・技術
マネジメントシナジー 経営管理・ガバナンス・組織運営を効率化 組織・技術

各シナジーの概要は次の通りです。

売上シナジー

目的:売上を増やすこと
(例)クロスセル、アップセル、販路拡大、市場シェア拡大、ブランド力向上

販売シナジー

目的:営業・販売力を高めること(売上シナジーの中でも販売活動に特化)
(例)全国の営業網共有、販売代理店共有、顧客リスト活用、ECサイト統合

事業シナジー

目的:事業同士を組み合わせて新たな価値を生み出すこと
(例)ソフトウェア会社×ハードウェア会社、病院×介護施設、飲食店×デリバリー事業

コストシナジー

目的:重複コストを削減すること
(例)共同購買、工場統合、本社統合、人事・経理統合

オペレーションシナジー

目的:業務効率を改善すること(コストシナジーの中でも日々の業務運営に焦点)
(例)生産ラインの統合、物流網の一本化、在庫管理の最適化、DX推進、システム統合

財務シナジー

目的:財務体質を改善すること
(例)節税、資金調達力向上、信用力向上、資本効率改善

投資シナジー(インベストメントシナジー)

目的:投資効率を高めること
(例)設備投資の重複防止、研究開発費の共同負担、M&A後の投資判断の最適化

組織・技術シナジー

目的:人材・技術・知識を共有すること
(例)人材交流、技術移転、特許共有、ノウハウ共有

研究開発シナジー(R&Dシナジー)

目的:研究開発力を強化すること(組織・技術シナジーの中でもR&Dに特化)
(例)共同研究、新製品開発、AI・DX技術の融合、特許活用

経営シナジー

目的:経営資源を有効活用すること
(例)経営戦略の共有、ブランド戦略の統一、グループ経営の推進、経営ノウハウの移転

マネジメントシナジー

目的:経営管理を効率化すること(経営シナジーの中でも組織運営や管理体制に焦点)
(例)ガバナンス強化、KPI管理の統一、内部統制の強化、意思決定プロセスの改善

≪全体像≫

  • 売上シナジー
    • 販売シナジー
    • 事業シナジー
  • コストシナジー
    • オペレーションシナジー
  • 財務シナジー
    • 投資シナジー(インベストメントシナジー)
  • 組織・技術シナジー
    • 研究開発シナジー
    • 経営シナジー
    • マネジメントシナジー

(補足)
実務では、「売上・コスト・財務・組織・技術」の4分類が基本です。一方で、「販売シナジー」「オペレーションシナジー」「研究開発シナジー」などは、その4分類をより具体的に説明するための下位分類として使われることが多くあります。また、「経営シナジー」と「マネジメントシナジー」は文脈によって重なる部分があります。したがって、厳密に別物というよりは、目的や強調したい内容に応じて使い分けられる用語と考えるのが適切です。

この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?

ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。

シナジーとバリュエーションの関係

M&Aにおいては、シナジーは企業価値(バリュエーション)や買収価格を決めるための重要な要素です。

買収企業は、「買収後にどれだけ企業価値を高められるか」を予測して、その期待値を買収価格に反映させます。そのため、シナジーをどのように見積もるかが、M&Aの成否を左右する重要なポイントになります。

シナジーは買収価格の根拠になる

企業価値評価(バリュエーション)では、“対象会社が単体で生み出している価値(=スタンドアロン価値)”だけでなく、買収後に実現できるシナジー価値も考慮されます。

※なお、「シナジー価値」とは、シナジーによって最終的に創出された「金銭的な価値や企業価値の増加分そのもの」を指します。

企業価値評価にシナジー価値を加味する場合の基本的な考え方は次のようになります。

買収価格 = 対象会社の企業価値(スタンドアロン価値)+(シナジー価値 × 売り手への配分比率)

