M&Aを進めるうえでは、情報漏洩を防ぐことが非常に大切です。しかし、リスク対策を徹底していたはずが、どこかから情報が洩れて、M&Aが計画通りに進まなくなる可能性はゼロではありません。そこで今回は、M&Aの情報漏洩を防ぐための有効な対策や、従業員に情報を開示する適切なタイミングについて解説していきます。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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なぜM&Aは従業員にバレてはいけないのか?|リスクと原因
まずは、M&Aを進めていることが従業員にバレてはいけない理由と、従業員にバレる主な原因について解説していきます。
情報漏洩が招く「M&A破談」と「従業員の離反」リスク
M&Aは本来、水面下で進めるものです。情報が外に出ると、買い手は次のように判断します。
結果として、条件悪化 or 撤退(破談)となる可能性が高くなります。
実際に起きる悪影響
実際に起きる可能性がある影響を、時系列で追っていくと次の通りです。
なんらかの原因で一部スタッフに噂が広がる
「売られるらしい」という不安が発生して、全体に広がっていく
↓
キーパーソン(看護師長・ベテラン)が転職検討を検討し始める
患者や取引先にも噂が波及する
↓
稼働率が低下して患者離れが起きる
スタッフのモチベーションが低下する
↓
「このままだと想定収益が出ない」
「追加リスクあり」
と考えて、価格引き下げ or 破談 となる
情報漏洩が招く「従業員の離反リスク」
売却の噂が耳に入ると、なぜ従業員が離職を考え始めるかというと、次のように考えて、会社に対して不信感を抱くためです。
この結果、転職活動を開始する従業員は多いと考えられます。
離反が起こる典型パターン
離反が起こる典型パターンは次の通りです。
正式説明前に噂が拡散→ 不安MAX → 一気に複数人離職
従業員に対して「売却する」だけ伝える→ 条件・将来像が不明→ 不信感で退職
早すぎる開示→ 長期間不安状態が続く→ 徐々に人が抜ける
≪重要≫「破談」と「離反」はセットで起きる
ここまでをまとめると、従業員にバレると、その結果として、「破談」と「離反」がセットで起きるということになります。
情報漏洩
↓
従業員の不安・離職
↓
業績悪化
↓
買い手撤退(破談)
となるため、「情報漏洩=企業価値の崩壊トリガー」となるということです。
会社売却がバレる3つの主な原因
会社売却が現場にバレる原因は、ほとんどが“人間的なミス”です。なかでも代表的な3つの原因について詳しく解説していきます。
行動変化:トップや管理職の様子が普段と違うケース
トップや管理職の様子が普段と違うと、現場の違和感センサーに引っかかりやすくなります。
特に、次のような行動はチェックされています。
これらの行動が垣間見えた結果、現場は次のような違和感を抱きます。
こうした“憶測”が先に広がることは大変危険です。公式情報がないまま噂が独り歩きすると、ネガティブな方向に話が膨らみがちだからです。その結果として、離職を検討する従業員が増える可能性が高くなります。
画面放置・情報管理ミス:データからバレるケース
画面放置や情報管理ミスによる“うっかり漏洩”もよくあります。具体的に次のようなルートでバレることがあります。
これらに該当することが起きた場合、トップや管理職の様子が普段と違うケースとは異なり、“証拠”を目撃したことになるため、「売却するのかも」の噂としてではなく「売却に向けて話が進んでいる」真相として話が拡散されることになります。
不自然な来客:外部の人間でバレるケース
バレやすい来客の特徴は次の通りです。
現場のリアクションとして、「なんで社内を見て回っているの?」「コンサル? 監査? 買収?」などと推理が始まることが考えられます。
特に危険なタイミングは次の2つです。
この段階ではほぼ売却が決まっているため、バレると致命傷となり得ます。
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【実務編】M&Aを完全に隠し通す情報管理・6つの鉄則
M&Aを最後まで隠し通すためには、テクニックが必要というより、運用ルールを徹底することがもっとも大切です。特に大切なポイントは次の6点です。
それぞれ詳しく解説していきます。
連絡手段を分離する
