プロラタ方式とは? 事業再生・リスケ交渉を成功に導く定義・計算・実務上の全知識

企業が資金調達にあたって複数の金融機関から借入する場合、「プロラタ方式」を活用すると、各金融機関への返済条件を公平に保ちやすいといわれています。具体的にどのような方式であるのか、デメリットや注意点はあるのかなどを詳しく解説していきます。

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目次
  1. プロラタ方式とは?
  2. プロラタ方式が採用されるシーンとは?(事業再生・M&Aにおける位置づけ)
    1. M&A取引(事業再生型)におけるプロラタ方式
  3. プロラタ方式の種類
    1. 残高プロラタ
    2. 信用プロラタ
      1. 信用プロラタが採用されるケースはあまりない
  4. プロラタ方式のメリットは?
    1. 信用を得やすい(=融資を受けられる可能性が高くなる)
    2. 新規に取引する金融機関からも借入できる可能性が高くなる
    3. 事業継続のための新規融資(DIPファイナンス等)を受けやすくなる
  5. プロラタ方式のデメリットや注意点は?
    1. 常に全行に平等である必要がある
    2. 返済は全行一致で開始しなければならない
    3. 【残高プロラタ方式の場合】担保なしの金融機関に不利となる場合がある
    4. 【信用プロラタ方式の場合】担保ありの金融機関に不利となる場合がある
    5. リスケジュールの慎重な交渉が必要
  6. プロラタ方式の採用手順
  7. プロラタ方式で返済したい場合、交渉のタイミングを逃さないよう注意が必要

プロラタ方式とは?

プロラタ方式とは、2社以上の金融機関からの借入金がある場合に、それぞれの金融機関からの借入残高や担保状況に比例した元金の返済金額を設定して、返済していく方法のことです。
この方式が適用されるのは元金の返済であり、利息については通常、別途の交渉が必要です。リスケジュール交渉では、元金返済を一時停止する元金猶予(リスケ)の期間中に、利息のみを支払い続けるケースが一般的です。
なお、名前のもとになっているのは、「比例分配できる」を意味する英単語「proratable(プロラタブル)」です。

プロラタ方式が採用されるシーンとは?(事業再生・M&Aにおける位置づけ)

プロラタ方式は、とりわけ事業再生において重要な役割を果たします。事業再生とは、危機的な経営状況にある企業が、会社を清算することなく、事業を立て直すために包括的な取り組みをおこなうことで、この一環として、金融機関に対して借入金の返済を一時的に停止してもらうことになります。
これをリスケ(リスケジュール)といいますが、リスケに応じてもらいながらも、金融機関との協力関係を維持するためには、各金融機関に対して公平な返済計画を提示する必要があります。つまり、プロラタ方式を活用して返済計画を立てることで、金融機関からの継続的支援を受けやすくなるというわけです。
そのほか、会社更生や民事再生などの法的整理が必要なシーンにおいても、プロラタ方式が採用されることがあります。この場合、総債権額から担保権によって担保された債権額を控除した金額を基準として、プロラタ方式によって債権放棄の金額を決定することが一般的です。
つまり、逆にいうと、企業の業績が悪化していない状況ではプロラタ方式が用いられることは基本的にないということです。メインバンクから融資を断られたうえ、他の金融機関からも融資を拒まれているような状況において検討すべき手段であって、メインバンクのほうから、「単独での追加融資は難しいが、他行も融資に加わってプロラタ方式で返済する形でなら融資が可能」と提案されることもあるでしょう。

M&A取引(事業再生型)におけるプロラタ方式

特に、事業再生型のM&Aにおいて、このプロラタ方式は重要な意味を持ちます。会社更生や民事再生といった法的整理、あるいは私的整理の過程でM&Aが実施される場合、既存の金融債権者に対する弁済や債権放棄の割合を決定するにあたり、プロラタ方式(特に信用プロラタ)が適用されることがあります。