※「支配権プレミアム」は、上記におけるシナジー価値の配分等を含んで算出されます。
実務において買い手企業は、算出したシナジー価値の100%をそのまま買収価格に上乗せするわけではありません。M&A実行後の統合リスク(PMIリスク)は買い手側が負うため、算出したシナジー価値の一部(一般的に30〜50%程度)を「シナジーの配分(Synergy Sharing)」として売却対価に反映させ、残りは買い手側のリターンとして留保するのが一般的です。

シナジー価値の例

たとえば、ある会社の企業価値が100億円だったとします。

しかし、買収によって次のような変化(=シナジー効果)が見込まれる場合、買収企業にとっては対象会社の価値は100億円以上になります。

  • 販路統合によって売上が年間5億円増える
  • 管理部門統合によって年間2億円のコスト削減
  • 資金調達コストが低下する

そのため、

  • 対象会社の企業価値:100億円
  • 創出されるシナジー価値:20億円
  • 売り手への配分比率:50%(10億円)

であれば、買収価格は110億円程度まで支払う合理性があると判断される可能性があります。

M&Aにおけるシナジー価値の計算方法

上記計算式における「シナジー価値」を算出する方法は、実務では、シナジーを「売上増加」「コスト削減」「財務改善」などに分解して、それぞれを金額で見積もったうえで、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法によって現在価値に割り引いて計算するのが一般的です。

◎基本的な考え方

シナジー価値 = 将来のシナジーによる追加キャッシュフローの現在価値 - シナジー実現コストの現在価値

つまり、「得られる利益-実現に必要なコスト」を現在価値に換算したものということになります。

◎実務で用いられるシナジー価値算定の流れ

手順 内容
① シナジーを洗い出す 売上・コスト・財務・組織などに分類
② 金額を試算する 年度ごとの増益・削減額を見積もる
③ 実現確率を反映する 過大評価を防ぐためリスク調整をおこなう
④ PMIコストを差し引く システム統合や人員整理などの費用を控除する
⑤ DCF法などで現在価値へ換算する 将来のシナジーを現在価値に割り引く
⑥ 買収価格へ反映する シナジーの配分を考慮して価格交渉をおこなう

シナジー価値の計算は、単純に利益を足し合わせるものではなく、「将来の追加キャッシュフローを現在価値に換算する」ことが基本です。また、シナジーは不確実性を伴うため、実務では実現可能性・実現時期・PMIコスト・アンチシナジーのリスクまで織り込んで評価することが重要とされています。

なお、現在価値に換算するもっとも一般的な方法はDCF法ですが、DCF法の計算式は次の通りで、専門知識がなければ算出が難しいので、実際の計算は専門家に任せる必要があります。

(DCF法による計算)
シナジー価値 = Σ(各年のシナジーCF ÷ (1+割引率)^年数)- 統合コスト

「シナジーの過大評価」が高値掴みを生む

M&Aでもっとも多い失敗原因の1つが、シナジーを過大評価してしまうことです。

「売上はすぐ伸びる」「コストは大幅に削減できる」と楽観的に見積もり、高過ぎる価格で買収してしまった結果、想定通りの効果が実現しないケースがあります。

このように、M&Aにおいて、売り手企業の実際の企業価値や将来の利益創出能力を上回る過大な対価を支払ってしまうことを「高値掴み」といいます。

高値掴みの典型例は次の通りです。

(典型例)
・クロスセルが思うように進まない
・顧客離れが発生する
・システム統合に想定以上の費用がかかる
・人材流出により技術やノウハウを失う
・PMI(統合作業)が遅れて、コスト削減効果が出ない

このような場合、期待していたシナジー効果が出ず、買収価格を回収できなくなる可能性があります。

シナジーを過大評価した場合のイメージ

【買収前の想定】
企業価値:100億円
シナジー価値:30億円
───────────
買収価格:130億円

【実際】
企業価値:100億円
実現したシナジー:10億円
─────────────
実際の価値:110億円

130億円で買収 ➔ 実際の価値は110億円 ➔ 20億円分の「高値掴み」

確度で分ける「ハードシナジー」と「ソフトシナジー」

シナジーの過大評価を防ぐため、実務ではシナジーを大きく2つに分類して検証します。

  • ハードシナジー(コストシナジー):管理部門の統合や拠点の集約など、自社の意思決定で計画・実行しやすく実現確度が高いもの。
  • ソフトシナジー(売上シナジー):クロスセルや新商品開発など、顧客や競合他社の動向に依存し実現確度が低いもの。