M&A専用の個人メールアドレスを新規作成して、M&Aに関する連絡は個人スマホでおこなうことを徹底します。個人メールアドレスはGmailなどの一般的なもので構いません。ただし、新規作成したアドレスを見るために、社用PCでGmailにログインすることは厳禁です。
また、次のような行動は絶対にNGです。
こうした行動は、“一度でも実行すると終わり”と思っておいたほうがいいでしょう。
なぜ連絡手段の分離が必須か
社内環境は想像以上に見られています。なぜかというと、次のようなことが起こり得るためです。
スケジュールを偽装する
他の人も閲覧可能なカレンダーに「M&A打ち合わせ」と入れたり、毎週同じ時間に“謎の予定”が増えたりすると、バレる確率は一気に跳ね上がります。
これを防ぐためには次の3つの偽装術が有効です。
プロジェクトコード化
「M&A打ち合わせ」を「PJ-A」「顧問MTG」「税務相談」などに置換します。
要は、M&A関連のMTGであると悟られなければいいので、置換する言葉は何でも構いません。
時間帯の工夫
定例会議と同じ枠に設定するか、あるいは、昼休み、早朝、業務後などの“業務時間外”の時間に設定すると怪しまれません。
共有カレンダー対策
予定を書き込むカレンダーを非公開にするか、あるいは個人用カレンダーのみを使用します。
トップ面談・会議は自社以外でおこなう
トップ面談やM&A関連の会議に、自社の会議室を使用しないことも大切です。来客の社名が従業員の目に触れるとバレる可能性が高いですし、そうでなくとも、会議室利用履歴から推測されることもあれば、スタッフとの接触リスクもあります。
では、どういった場所を使うといいかというと、次のような場所が考えられます。
推奨場所
なお、「ちょっとだけなら社内で」はもっとも危険なので絶対に避けましょう。
先方と接触するときの注意点
また、次の点にも注意する必要があります。
資料の管理と破棄を徹底する
情報漏洩の一番の原因は「紙」と「画面」です。
それぞれに関して、次の点を徹底することが不可欠です。
紙
デジタル
デューディリジェンスを休日に設定する
デューディリジェンスはもっともバレやすい工程です。
「見知らぬ人が社内を歩く」「数時間滞在している」という状況になるため、平日に実施すると、ほぼ確実にバレるか、さもなくば怪しまれます。
そのため、デューディリジェンスの実施は休日が鉄則です。必要最低限のメンバーで時間差で建物に入るなどして、“重要人物の視察”とわからないよう工夫することも大切です。
ノンネームシートの“安全な出し方”を実践する
M&AではNDA(秘密保持契約)を結びますが、NDAを結んだからといって、「絶対に情報が漏れない」ということはありません。
なぜかというと、意図しない漏洩を防ぐことはできないし、噂や推測まで止めることはできないためです。
そのため、会社名を伏せた状態で情報を開示する「ノンネームシート」の活用が不可欠です。
ノンネームシートの“安全な出し方”
初期段階でノンネームシートを活用する場合、次のことがポイントとなります。
地域:「関東」「中部」など広い範囲で設定して、特定されないようにする
売上:レンジ表示(例:1~2億円)
特徴:抽象化(例:「外来中心のクリニック」など)
情報開示の段階管理
次のステップで情報を開示させてくことが理想です。
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M&A情報漏洩時のリカバリーマニュアル
万全な情報漏洩対策をとっていたとしても、100%バレないということはありません。そのため、「バレた場合にどう行動すればいいか」を考えておくことも大切です。
基本的なポイントはシンプルで、「スピード」「一貫性」「安心材料提示」の3つです。
より詳しく解説していきます。
初動対応(発覚~24時間以内)
情報が漏洩したことが発覚したら、24時間以内に事実確認や情報ラインの遮断をおこなうことが必須です。また、コアメンバーを招集して、情報が漏洩した事実を共有します。
やるべきこと
どこまで漏れたか(誰が・何を・どこで)
噂レベルか、確定情報か
関係者に「追加発言禁止」を即指示
メール・チャットの送信停止
院長・経営者
M&Aアドバイザー
必要なら顧問(税理士・社労士)
NG行動
状況別の対応分岐
どの程度伝わっているかによって、とるべき対応が異なってきます。
ケース①:噂レベル(確証なし)
噂レベルの場合、敢えて否定はせず、従業員の不安を消すことに集中します。
次のような言葉をかけると、従業員の不安は消えやすいといえます。
ケース②:ほぼ事実が伝わっている