買い手(スポンサー)側は、DD(デューデリジェンス)において、このプロラタ方式に基づいた債権者への対応方針を検討し、事業譲渡契約や株式譲渡契約の前提条件として整理する必要があります。売り手企業は、M&Aによる再生計画の策定にあたり、金融機関の同意を得るためにもプロラタ方式による公平な計画を提示することが不可欠です。

プロラタ方式の種類

プロラタ方式には、主に「残高プロラタ」と「信用プロラタ」の2種類があります。それぞれの方式の概要と計算方法は次の通りです。

残高プロラタ

「残高プロラタ」とは、借入している金融機関ごとの借入残高をベースにして、返済金額を決定する方式です。借入残高に比例して返済金額を決定するため、借入残高が多額であるほど返済金額も多額になります。
たとえば、金融機関A、金融機関B、金融機関Cの3社から、それぞれ、5,000万円、4,000万円、1,000万円の合計1億円の借入をおこなっていて、現状、毎月の返済に充てられる予算が500万円の場合、各金融機関への毎月の返済額は次の表の通りとなります。

借入残高 総借入残高に対する割合 毎月の返済額
金融機関A 5,000万円 50% 250万円
金融機関B 4,000万円 40% 200万円
金融機関C 1,000万円 10% 50万円
合計 1億円 100% 500万円

信用プロラタ

「信用プロラタ」とは、借入している金融機関ごとの借入残高のうち、“無担保部分の借入残高”をベースにして、返済金額を決定する方式です。債権回収の保証がない、信用度が低い無担保部分の返済を優先することになるため、たとえば、金融機関Aと金融機関Bを比べたとき、借入残高は金融機関Aのほうが大きいとしても、各金融機関から借入している“無担保部分の借入残高”が金融機関Bのほうが大きければ、金融機関Bへの毎月の返済金額のほうが大きくなる可能性があるということです。
たとえば、金融機関A、金融機関B、金融機関Cの3社から、それぞれ、5,000万円、4,000万円、1,000万円の合計1億円の借入をおこなっていて、かつ、“無担保部分の借入残高”が下記の表の通りで、現状、毎月の返済に充てられる予算が500万円の場合、各金融機関への毎月の返済額は下記の表の通りとなります。

借入残高 担保額 借入残高のうち無担保額 総借入残高に対する割合 毎月の返済額
金融機関A 5,000万円 3,000万円 2,000万円 40% 20万円
金融機関B 4,000万円 2,000万円 2,000万円 40% 200万円
金融機関C 1,000万円 0円 1,000万円 20% 100万円
合計 1億円 5,000万円 5,000万円 100% 500万円

信用プロラタが採用されるケースはあまりない

プロラタ方式を採用するにあたって、2種類のプロラタ方式のうち、信用プロラタが選択されることはほとんどありません。なぜかというと、担保として差し入れられるものの例としては、株式証券や不動産、自動車などがありますが、これらの評価額を算出するのが難しいためです。
これらのような担保の価値は、購入する人や売却時期によって変動するため、金融機関や返済者などの関係者に、担保の評価について納得してもらうハードルは高いといえます。
加えて、調整した返済金額に対して、対象債権者全員の一致を得る必要があり、いずれかの金融機関が反対した時点で合意形成できないことも、信用プロラタが採用となりにくい理由です。

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プロラタ方式のメリットは?

プロラタ方式の主なメリットは次の3点です。

  • 信用を得やすい(=融資を受けられる可能性が高くなる)
  • 新規に取引する金融機関からも借入できる可能性が高くなる
  • それぞれ詳しくみていきましょう。

    信用を得やすい(=融資を受けられる可能性が高くなる)

    金融機関からすると、同じ企業に貸付している金融機関の動向を把握できるということになるため、返済に関して安心してもらいやすいといえます。また、プロラタ方式を採用していることを伝えられた時点で、他にも貸付している金融機関があっても、自分のところの返済が後回しにされることがないため、債券未回収のリスクが抑えられるということになります。

    新規に取引する金融機関からも借入できる可能性が高くなる

    借入したすべての金融機関に対して公平に返済する方式であるため、金融機関からみると、後回しにされて返済がストップするリスクがないことから、新規取引先でも融資してくれる可能性が高いといえます。

