実査とは? M&AのDD(デューデリジェンス)で実施される現地調査の目的・方法・チェックリスト

実査(じっさ)とは、会計監査の実施者や、M&AにおけるDD(デューディリジェンス/買収監査)の実施者などが、企業の帳簿に計上されている現金・在庫・不動産・設備などの資産が、実在していて利用可能な状態であるかどうかを、現地に赴いて確認する手続きのことです。この記事では、そのなかから、M&AのDDにおける実査にスポットを当てて、実査をおこなう目的や具体的な方法、譲渡企業が準備すべきことなどを詳しく解説していきます。

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目次
  1. 実査とは? 意味とM&A・会計監査における位置づけ
    1. 「会計監査における実査」と「M&AのDDにおける実査」の違い
      1. 会計監査とは? 監査と実査の関係性
    2. 「M&AのDD」と「M&AのDDにおける実査」の違い
  2. M&AのDDで実査がおこなわれる理由
    1. 帳簿・財務資料だけでは確認できないリスクの洗い出し
    2. 除却・交換が必要な資産の洗い出し
    3. 企業価値を正しく評価する
    4. 不正を防止する
  3. 実査の種類と対象
    1. 棚卸実査
    2. 固定資産実査
    3. 現金実査
    4. 有価証券実査
    5. 受取手形実査
    6. 預金実査
    7. その他の実査
  4. 実査の流れと当日のスケジュール
    1. 実査対象の選定と事前準備
    2. 実査当日の立会いの進め方・記録の取り方
    3. 実査後のフォローアップと報告書の位置づけ
  5. 売り手が実査に向けて準備すべきこと
    1. 帳簿と現物の照合および修正
    2. 現物台帳の準備
    3. 関係部署への周知
    4. 他拠点の現金を確認
    5. 有価証券や手形、小切手などの資産の残高を確認
    6. 従業員へのカモフラージュ(情報漏洩対策)の徹底
    7. ≪常に実査に備えておく≫
    8. ≪よくある指摘事項と事前対策チェックリスト≫
    9. 【コラム】業界別・M&A実査で重点的に見られるポイント
      1. 製造業・建設業
      2. 小売業・飲食業・サービス業
      3. IT・システム開発業
  6. 実査結果が企業価値・売却価格に与える影響
    1. 実査で問題が見つかった場合の価格調整・交渉の流れ
  7. M&AのDDにおける実査に関するFAQ
    1. M&AのDDにおける実査がおこなわれるタイミング・期間は?
    2. 誰が実査を実施しますか?
    3. 帳簿残高と実際の資産の数量や内容が一致しない場合、どうすればいいですか?
    4. 実査で問題が見つかったらどうなりますか?
    5. M&AのDDにおける実査と棚卸立会(たなおろしたちあい)の違いは何ですか?
  8. 実査は買い手にとっても売り手にとっても重要

実査とは? 意味とM&A・会計監査における位置づけ

実査とは、現金の保管状況や帳簿残高の整合性を確認することによって、資産が本当に実在していることを確かめることをいいます。

具体的には、帳簿や資料上の情報だけを頼りに調査するのではなく、実際に現地へ赴いて、資産や業務の状況を直接確認する調査手続きを意味します。企業が保有する在庫や設備、現金、有価証券などについて、帳簿記録と実物が一致しているかを確認する目的でおこなわれます。

なお、「実査」という言葉は、「実物調査」または「実地調査」の略とされています。

実査は、冒頭で触れた通り、監査やM&Aにおいて実施されます。

会計監査では、監査法人などが監査手続きとして実査を実施するのが一般的です。

M&Aでは、買い手側がDDの一環として実施するのが一般的です。ただし、売り手側が、買い手側から指摘されそうな問題を事前に把握・改善するために、セルサイドDDの一環として実施するケースもあります。

