「譲渡制限株式」とは、名前の通り、譲渡制限を設けている株式のことをいいます。なぜ制限を設けるかというと、自社にとって不都合な第三者に株式が譲渡されるのを防ぐことができるからです。しかし、譲渡制限株式を保有する株主が死亡した場合、相続がおこなわれることになります。この際、どのような手続きが必要になるのかを解説していきます。
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譲渡制限株式とは?
譲渡制限株式とは、前述の通り、譲渡制限が設けられている株式のことです。原則として、株式は自由に譲渡することができますが、「株式譲渡には承認が必要である」と定款に記載している場合、譲渡を制限できるのです。譲渡制限株式を譲渡するにあたっては、取締役会や株主総会、または定款に記載している場合は代表取締役などからも、承認を得る必要があります。
このことは、会社法第2条17号に、次のように定められています。
「譲渡制限株式:株式会社がその発行する全部または一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について、当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう」
M&Aの買い手・売り手にとっての譲渡制限株式
譲渡制限株式は、非上場企業のM&Aにおいて常に論点となる重要な要素です。M&Aの買い手と売り手は、それぞれ以下の点に関心を持つため、単なる相続手続きとしてだけでなく、M&A戦略上の論点として理解しておく必要があります。
【売り手の視点】
M&Aによる会社売却(株式譲渡)を実行する際は、譲渡制限を解除する必要があります。これにより、売却プロセスや時期が、取締役会などの承認機関の意向に左右されることになります。
【買い手の視点】
M&A完了後も、経営権の安定化や将来の事業承継対策として、譲渡制限を維持・強化すべきかが検討されます。また、潜在的な株主リスク(売渡請求権の有無など)をデューデリジェンス(DD)で徹底的に調査します。
譲渡制限株式の株主が死亡した場合、株式発行企業の承認がなくても相続できる
冒頭で述べた通り、譲渡制限株式を保有する株主が死亡した場合、株式は相続されることになります。しかも、株主の死去に伴う相続の場合、株式を発行した会社の承認を得なくても、相続人に譲渡(相続)されることになります。
なぜかというと、株主の死去に伴い相続が発生した場合、相続人の株主名義書換(株式移転)は、「株式譲渡による株式の移転」に該当せず、民放第896条の「相続人は、相続開始の時点から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」が適用されることとなるためです。
なお、相続人が複数いる場合、株式はいったん相続人に共有されることとなりますが、後に遺産分割によってそれぞれの相続財産帰属が決定したら、譲渡制限株式を相続した相続人が新たな株主となります。このことは、民放第898条において定められています。
【譲渡制限株式の売渡請求制度】相続された譲渡制限株式を株式発行企業は買い取ることができる
前述の通り、譲渡制限株式の株主が死亡した場合、譲渡制限株式が相続人に相続されることを、株式発行企業は阻止できません。
ただし、譲渡制限株式が相続人に相続された後、相続人に対して、相続した譲渡制限株式を売り渡すよう請求することは可能です。
しかしそのためには、予め定款に、売渡請求に関する事項を記載しておく必要があります。このことは、会社法第174条に、次のように定められています。
「株式会社は、相続その他の一般承継によって譲渡制限株式を取得した者(相続人)に対して、当該株式の売渡請求が可能な旨を定款で定めることができる」
なぜこのような売掛請求制度が設けられたかというと、次の2点を可能にするためです。
相続発生時に相続人が複数いる場合などに、株主数増加に伴う株式離散を防止する
経営状況を熟知している者に株式を集中することによって、企業経営や株主総会決議をより円滑におこなう
【譲渡制限株式の売渡請求制度】定款の定め方
定款に、譲渡制限株式の売渡請求制度を定めたい場合、「当社株式を譲渡により取得する場合は取締役会の承認を受ける必要がある」などと記します。
取締役会を設置していない企業であれば、承認期間を株主総会や代表取締役に定めても構いません。
加えて、売掛請求の対象となる株式についても定款に記したうえで、「相続その他の一般承継によって当社の株式を取得した者に対して、当社は当該株式の売渡請求ができる」といった内容も定めます。
なお、この規定は、相続などによる一般承継が発生した後に設けることもできます。ただしその場合、株主総会決議での承認が必要となります。
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譲渡制限株式の売渡請求に関する注意点
譲渡制限株式の売掛請求に関しては、次のことに注意する必要があります。
売掛請求しない場合、相続人を新たな株主として扱わなくてはならない
前述の通り、定款に定めがあれば、相続人の合意がなくても、企業は相続人の保有する株式を買い取ることができます。ただしこの際、企業側は買取人を指定できません。また、相続人に対して売渡請求をおこなわない場合は、企業は相続人を新たな株主と扱う必要があります。
売掛請求は相続発生から1年以内が原則
企業が相続人に対して売掛請求を実施できる期限は、原則として、企業が相続発生を“認識した”日から1年以内とされています。
ただし、詳しくは後述しますが、相続人が複数いて、遺産分割協議後に株式の名義書換が済んでいない場合、企業は相続の発生を認識していても、企業は相続人を新たな株主として扱う必要はありません。
売掛請求実施日から20日以内に、譲渡制限株式の売買価格を裁判所に申し立てする必要がある