    事業継続のための新規融資(DIPファイナンス等)を受けやすくなる

    プロラタ方式による返済公平性の確保は、既存の借入に対する姿勢を示すものです。事業再生においては、多くの場合、運転資金などの新規融資が必要となりますが、既存債権者がプロラタ方式による公平な返済計画に合意することで、新規融資に応じる金融機関も現れやすくなります。法的整理の文脈では、この新規融資はDIPファイナンスと呼ばれ、既存の債権よりも優先的に弁済される「スーパープロラタ」という仕組みが適用されることもあります。

    プロラタ方式のデメリットや注意点は?

    デメリットおよび注意点は次の通りです。

  • 常に全行に平等である必要がある
  • 返済は全行一致で開始しなければならない
  • 【残高プロラタ方式の場合】担保なしの金融機関に不利となる場合がある
  • 【信用プロラタ方式の場合】担保ありの金融機関に不利となる場合がある
  • リスケジュールの慎重な交渉が必要
  • それぞれ詳しくみていきましょう。

    常に全行に平等である必要がある

    リスケジュールを経てプロラタ方式を採用するためには、借入を受けているすべての金融機関から同意を得る必要があります。さらに、各金融機関に対して平等となる条件を提示し続ける必要があります。

    返済は全行一致で開始しなければならない

    それぞれの金融機関への返済は、同じタイミングで開始する必要があります。金融機関Aは11月から、金融機関Bは12月から、などと開始のタイミングが異なってはいけません。
    なお、プロラタ方式を採用して借入金を返済している途中で、新たに借入をおこなう必要が生じた場合はその限りではありません。そもそも新たに借入した時点で、当然ながら、既に返済の開始タイミングは同じではありません。
    ただし、追加融資が必要になった場合でも、一部の金融機関が反対すると実現が難しいため、簡単に融資条件を変更できるというわけではありません。

    【残高プロラタ方式の場合】担保なしの金融機関に不利となる場合がある

    残高プロラタ方式の場合、担保なしの金融機関目線でみると、融資先が返済途中で破産した場合、借入残高の全額回収が不能になる可能性があります。

    【信用プロラタ方式の場合】担保ありの金融機関に不利となる場合がある

    信用プロラタ方式の場合は、担保ありの金融機関目線でみると、融資先が返済途中で破産した場合、多くの借入残高が未回収のままとなるケースがあります。担保評価額が期待値よりも低い場合にも、不利益を被る可能性があります。

    リスケジュールの慎重な交渉が必要

    リスケジュールが必要となった場合、各金融機関からの合意を得られるよう、税理士や弁護士などの助言のもとで経営改善計画書などを作成して、適切な返済額を計算することが大事です。

    プロラタ方式の採用手順

    プロラタ方式で返済をおこないたい場合、次のステップを踏む必要があります。

  • 税理士などの専門家に各金融機関からの借入残高を確認してもらう
  • 弁護士などの専門家同席のもと、借入先である各金融機関にプロラタ方式での返済を交渉する
  • 各金融機関と協議を重ねて、返済計画を固めていく
  • 借入しているすべての金融機関に対して一斉に返済をスタートする
  • プロラタ方式を導入するためには、税理士や弁護士などの専門家の協力は欠かせません。そのため、まずは信頼できる専門家を見つけることからはじめられるといいでしょう。

    プロラタ方式で返済したい場合、交渉のタイミングを逃さないよう注意が必要

    前半で解説した通り、プロラタ方式は一般的に、業績が落ちて、これまで通りに返済し続けることが難しくなった企業が用いるものです。しかし、資金繰りが厳しくなってきた段階ですぐに各金融機関にプロラタ方式を提案することなく、まずは一部の金融機関の返済を一時停止してしまった場合などは、その後、プロラタ方式を提案しても、金融機関から反対される可能性があります。そうならないよう、金融機関にプロラタ方式を提案する場合、なるべく早い段階で行動することが大切ですよ。

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    執筆 ジョブカンM&A編集部

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