「会計監査における実査」と「M&AのDDにおける実査」の違い

項目 M&A DDにおける実査 会計監査における実査
目的 買収リスクの把握・企業価値評価 財務諸表の適正性確認
実施者 買い手・アドバイザー ※ただし、セルサイドDDにおいて売り手が実施する場合もある 公認会計士・監査法人
対象 財務・税務・法務・事業全般 主に会計上の資産

会計監査における実査は、財務諸表が適正に作成されているかを確認するための監査手続きです。企業の期末日の貸借対照表の残高や、帳簿に記載されている固定資産の状況に変化がないかどうかなどが確認されます。

一方、M&AのDDにおける実査は、企業価値の妥当性や潜在的なリスクを把握することが主な目的です。また、潜在的な不正や経営リスク、管理上の不備がないかを確認することで、買収後のトラブルを回避できるだけでなく、統合計画(PMI)にも役立てることができます。前述の通り、メインは買い手側がおこなうものですが、売り手側が自社の問題について正確に把握して改善するために実施することもあります。

会計監査とは? 監査と実査の関係性

実査は、前述の通り、“資産が本当に実在しているのかを確かめること”です。

これに対して監査は、“経営状態が法律・会社規則に則っているのかを確かめること”を意味します。

監査は、実施主体によって、内部監査と外部監査の2種類にわけられます。前者は、企業の従業員など、社内の人間がおこなう監査で、社内ルールの厳守や業務の効率化、不正防止を目的に実施されます。後者は、傘法人や公認会計士など、社外の独立した第三者がおこなう監査です。実施することによって、株主や投資家などに対して、企業の財務情報が正しいことを保証できます。

これとは別軸で、監査対象によって、会計監査と業務検査の2種類にわけられます。前者は、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表が適正に作成されているかをチェックする監査で、後者は、お金や決算以外のすべての業務を対象に、業務が効率的かつ法令に則っておこなわれているかをチェックする監査です。

2つの軸の組み合わせによって、監査は4通りにわけられます。

  • ①内部監査×会計監査
  • ②内部監査×業務監査
  • ③外部監査×会計監査
  • ④外部監査×業務監査
区分 実施者 主な監査対象 主な目的 具体例
① 内部監査 × 会計監査 社内の内部監査部門 会計処理、帳簿、経理業務 会計上の誤りや不正の発見・防止 現金残高の確認、固定資産台帳と現物の照合、経費精算のチェック
② 内部監査 × 業務監査 社内の内部監査部門 業務プロセス、社内ルール、内部統制 業務の適正性・効率性の向上 購買手続の遵守状況確認、承認フローの検証、情報管理体制の確認
③ 外部監査 × 会計監査 公認会計士・監査法人 財務諸表、会計処理 財務諸表の適正性に対する保証 売上計上の妥当性確認、棚卸資産の実査、残高確認手続
④ 外部監査 × 業務監査 監査役、監査等委員、監査委員などの会社法上の監査機関 取締役の職務執行、法令遵守状況 不正・違法行為の防止、ガバナンス確保 取締役会議事録の確認、重要契約の閲覧、業務執行状況の調査

このうち実査と関係があるのはどれかというと、資産の実在性を確認する意味合いのある①と③です。①の内部監査は、③の外部監査と比べて実施頻度や対象範囲が厳格ではありません。

なお、内部監査を実施しておくと、企業の資産を公的に証明することができるため、企業としての信頼性が高まり、M&Aがスムーズに進みやすくなります。

「M&AのDD」と「M&AのDDにおける実査」の違い

続いて、「M&AのDDにおける実査」ですが、そもそもDD自体が、買収対象企業の実態やリスクを調査・分析する手続きであるため、「DD」と「DDにおける実査」の違いがわかりにくいので、まずはこの違いから詳しく解説します。

「DD」は日本語にすると「買収監査」や「企業精査」となり、調査・分析する内容によって、「財務DD」「税務DD」「法務DD」「人事DD」「ビジネスDD」などに細かくわけられます。

