「まさか自分のクリニックを売ることになるとは思っていなかった」
そう話す院長が、ここ数年で急増している。
売却を決めたのは、経営が苦しかったからではない。
むしろ、地域に根ざして黒字を保ちながら、それでも「次の担い手」を見つけられなかったからだ。
医療業界のM&A(エムアンドエー=企業や事業の合併・買収)は、今まさに転換点を迎えている。
この記事では、クリニック売却が急増している背景と、売却の流れ、失敗しないためのポイントをわかりやすく解説する。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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なぜ今、クリニックのM&Aが増えているのか
「廃業」と「承継」の分岐点に立つ院長たち
帝国データバンクの調査によれば、2025年の医療機関の倒産・休廃業・解散の合計件数は889件と、過去最多を更新した(出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」)。
2024年は786件だったため、わずか1年で13%以上増えた計算になる。
この数字の裏にあるのは、「経営破綻」だけではない。
むしろ主役は、黒字なのに閉院せざるを得ない診療所だ。
診療所に勤務する医師の平均年齢は60.4歳。
病院勤務医(47.6歳)と比べて約13歳高い。
院長自身が高齢化し、体力的・精神的な限界を感じ始めても、「自分の代で終わりにしたくない」という思いを抱えている院長は多い。
しかし、親族に医師がいない、子どもの専門科が異なる、あるいは後を継ぐ意思がない——。
医療業の後継者不在率は、無床診療所で89.3%にのぼるという調査もある(出典:日医総研調査)。
ほぼ9割の診療所が、院内に後継者を持っていない計算だ。
M&Aは、この「廃業か、承継か」という二択に、第三の出口を提供している。
売り手だけでなく、買い手も変わってきた
数年前まで、クリニックM&Aの買い手は同じ専門科の医師か、地域の病院グループに限られていた。
今は違う。
医療法人グループによる複数クリニックの傘下化、医療系スタートアップの参入、投資ファンドを背景にした運営会社の台頭——。
買い手の裾野が広がったことで、売り手となるクリニックに選択肢が生まれた。
ただし、売り手(売却希望クリニック)が急増したことで、2026年現在は明らかな「買い手市場」へとシフトしつつある。
都市部の駅近物件や、収益性の高い皮膚科・眼科、スタッフが定着している内科などには買い手が殺到し高値がつく一方で、老朽化が進んだクリニックや院長の属人的なスキルに依存しすぎている診療所は、買い手がつかない「案件の二極化」が鮮明になっている。
売りたい案件は増えているのに、「自院を高く評価してくれる条件の合う買い手」を見つけることが、M&A成立の最大のボトルネックになっているのが現状だ。
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「新規開業」より「承継」が選ばれる時代に
1億円超のリスクを背負う開業
かつて、医師のキャリアの「上がり」は開業だった。
勤務医として経験を積み、40代で独立して自分のクリニックを持つ——。
そのロールモデルが、静かに崩れ始めている。
理由はシンプルだ。新規開業のコストが、かつてとは比べものにならないほど膨らんでいる。
建築費の高騰、医療機器の値上がり、IT環境の整備費用。
内科系クリニックでも、開業に1億〜2億円を要するケースは珍しくない。
そして2026年4月からは、新たな規制が加わった。
2026年4月施行:開業規制という大きな壁
改正医療法が2025年12月に成立し、2026年4月から外来医師過多区域(都市部など医師が集中している地域)での新規開業に実質的な規制がかかるようになった。
具体的には、外来医師過多区域での開業を予定する場合、開業の6カ月前に都道府県への届け出が義務づけられる。
届け出後、地域で不足している医療機能(在宅医療、休日・夜間の初期救急など)の提供を求められる。
これに応じない場合、保険医療機関としての指定期間が通常の6年から3年に短縮されるペナルティが科せられる。
要するに、「都市部で好きなエリア・好きな診療科で開業する」という自由度が、大幅に下がった。
「既存クリニックを引き継ぐ」という合理的な選択
こうした状況の変化を背景に、「新規開業」ではなく「承継開業(既存クリニックをM&Aで取得して開業する)」を選ぶ医師が増えている。
承継開業には、次のような利点がある。
患者にとっても、「かかりつけのクリニックが突然閉院する」よりも「先生が代わっても診療を続けてくれる」方が望ましい。
売り手・買い手・患者の三者にとって、承継は合理的な選択になってきている。
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2026年診療報酬改定がクリニック経営に与える影響
「現状維持」では立ち行かなくなるクリニックが出てくる
2026年6月には診療報酬の改定が施行される。
改定の方向性はおおむね「在宅医療の充実」と「機能分化」だ。
訪問診療に力を入れているクリニックにとっては、一部加算の増点という追い風がある。
一方、「外来患者を診るだけ」の従来型クリニックにとっては、追加の算定機会が限られる改定になる可能性もある。
改定の影響は点数の増減だけではない。
オンコール対応、人員配置、ICT整備への対応が新たに求められ、キャッシュフローへの波及は中長期にわたる。
「今のやり方」を続けることのリスク
診療報酬改定のたびに、「何も変わらなければじわじわ厳しくなる」という構造は変わっていない。
加えて、人件費の上昇、医療材料費の高騰、光熱費の増加——。
外部環境のコスト上昇を、診療報酬の微増で吸収しきれなくなっているクリニックは多い。
「まだ黒字だけど、5年後はわからない」という院長の感覚は、数字的に見ても理にかなっている。
そのタイミングで売却を検討し始めることは、むしろ経営判断として正しい。