バリュエーションの算定では、ソフトシナジーに対して慎重な割引率を設定するか、初期の買収価格には織り込まず業績連動報酬(アーンアウト)で対応するなどの実務的対応が求められます。

シナジーを適切に評価するポイント

M&Aでは、シナジーを期待するだけでなく、「本当に実現できるか」を客観的に検証することが重要です。

【チェックポイント】
・①定量的に試算する:売上増加額やコスト削減額を具体的な数字で見積もる
・②実現時期を考慮する:シナジーは買収直後ではなく、数年かけて実現することも多い
・③実現コストも見積もる:PMI費用やシステム統合費用、人材再配置費用などを織り込む
・④技術の相性を図る:自社と相手企業の技術で相乗効果を得られるかをよく考える
・⑤競合の存在に目を向ける:M&Aによって参入しようとしている分野の競合に目を向ける
・⑥アンチシナジーも考慮する:顧客離れや人材流出など、企業価値を下げるリスクも評価する

この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?

ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。

シナジーを実現する条件

M&Aでは、買収が成立した時点がゴールではありません。本当のスタートは買収後です。どれほど魅力的なシナジーを描いていても、買収後の統合がうまく進まなければ、その効果は実現できません。そのため、M&AではPMI(Post Merger Integration:買収後統合)が成功の鍵を握るといわれています。

PMIの巧拙で結果が分かれる

PMIとは、M&A成立後に人・組織・業務・システム・企業文化などを統合して、シナジーを実現するための取り組みです。

たとえば次のように、シナジーの種類に応じたPMIが必要になります。

  • 売上シナジーを狙うなら営業体制の統合
  • コストシナジーを狙うなら重複業務や設備の統合
  • 技術シナジーを狙うなら研究開発体制の連携

つまり、シナジーは「計画」だけでは価値にならず、PMIによって初めて現実の成果になるということです。

PMIでおこなう主な取り組み

PMIでは主に次のような取り組みをおこないます。

▶組織の統合
・組織体制・役職の見直し
・権限や責任範囲の整理
・経営方針の共有

▶業務プロセスの統合
・営業フローの統一
・生産・物流体制の見直し
・購買・調達の一本化

▶システムの統合
・基幹システムの統一
・会計・人事システムの統合
・データの移行・管理方法の統一

▶人材・企業文化の統合
・経営理念やビジョンの共有
・コミュニケーションの促進
・評価制度・人事制度の調整
・キーパーソンの離職防止

▶シナジー効果の進捗管理
・売上・利益などのKPIを設定
・定期的に効果を測定
・計画との差異を分析し改善策を実施

PMIが成功するとどうなる?

PMIを計画通りに進めることで、売上・コスト・技術の各シナジーを実現できる可能性があります。たとえば、次のようなことが実現する場合があります。

  • 営業網を統合して販路を拡大
  • 原材料を共同購入して調達コストを削減
  • 商品開発チームを統合して新商品の開発を加速

PMIが失敗するとどうなる?