それぞれのDDは、たとえば財務DDであれば公認会計士やFAS(財務アドバイザリー)、税務DDであれば税理士、法務DDであれば弁護士など、各分野の専門家が担当して、主に次の方法で実施します。

  • ①資料レビュー
  • ②経営陣インタビュー
  • ③従業員ヒアリング
  • ④現地調査
  • ⑤Q&A(①~④を経て疑問点などを追加質問する)

このうち、「④現地調査」が実査に該当します。つまり、資料や経営陣インタビュー、従業員ヒアリングではわからないことについて、実際に現地に赴いて確かめるということになります。

また、前述の通り、買収後のトラブル回避やスムーズなPMIも大切な目的であるため、実査では、将来の収益力に関わる次のような事項については特に重点的に確認されます。

  • 設備の老朽化状況
  • 生産能力
  • 在庫管理体制
  • 安全管理体制
  • 業務オペレーションの効率性

など

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M&AのDDで実査がおこなわれる理由

M&AのDDで実査がおこなわれる理由は次の通りです。

帳簿・財務資料だけでは確認できないリスクの洗い出し

売り手企業には、帳簿や資料上の情報のみでは確認できないリスクが存在している可能性があります。決算書や会計帳簿には多くの情報が記載されていますが、実態を完全に把握できるとは限りません。

たとえば、次のようなことも書類だけでは把握が困難です。

  • 帳簿上は存在するが実際には存在しない在庫
  • 使用不能な設備
  • 長期間滞留している不良在庫
  • メンテナンス不足の機械設備

一方、実査をおこなうと、買い手は対象会社の実態を確認して、想定外のリスクを事前に把握することができます。

【実査で発覚しやすい問題の具体例】

実査では、たとえば次のような問題が発見されることがありますが、これらはいずれも、企業価値の減額要因となる可能性があります。

  • 帳簿数量と実在庫数量の不一致
  • 陳腐化した在庫の存在
  • 遊休設備や故障設備の存在
  • 無許可の増改築
  • 安全基準を満たしていない設備や危険な労働環境
  • 有害物質のずさんな管理や不法投棄による土壌汚染リスク
  • 現場管理体制の不備
  • 生産工程の属人化

など

特に、有害物質の取り扱いや土壌汚染、アスベストなどの環境・法令遵守に関する問題は、買収後に多額の浄化費用や賠償責任(簿外債務)を買い手が被るリスクがあるため、実査における重要なチェックポイントとなります。

除却・交換が必要な資産の洗い出し

耐久年数・耐用年数を過ぎている資産があったとしても、実査がおこなわれることがなければ、自社でも、除却や交換の必要性に気づかないケースがあります。つまり、実査をおこなうことによって、除却や交換が必要な資産があるかどうかを確認して、適切に対応できるということになります。

企業価値を正しく評価する

実査を含めたDDは、売り手企業の価値を正しく評価するために不可欠です。現金、棚卸資産、固定資産、有価証券、受取手形などのさまざまな資産に対して実査をおこない、一つひとつの実在性を確認することによって、財務価値を正確に評価することができます。

また、実査を通して、資産管理体制についても直接確認することによって、管理体制の有効性や脆弱性を把握できます。

不正を防止する

前述の通り、DDには、資料レビューや経営陣インタビュー、従業員ヒアリングも含まれますが、実査は、資料や話のみでの判断ではなく、直接、帳簿上の記録と実際の資産を照らし合わせる方法であるため、架空の資産計上や、資産の紛失・横領などの実態の有無を把握できます。

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実査の種類と対象

実査には次のような種類があります。

棚卸実査

企業が保有している、販売を目的とした商品や製品、製造途中の仕掛品、原材料などの棚卸資産について、実在しているかどうかを確認する手続きです。棚卸実査は、「実地棚卸」と呼ばれることもあります。