なお、譲渡制限株式の売買価格は、原則として、企業と相続人との協議によって決定されます。企業および相続人は、売渡請求がおこなわれた日から20日以内に、裁判所に対して価格決定の申し立てをおこなうことができます。裁判所は、売渡請求がおこなわれた時点での資産状況やその他の事情を考慮したうえで、売買価格を決定することになります。
売買価格の協議がまとまらず、申し立てもなしで20日経過すると売渡請求の効力が失われる
なお、売買価格の協議がまとまらず、裁判所に申し立てすることもないまま20日が経過すると、売渡請求の効力は失われてしまうので、期限内に協議と申し立てを完了できるようスケジュールを組むことが必要です。
売買価格は分配可能利益の範囲内である必要がある
企業が売掛請求によって譲渡制限株式を買い取ることは、会社法の定める「自己株式の買取」に該当します。すなわち、財源規制の対象となるため、企業が売掛請求によって譲渡制限株式を買い取ることは、会社法の定める「自己株式の買取」に該当します。すなわち、財源規制(会社法第461条)の対象となるため、会社法における、財源規制に関する定めを守る必要があります。
具体的には、会社法第461条第1項第5号で、「自己株式取得の対価総額は分配可能額を超えることはできない」と定められているため、売掛請求は、企業の財務状況によっては実行できない可能性がある、という点が、M&Aの買い手によるDDで厳しくチェックされることになります。売掛請求の可否が、企業の資金繰りや借入状況に影響を与えるためです。
また、会社法第461条第1項第5号で、「自己株式取得の対価総額は分配可能額を超えることはできない」と定められているため、売掛請求は、分配可能利益の範囲内でおこなわなければならないということになります。
「分配可能額」とは、株式会社の最終的な貸借対照表の純資産に計上された、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額から、自己株式の帳簿価格と早期に分配済の価額を差し引いた金額のことです。
相続人が複数いる場合、遺産分割協議および名義書換が完了するまで売掛請求できない
相続人が複数いる場合、譲渡制限株式を相続するためには、「①遺産分割協議の実施」「②遺産分割協議書の作成」「③名義書換」が必要となります。
遺産分割協議とは、複数の相続人が適正かつ公正に遺産を分割するための話し合いを意味します。
遺産分割協議がおこなわれるまでは、譲渡制限株式は相続人全員の共有財産となります。また、名義書換がおこなわれない限り、譲渡制限株式は売却・処分できないことになっています。
「③名義書換」まで完了している場合、企業が、新しく株主となった者の権利行使を認めることで、相続が完了して、売掛請求可能な状態となります。
相続人間で争いが勃発しているなどの理由で、「①遺産分割協議の実施」がなされていない場合、株式は共有状態ということになりますが、株式が共有状態にある場合、持分割合によって行使が決まり、そのことを企業に対して通達すれば、権利を行使することができます。
ただし、「②作成した遺産分割協議」の提出がなく、「③名義書換」もおこなわれていない状態で、相続人と名乗る者が権利行使を申し出た場合は、企業はまず、該当株式の権利行使者が適切に指定されているのかを確認する必要があります。
譲渡制限株式を相続するための名義書換の方法
譲渡制限株式の名義書換をおこなうにあたっては、次の4種類の書類を用意する必要があります。
遺言書は、正式に検認されたもののみが有効です。
印鑑証明書は、移管される相続人を含むすべての相続人の分が必要です。
これら書類を用意したうえで、株式を発行した企業の担当部署、もしくは企業が定款で定めた信託会社などの株主名簿管理人に対して、名義書換の手続き請求をおこないます。
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企業が、譲渡制限株式の相続人から株式を買い取る3つの方法
前述の「譲渡制限株式の売渡請求」は、企業が相続人から当該株式を買い取る方法ですが、当該株式の買取方法はこの方法を含めて3つあります。具体的には次の3つです。
詳しくみていきましょう。
相続人から強制的に買い取る
こちらは、前述の「売渡請求」であるため解説は割愛します。
相続人との合意により買い取る
相続人と企業が協議の機会を持ち、企業と関係のある第三者が買い取る方法です。この方法は、次の2つの要件を満たしている場合に限って有効です。
①非公開会社である
②相続人が株主総会にて株式の議決権を行使していない
企業が売渡希望の株主から買付けする
企業が売渡希望の株主から買付けする場合、誰から株式を買い取るかを決めずに、売渡希望の株主から自己株式を取得することになります。ただし、どれくらいの買取の申し出があるかはわかりません。つまり、場合によってはかなりの資金が必要になるということです。
譲渡制限株式に関する相談は弁護士または司法書士へ
譲渡制限株式に関する手続きについて相談したい場合、弁護士または司法書士が適任です。弁護士は、会社法に基づく承認請求や譲渡が承認されない場合の対応など、法的な判断や手続きの進め方についてアドバイスしてくれます。一方、司法書士は登記手続きの代行を担ってくれます。
株式の相続時リスクを避ける対策は早めに講じておこう
株主の死去により株式が相続されると、場合によっては経営の意思決定が遅れるリスクが生じることもあります。それを避けるためにも、譲渡制限を設けておくことは得策と考えられますが、譲渡制限株式をうまく活用するためには、ここまで解説してきた通り、定款に売渡請求に関する定めを盛り込むことが不可欠です。いざというときに効力を発揮できずに困ることがないよう、今のうちに一度、自社の定款を確認しておくことをおすすめします。
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この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
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