ほぼ事実が伝わっている場合は、早期に“公式化”することで主導権を握るのが正解です。
できれば即日、難しい場合は数日以内に、全体説明の場を設定して、経営トップが直接説明します。
ケース③:キーパーソンが離職検討
キーパーソンが離職を検討している場合、個別フォローを最優先とします。離職を検討しているキーパーソンに対して即個別面談を設定して、残ってもらえる場合の条件・役割・将来像を具体的に提示します。
引き止めに失敗すると、連鎖離職が起きるため、ここはがんばりどころです。
従業員説明テンプレ
従業員に説明する際は、次の構成で、3分程度でシンプルに伝えることが大切です。
「現在、よりよい経営体制を検討しています」
「サービス・商品の質を維持・向上させて、安定した運営を続けるための選択です」
雇用は原則維持
給与・待遇も大きく変わらない(or 改善余地)
「みなさんに不利益が出る形では進めません」
NGワード
「売却」「身売り」「経営が厳しいから」などの言葉を使うと、結果的に従業員の不安を煽るだけとなってしまいます。
信用回復アクション(1週間以内)
初動対応に続けて、1週間以内に「信用回復アクション」をとることも大切です。
必須対応
効果的な施策
離職防止の具体策
まず、次の優先順位で、離職防止に向けて動くことが大切です。
有効な打ち手
現場で効く一言
「あなたに辞められると一番困る」
この言葉を使うと、本音と敬意の両方が伝わります。
買い手への対応
情報漏洩は買い手にとってもリスクです。そのため、買い手への対応に関しても間違いがあってはいけません。
すぐやること
また、「コントロールできている」と見せることも大切です。
最悪ケースの備え
最悪のケースを考えて、備えておくこともとても大切です。
“最悪のケース”とは、たとえば次のような事態が考えられます。
上記のケースに対して、考えられる対策は次の通りです。
バレた後の成否が決まるポイント
バレた後の成否は、次のポイントで決まるといえます。
一言でいうと、バレた場合、「隠すフェーズ」から「コントロールするフェーズ」へ切り替える必要があるということになります。
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誰に・いつ伝える? ステークホルダー別の開示タイミング
会社売却の成否は、「誰に・いつ・どこまで話すか」でほぼ決まります。
伝える相手ごとに、最適な開示タイミングやその理由などを解説していきます。
役員・キーマン
役員・キーマンには、NDA締結後、必要最小限の情報を開示します。
なぜ情報を限定する必要があるのか
開示する情報を限定する必要があるのはなぜかというと、情報漏洩リスクが一気に上がるためです。ただし、実務上、協力が不可欠な人に対しては、必要な情報をきちんと提示します。
伝えるにあたっての必須条件
情報を開示する役員・キーマンともNDA(秘密保持契約)を締結する必要があります。また、開示範囲を明確化して、口外禁止であることを口頭でも説明します。
伝え方のポイント
失敗パターン
家族(配偶者)
家族には原則非開示ですが、次の2パターンに該当する場合、例外的に早期に情報を共有する必要があります。
ケース1:連帯保証がある場合
連帯保証があって、配偶者の同意が必要な場合などは事前説明が必須です。
ケース2:個人資産・生活への影響が大きい場合
自宅が担保となっている場合や、売却によって生活水準が著しく変化する場合などは、後出しだとトラブルが発生する可能性があります。
伝える場合のベストタイミング
伝える場合のベストタイミングは、基本合意前後から最終契約前となります。条件がある程度固まってからが望ましいでしょう。
伝え方のポイント
失敗パターン
顧問税理士・金融機関(メインバンク)
売り手経営者が真っ先に相談したくなる相手ですが、実はここからの情報漏洩やトラブルが非常に多いため、取り扱いには細心の注意が必要です。
顧問税理士に伝えるタイミングと注意点
伝えるタイミングは、「基本合意書の締結前後」、または「デューディリジェンス(買収監査)で詳細な税務資料が必要になる直前」がベストです。
注意すべきは、すべての税理士がM&Aに賛成するわけではないという点です。税理士にとって、会社の売却は「顧問先(自身の売上)の喪失」を意味するケースがあるため、感情的に反対されたり、税理士経由で外部に情報が漏れたりするリスクがあります。伝える際は、「決定事項としての報告」と「専門的見地からの実務的な協力依頼」というスタンスをとることがポイントです。