棚卸実施において特に重要なのは、帳簿との一致確認です。帳簿に記録されている在庫の数量と、実際に倉庫や店舗に保管されている在庫の数量を照合することが基本となります。なお、帳簿上の在庫数と実際の在庫数の差異がある場合、その原因を究明することが、在庫管理プロセスの改善につながります。

また、不良在庫や長期滞留在庫、破損品などがないかも調査対象となります。さらにM&Aの実務において特に注意すべきなのが、「他社資産の混入」です。倉庫内にある在庫のうち、取引先からの「預かり品」や「委託販売用の商品」などが自社資産としてカウントされていないか、物理的に明確な区分け(テープでの区画割りや張り紙など)がなされているかを厳しくチェックします。

棚卸実査を実施するためには、棚卸範囲の明確化および棚卸リスト・棚札の準備が不可欠です。また、店舗や倉庫における商品や製品の保管場所の見取り図を作成して、整理整頓しておくことも大切です。実査当日は、在庫を一つひとつ数えてリストに記録していきますが、この際、品名、型番、数量、状態などを細かく記録していく必要があるため、間違いのないよう、2人1組で実施するのが一般的です。

固定資産実査

固定資産実査では、企業が長期にわたって使用する工場設備、生産機械、車両、建物、土地などの現況を確認します。固定資産の所在場所や使用状況を把握して、不要になった固定資産や使用されなくなっている固定資産があった場合、適切に除却・売却することで、固定資産の有効活用につなげることも大切です。

また、設備の稼働状況や老朽化の程度によっては、将来的な更新投資が必要となり、企業価値に影響する場合があるので、細かく調査することが大切です。

固定資産実査を実施するためには、「現物台帳」と呼ばれる、固定資産の名称、取得日、取得価額、設置場所、管理番号などを記したリストを用意すると便利です。実査当日は、実際に固定資産が設置されている場所を回りながら、現物と台帳の内容を照合していきます。現物と台帳に差異がある場合、どんな差異があるのかを記録して、差異が生じた原因を調査します。

実査が完了したら、確認結果に基づいて固定資産台帳を修正することが大切です。

現金実査

会社が保有している現金を実際に数えて、帳簿残高と照合します。有価証券や小切手、手形などの、換金性の高い資産についても同時進行で確認する場合があります。

有価証券実査

会社が保有している株式や債券などの有価証券や、その保管状況、残高などを確認します。前述の通り、現金実査と併せておこなわれることがあります。なお、近年は株券不発行制度が普及しているため、現物は存在していないケースが多いです。その場合、証券保管振替機構の残高証明書などを通して確認します。

受取手形実査

会社が取引先から受け取った手形の現物を、帳簿残高と照合します。手形の支配人や期日などについても確認する必要があります。

会社が保有している現金を実際に数えて、帳簿残高と照合します。

預金実査

会社の預金残高を、通帳や預金証書と照合します。金融機関からの残高証明書を入手するなどして確認する必要がある場合もあります。

その他の実査

その他にも、企業の事業内容や監査の目的に応じて、さまざまな実査がおこなわれます。

たとえば製造業では、工場内の生産ラインや作業工程を確認することがあります。

主な確認ポイントは次の通りです。

  • 生産能力
  • 稼働率
  • 品質管理体制
  • 安全管理体制
  • 作業効率

など

業務の属人化が進んでいる場合は、買収後のリスクとして評価されることがあります。

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実査の流れと当日のスケジュール

実査は、一般的に次の流れで進められます

実査対象の選定と事前準備

実査をおこなうにあたっては、まず、どの資産・どの拠点を実査の対象とするのかを決定する必要があります。実査対象の選定は、資産の重要性やリスクなどを考慮しておこなわれます。