PMIがうまく進まないと、期待していたシナジーは実現せず、アンチシナジーが発生する場合があります。

(代表的な失敗例)
・企業文化の違いから従業員が退職する
・システム統合が遅れて業務が混乱する
・顧客対応が不十分となり、取引先が離れる
・統合コストが当初の見込みを大きく上回る

このような事態になると、M&Aによって企業価値が高まるどころか、かえって価値を損なう可能性があります。

PMIを成功させるポイント

PMIを成功させる主なポイントは次の通りです。

▶M&A成立前からPMIを計画する
統合後ではなく、デューディリジェンス(DD)の段階から統合計画を準備する

▶優先順位を明確にする
100日プラン(Day 100 Plan)などを作成して、重要施策から着手する

▶経営陣が強く関与する
トップが方針を示して、迅速な意思決定をおこなう

▶従業員との対話を重視する
不安を軽減して、企業文化の融合を促進する

▶シナジーを定量的に管理する
KPIを設定して、進捗を継続的にモニタリングする

なお、M&Aにおける「100日プラン」とは、経営統合後の最初の100日間におこなう具体的な統合プロセス(PMI)の実行計画のことです。たとえば、「1日目の作業内容」「1週間後の作業内容」「1か月後の作業内容」「3か月後の作業内容」「100日後の作業内容」などを予め考えておいて、実践していきます。

⇒参照:M&A成立後に後悔しないためのPMI入門|売却した創業者が知っておくべき統合プロセスと心構え

この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?

ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。

M&Aにおけるシナジーに関するFAQ

続いては、M&Aにおけるシナジーに関してよくある質問とその答えをみていきましょう。

Q. シナジーが見込めなくてもM&Aを実施することはありますか?

シナジーが見込めなくても、M&Aをおこなうことはあります。たとえば次のような目的があれば、大きなシナジーが見込めなくても、M&Aを実施する意味があるためです。

(例)
・後継者不在による事業承継
・市場からの撤退
・競争激化への対応
・経営再建
・人材や技術の確保

Q. シナジー効果はどのくらいで出ますか?

シナジー効果が現れる時期は、その内容によって異なりますが、一般的には1~3年程度で効果が見え始めるケースが多いとされています。

また、シナジーの種類によって実現までの期間には差があります。

シナジーの種類 効果が現れ始める目安
コストシナジー 数か月~1年程度
売上シナジー 1~3年程度
経営シナジー 2~5年程度
財務シナジー 数か月~2年程度

重複する部署の統合や共同購買、物流の効率化などは、統合後すぐに着手できるため、コストシナジーに関しては比較的短期間で成果が現れやすい傾向があります。一方、クロスセルや新商品の共同開発、新規顧客の獲得などは、市場への浸透や営業活動が必要になるため、売上シナジーに関しては、成果が出るまでに1~3年ほどかかることが少なくありません。

そのほかのシナジー効果を含めて、シナジー効果が早く現れるかどうかは、PMIの進め方に大きく左右されます。たとえば、統合計画が明確である場合や、組織・人事制度の統合が円滑に進んだ場合、ITシステムや業務フローが早期に統一された場合などは、シナジーが早期に実現しやすくなります。

Q. シナジーを適切に評価してもらうにはどうすればいいですか?

期待されるシナジー効果が高いにも関わらず、そのうちの僅かなシナジーしか評価されないケースはあります。なぜかというと、シナジー効果は、基本的には譲受企業が買収価格を検討する際に算出するためです。そのため、譲渡オーナー側は、自社の価値をしっかりアピールしなければ損をすることになりかねません。

では、どうすれば自社の価値をきちんと価格に反映させることができるかというと、シナジーを適切に評価して、譲渡価格に反映させる力量のあるM&A仲介会社などに依頼することが役立ちます。

この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?

ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。

シナジーの持続可能性についても考えることが大切

ここまで解説してきた通り、M&Aや他社との業務提携の検討時などには、シナジーの実現性について考えることが非常に大切です。しかし、たとえばA社がB社を買収後、A社・B社単独での利益の合計額より高い利益を生み出せるようになったとしても、それが一時的なものであれば、M&Aが成功だったとはいえません。M&Aを成功に導くためには、M&A実施後、長期的に利益を生み出せるかどうかを見極めることが肝心です。併せて、PMIを計画的に進めることによって、期待したシナジー効果が生まれやすくなるので、M&Aなどの検討時には、専門家の知見も参考にしながら周到に準備を進めていきましょう。

執筆 ジョブカンM&A編集部

ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。


他の関連記事はこちら