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クリニックM&Aの流れ——売却を決めてから完了まで
クリニックの売却を決めてから完了するまで、一般的に6カ月〜1年程度かかる。
「あっという間に終わる」ものでも、「何年もかかる」ものでもない。
以下に、標準的な流れを示す。
ステップ1:相談・仲介会社の選定(1〜2カ月)
まず、M&A仲介会社やアドバイザーに相談する。
医療業界の規制に精通した専門家を選ぶことが重要だ。
この段階では、「売却を決定した」わけではなく「話を聞いてみた」段階でも問題ない。
守秘義務契約(NDA)を結んだうえで相談できる。
ステップ2:企業価値の算定(1〜2カ月)
仲介会社と協力して、クリニックの適正な「企業価値(売却価格の目安)」を算出する。
一般的な売却相場は、「時価純資産 + 営業利益の1〜3年分(のれん代)」で計算されることが多い。ブランド・患者基盤・立地などの無形価値がのれん代として評価される。
また、個人クリニック(事業譲渡)と医療法人(出資持分譲渡など)では、売却スキームや適用される税率が異なり、手元に残る金額が大きく変わる点も極めて重要だ。
「いくらで売れるか」は、診療科や自費診療の割合、スタッフの定着率などによって大きく変動する。この段階で「のれん代が評価され、思ったより高い」と喜ぶ院長もいれば、「設備老朽化により純資産割れで評価された」と厳しい現実を知る院長もいる。
ステップ3:買い手候補の探索・マッチング(2〜4カ月)
仲介会社が買い手候補を探す。
「どんな買い手に引き継いでほしいか」という希望は、この段階でしっかり伝えておく。
患者・スタッフへの配慮、診療科の継続、地域への責任——。
金額だけでなく、理念的な共感も条件に入れてよい。
ステップ4:条件交渉・基本合意(1〜2カ月)
買い手候補と面談し、条件を詰める。
金額・引き渡し時期・院長の引継ぎ期間(顧問契約など)・スタッフの処遇——。
基本合意書(LOI)が締結されたら、次のデューデリジェンスへ進む。
ステップ5:デューデリジェンス(精査)(1〜2カ月)
デューデリジェンス(DD=買い手が売り手の実態を精査するプロセス)が行われる。
財務、法務、医療機器の状態、スタッフの雇用条件、患者数の推移など、細部まで確認される。
この段階でトラブルが発覚すると、条件の変更や破談につながることもある。
事前に「見られて困るもの」を整理しておくことが重要だ。
ステップ6:最終契約・クロージング
最終的な売買契約を締結し、対価が支払われる。
医療法人の場合、都道府県への認可申請が必要になるため、クロージング後も事務手続きが続く場合がある。
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クリニック売却で失敗しないための3つのポイント
ポイント1:「早すぎる」はない、「遅すぎる」は存在する
クリニック売却でもっとも多い後悔は、「もっと早く動けばよかった」だ。
院長自身の健康状態が悪化してからでは、交渉力が落ちる。
スタッフが辞め始めてからでは、クリニックの価値が下がる。
「まだ元気なうち」「まだ黒字なうち」に動き始めることが、有利な条件での売却につながる。
ポイント2:「金額」だけで買い手を選ばない
売却価格は重要だが、それだけで買い手を選ぶのは危険だ。
患者・スタッフへの説明責任、地域医療の継続性——。
「あの先生が売ったクリニックは、すぐ別の運営になった」という話は、院長のレガシーを傷つける。
引き継いだ後の診療方針、スタッフの雇用継続方針についても、条件に織り込むことができる。
ポイント3:秘密保持を徹底する
売却を検討していることが早期に漏れると、スタッフの不安、患者の離脱、地域の噂につながる。
仲介会社との守秘義務契約(NDA)は必ず締結し、情報共有の範囲を明確にしておく。
「検討中」の段階では、院内に知らせる必要はない。
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「まだ早いかも」と思っているうちに動くべき理由
「まだ若い」「まだ黒字」「まだ元気」——。
売却を踏み切れない院長の多くは、この「まだ」を理由に動き出せずにいる。
しかし、M&Aの世界では「最良のタイミング」は後からしかわからない。
準備をしないまま時間が経つと、選択肢は確実に狭まる。
#### 現実的な問いかけ
もし一つでも「わからない」と感じたなら、情報収集を始めるだけでも意味がある。
相談することは「売却を決める」こととイコールではない。
「選択肢を知る」ことが、最初の一歩だ。
#### M&Aを「失敗」と感じる院長はほぼいない
実際に承継M&Aを経た院長の多くが、「思い切ってよかった」と話す。
患者へのサービスが継続された安心感、老後の生活設計が整った現実、そして「次の世代に渡せた」という充実感——。
クリニックを「たたむ」のではなく「継いでもらう」ことは、医師としてのキャリアの締めくくりとして、誇れる選択だ。
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まとめ:「今」が情報収集の最適タイミング
| 動向 | 内容 |
| 後継者不在率 | 無床診療所の89.3%が後継者不在(日医総研調査) |
| 廃業・倒産件数 | 2025年は889件と過去最多(帝国データバンク) |
| 開業規制 | 2026年4月から外来医師過多区域での新規開業に制限 |
| 診療報酬改定 | 2026年6月施行、機能分化・在宅シフトが加速 |
| 買い手の変化 | 医療法人グループ・運営会社の参入で選択肢拡大 |
| 承継開業の増加 | 買い手医師が「新規開業」より「承継」を選ぶ傾向 |
クリニックの売却・承継を「いつか考えること」にしていると、環境はあなたを待ってくれない。
まずは現状を話してみること——それだけで、見える景色が変わる。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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