選定後は、監査人あるいは買い手企業の担当者が、売り手企業に対して、実査の対象となる資産について連絡します。

これを受けて、売り手企業は、実査の対象となるものを事前に準備しておきます。たとえば、次のようなものを用意する必要がある場合があります。

  • 現金出納帳
  • 有価証券
  • 在庫一覧
  • 固定資産台帳
  • 配置図
  • 工場レイアウト図

など

実査当日の立会いの進め方・記録の取り方

実査当日は担当者が立ち会い、調査担当者の質問に対応します。

一般的な流れは次のとおりです。

  • ①実査対象の説明
  • ②現場視察
  • ③現物確認
  • ④写真撮影
  • ⑤ヒアリング
  • ⑥質疑応答

先に詳しく解説した通り、実査では、あらかじめ用意しておいた帳簿の記録と現物の数量や状態が一致しているかどうかを確認します。確認した内容については、写真やチェックシートなどで記録されます。

実査では、資産の増減に不自然な点がないかなどもチェックします。また、実査対象の資産がどのように管理されているかについても確認することが大切です。たとえば、現金の保管方法、固定資産の管理体制などを確認します。場合によっては、金庫の中身や鍵の管理状況などまで確認することがあります。

なお、帳簿残高と実際の資産の数量や内容などに差異があり、その原因がわからない場合、⑥の質疑応答時に、原因を追究するための補助資料の提出が求められることがあります。

実査後のフォローアップと報告書の位置づけ

実査終了後は、発見事項を整理した報告書が作成されます。

報告書には、次のような事項についてまとめられて、最終的な企業鍵評価や買収条件の検討材料とされます。

  • 発見されたリスク
  • 改善が必要な事項
  • 追加確認事項

など

また、監査人から実査の結果についてのフィードバックや講評がおこなわれることもあります。

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売り手が実査に向けて準備すべきこと

ここからは、売り手企業が実査に向けて準備すべきことをさらに詳しくみていきます。

帳簿と現物の照合および修正

先に述べた通り、実査前には、一般的に、買い手企業担当者などから実査対象や実査日時について連絡があります。実査対象がわかったら、まずは売り手企業でも、帳簿に記載されている内容と現実が一致しているかどうかを確認します。

帳簿と現物に差異がある場合、原因を特定して、可能な限り修正しておくことが大事です。差異があることや、その原因がわかっているものの、修正が難しい場合に関しては、監査人に対してその理由を明確に説明できるよう準備しておくといいでしょう。

現物台帳の準備

現物台帳に、資産の名称や管理番号、それぞれの資産の保管場所・使用状況・管理担当者などを記録しておくと、現物との照合が極めてスムーズになります。現物台帳の用意は必ずしも必要というわけではありませんが、用意しておくと、実査の効率が飛躍的に向上するだけでなく、現物台帳を作成する過程において、会社の資産一つひとつを確認することになるため、帳簿と現物の照合作業が一度完結することになります。つまり、実査に向けての準備を強化することができます。

なお、「現物台帳」と似た名前の管理表に、固定資産を管理するための管理表である「固定資産台帳」がありますが、固定資産台帳は実査に活用することはできません。

なぜかというと、固定資産台帳は減価償却の計算・固定資産税の算出を目的とした管理表であって、現物台帳のように、資産の情報や管理場所などを記載したものではないためです。

2つの違いを改めて確認すると、次の通りです。

  • 現物台帳:企業の資産物品の保管場所や利用状況・状態などを把握するための管理表
  • 固定資産台帳:減価償却の計算・固定資産税の算出を目的とした管理表

なお、固定資産台帳は、固定資産を保有している企業は作成・管理する必要があるため、実査のために用意しなくても既に存在しているはずです。ただし、設立直後の会社や、パソコンや備品はリース利用していて固定資産がない会社に関しては、固定資産台帳が用意できていないか、あるいは不要です。

関係部署への周知

実査の日時や対象となる資産について、事前に社内の関係部署に周知しておくことによって、帳簿と現物の差異が生じるリスクを減らすことができます。なぜかというと、たとえば実査当日に経理担当者が記帳のために預金通帳を持ち出す可能性などがゼロではないためです。