金融機関に伝えるタイミングと注意点
メインバンク等の金融機関に伝えるタイミングは、「最終契約の直前」から「クロージング(決済)までの間」が基本です。ただし、借入金に経営者個人の連帯保証がついており、買い手に引き継いでもらう(保証を解除する)必要がある場合は、基本合意後に事前相談をおこなうケースもあります。
金融機関への早すぎる開示は、「担当者がよかれと思って他社の買い手候補に打診してしまい、地元ネットワークに売却の噂が広まる」という致命的な情報漏洩を引き起こす原因となります。開示する際は、M&Aアドバイザーと協議のうえ、銀行担当者の口止め(守秘義務の徹底)を強く念押しすることが不可欠です。
従業員
従業員に伝えるベストタイミングは、最終契約締結からクロージング完了直前で、「全社一斉開示」が鉄則です。
なぜ“後出し”が正解か
開示方法
必ず伝えるべき内容
失敗パターン
取引先
取引際には、プレスリリース直前または従業員と同タイミングで伝えます。これ以上遅いタイミングとなると、信頼が低下してしまいます。
信頼を重視したい場合、従業員と同時のタイミングがベストです。
大口取引先のみ事前連絡としたい場合、プレスリリース直前のタイミングを選んでもいいでしょう。
伝え方
「事業は継続」「取引条件は基本維持」をしっかり伝えて、担当者変更の有無を明確にします。
失敗パターン
従業員より先に伝えると、社内で不信感が爆発します。
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会社売却の秘密保持に関するFAQ
続いては、会社売却の秘密保持に関してよくある質問とその答えをみていきましょう。
Q. 飲み会の席やSNS(匿名アカウント)で匂わせるリスクは?
飲み会の席やSNSの特定アカウントで会社売却を“匂わせる”ことは、もっとも危険度が高い情報漏洩ルートです。しかも、証拠が残るため、匂わせた本人が高いリスクに晒されることになります。
なぜバレるのか
これらの情報は、一つひとつの発言などは些細なものであっても、後で“点が線となりやすい”といえます。
また、匿名で投稿した場合も、投稿時間や文体、内容で特定される可能性が高いと考えられます。フォロワーや知人経由で身元が割れる場合もあるでしょう。
よくあるNG例
次のような発言や行動は大変危険です。
実際に起きるトラブル
Q. M&Aアドバイザーを選ぶ際の「情報管理」のチェックポイントは?
情報漏洩の多くは“外部から”起きます。そのため、M&Aアドバイザーを選ぶ際には、「能力」より先に「守秘力」を見ることがとても大切です。
守秘力を見極めるポイントは次の通りです。
NDAの厳格さ
ここが雑な会社は危険です。
ノンネーム徹底度
ここを焦ってくるアドバイザーは漏らす可能性が高いといえます。
情報共有範囲のコントロール
“社内拡散型”は要注意といえます。
データ管理体制
これらに該当するかは確認することは難しいですが、できる限り事前に直接聞くなどするといいでしょう。
打診先の質と管理
「数打ちゃ当たる型」は漏洩リスク大であるといえます。
担当者の言動
これらに該当する場合、自社の情報も将来的に平気で外部に話されると考えて間違いありません。
≪見極め質問≫
次の質問を投げかけることによって、守秘力の有無を見極めましょう。
これらの質問への回答が曖昧だと大変危険です。
≪危険なアドバイザーの特徴≫
次のような特徴がある場合、大変危険であるといえます。
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情報漏洩対策はM&A成功の絶対条件
先に解説した通り、情報漏洩が生じると、従業員の離反とM&Aの破断がセットで起きる可能性は極めて高いといえます。逆にいうと、情報漏洩対策を講じることは、M&A成功の絶対条件です。情報が漏洩しないよう、情報を扱うルールを徹底することや、情報を開示する順番を守ることは決して難しいことではありません。しかも、一つひとつのルールを徹底化することで、M&Aの成功率が高まるだけでなく、従業員一同が気持ちよく新しいスタートを切ることができます。また、M&Aがスムーズにいけば、取引先からも、「新体制でも信頼できそうだ」と判断してもらえるため、会社としての将来の安泰も期待できますよ。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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