他拠点の現金を確認

実査がおこなわれる主なタイミングは次の2パターンです。

  • ①決算日の翌日から数日後にかけてのタイミング
  • ②遠方の店舗や事業所に往査するタイミング

このうち②のタイミングであった場合、本社のみならず他拠点の現金の流れについても証明する必要が出てきます。そのため、本社以外のすべての他拠点のぶんも併せて、現金の流れを確認しておくことが大切です。

有価証券や手形、小切手などの資産の残高を確認

実査では、現金以外に、有価証券や手形、小切手などの資産も調査対象となる可能性があります。

なぜかというと、企業が金庫を有している場合、監査人は一般的に金庫の中身も確認するため、金庫内に有価証券や手形、小切手などの資産があると、現金と併せて確認されることになるためです。

そのため、金庫内の資産を含め、社内の資産の流れをきちんと把握しておくことが大切です。

従業員へのカモフラージュ(情報漏洩対策)の徹底

M&Aの検討は、クロージング(成約)まで極秘で進めるのが鉄則です。実査の際、見慣れない外部の専門家(買い手担当者や監査法人など)が複数名で現場を視察し、写真撮影や質問をおこなえば、従業員に「会社が買収されるのでは」「経営状態が悪いのでは」といった動揺を与えかねません。

そのため、実査を受け入れる際は、従業員に対する「カモフラージュ(正当な視察の理由)」を事前に買い手側とすり合わせておくことが不可欠です。実務上は、次のような名目で実施されるのが一般的です。

  • 取引先銀行による定期視察・融資審査
  • 業務改善・システム導入のための外部コンサルタントの調査
  • 保険会社による安全点検や環境調査

現場の従業員から不自然な質問をされた際にも、買い手・売り手双方の担当者が口裏を合わせて自然に対応できるよう、当日の設定や「設定上の肩書き(名刺をどうするか等)」を入念に打ち合わせておくことが大切です。

≪常に実査に備えておく≫

上記3つは、実際に実査がおこなわれることが決まってから進める準備ですが、もっとも大切なことは、「いつ実査がおこなわれても問題が明るみに出ることが内容、常に帳簿と現物の残高が一致するよう、管理体制を整えておくこと」です。

なお、現金実査において、メモ書きや借用書などによる仮払い金が現金残高に含まれていることが発覚した場合、会計処理の妥当性などについて質問を受けることがあります。こうした可能性があることを理解したうえで、日ごろから、答えにくい質問を受けるリスクを減らすよう心掛けることが大切です。

≪よくある指摘事項と事前対策チェックリスト≫

実査前には次の項目を確認しておきましょう。

□ 帳簿と在庫数量が一致している
□ 長期滞留在庫を把握している
□ 故障設備の状況を整理している
□ 固定資産台帳が最新化されている
□ 保守点検記録が保管されている
□ 現場の安全管理ルールが整備されている
□ 不要資産の処理方針を明確にしている
□ 写真撮影や現場見学に対応できる体制がある

【コラム】業界別・M&A実査で重点的に見られるポイント

実査で重視されるポイントは、対象企業のビジネスモデルや業種によって大きく異なります。売り手企業は、自社の業種に合わせた対策を講じておく必要があります。

製造業・建設業

機械設備の老朽化やメンテナンス状況はもちろん、労働安全衛生法に基づく安全対策(危険な作業環境がないか)や、有害物質・廃棄物の保管状況などの「環境・安全・コンプライアンスリスク」が最重要視されます。

小売業・飲食業・サービス業

店舗の清掃状況や設備の老朽化具合(将来的な修繕義務の有無)、バックヤードの在庫管理(賞味期限切れや不良在庫が放置されていないか)、スタッフの接客態度など、「現場のオペレーション水準と店舗資産の質」が直接的な評価対象となります。

IT・システム開発業

物理的な設備の老朽化よりも、サーバー室のセキュリティ管理(入退室記録や施錠状況)、機密書類の保管状況、PCや記録媒体が管理台帳と一致しているかなど、「情報セキュリティの実態と運用ルール」が厳しくチェックされます。

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実査結果が企業価値・売却価格に与える影響

実査の結果は、企業価値評価や最終的な売却価格に直接影響することがあります。

たとえば次のような場合、買い手側がリスクを考慮して価格引き下げを求めることがあります。

  • 不良在庫が大量に見つかった
  • 大規模な設備更新が必要だった
  • 管理体制に重大な問題があった

実査で問題が見つかった場合の価格調整・交渉の流れ

実査で問題が発見された場合、一般的には次のような流れで交渉が進みます。

  • ①買い手が問題点を整理
  • ②売り手が事実関係を説明
  • ③価格調整の必要性を協議
  • ④補償条項や表明保証条項を検討
  • ⑤最終契約条件を決定

問題の内容によっては価格減額ではなく、売り手による是正、補償条項の追加、エスクローの設定などで対応するケースもあります。

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M&AのDDにおける実査に関するFAQ

続いて、M&AのDDにおける実査に関するよくある質問とその答えをみていきます。

M&AのDDにおける実査がおこなわれるタイミング・期間は?

M&AにおけるDDは、一般的に、基本合意書締結後に実施されます。期間は1か月~3か月程度が目安で、M&AのDDにおける実査に関しても、当然、この期間中におこなわれます。

DDのうち、実査のみにかかる時間は、企業の規模や資産の種類、量、売り手企業側の準備状況などによって大きく異なります。半日~1日程度で終わることもあれば、数日~数週間を要することもあります。

誰が実査を実施しますか?

M&AにおけるDDの一環としておこなわれる実査に関しては、一般的に、買収を検討する企業の担当者や、その企業から依頼を受けた公認会計士やコンサルタントなどの専門家が実施します。

帳簿残高と実際の資産の数量や内容が一致しない場合、どうすればいいですか?

なぜ一致しないのかの原因を調査することが重要です。よくある原因は、記帳漏れや記帳ミス、あるいは資産の紛失や破損です。原因を特定出来たら、適切に会計処理をおこなって帳簿残高を修正します。実査当日、監査人によって差異が発見されることのないよう、事前に自社で一通りチェックしておくことが大切です。

なお、帳簿残高の修正をおこなった場合は、実査の際に、監査人に対して、差異が生じていた理由とその内容を説明する必要があります。

実査で問題が見つかったらどうなりますか?

問題の内容によっては、次のようなことが起こり得ます。

  • 買収価格の引き下げ
  • 表明保証条項の追加
  • 補償条項の設定
  • クロージング条件の追加
  • M&Aの中止

ただし、先に解説した通り、問題がないかどうかを事前に自社で確認しておくことが重要で、自社で発見して修正・正直に報告しておけば、大きな問題にはならない可能性が高くなります。

M&AのDDにおける実査と棚卸立会(たなおろしたちあい)の違いは何ですか?

M&AのDDにおける実査と棚卸立会の概要は次の通りです。

  • 実査:設備・在庫・業務運営状況などを総合的に確認する現地調査
  • 棚卸立会:在庫数量のカウント方法や結果を確認するための調査

棚卸立会は実査の一部として実施される場合もありますが、実査はより広範囲な資産の検証を指す言葉だと理解しておけばいいでしょう。

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実査は買い手にとっても売り手にとっても重要

実査は単なる現場確認ではなく、買い手が対象会社の実態を把握するための重要なDD手続きです。一方、売り手にとっても、事前にしっかりと準備して、透明性の高い情報開示をおこなうことは円滑なM&A成立につながるため、メリットは大きいといえます。双方にとって納得のいく結果へと導くためにも、正しい手続きで実施するようにしましょう。

執筆 ジョブカンM&A編集部

ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。


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