M&Aで会社を売ったのに、会社の「核心」だけ残らなかった——そんな結末になる売却がある。
2025〜2026年にかけて注目されたある大手企業のMBO(経営陣による買収)では、投資ファンドが競争力の源泉である本社・工場の売却(流動化)を前提にした高値提案を行い、争奪戦の末に買収が成立した。株主の利益は最大化されたが、競争力の根幹となる施設を手放したことで、長期的な事業継続性が問われている。
この事例は、「価格の高さ」と「良い売却」が一致しないケースがあることを示している。本記事では、自社の競争力を守りながら会社を売るための交渉術を整理する。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
「高く売ること」と「良く売ること」の違い
高値買収が招くリスク
買い手が高値を提示する背景には、必ず理由がある。高値の裏にあるロジックを見抜かないと、成約後に想定外の変化が起きる。
| 高値提示の背景 | 成約後に起きうること |
| 資産(工場・不動産・設備)を売却して回収する前提 | 競争力の根幹となる設備・拠点が消える |
| ブランドだけを欲しがっている | 事業そのものが縮小・廃止される |
| コスト削減のためのM&A | 従業員の大量削減・組織再編が進む |
| 短期間での転売を前提にしたファンド案件 | 2〜3年後にまた別の会社に売られる |
ファンドが「資産の切り売り」を前提にする理由
特にファンドが主導するMBOやバイアウト案件では、LBO(レバレッジド・バイアウト)という手法がよく使われる。これは買収先(あなたの会社)の資産や将来のキャッシュフローを担保に、巨額の資金を銀行から借り入れて買収する手法だ。
ファンドが自己資金以上の高値を提示できるのはこの借入のおかげだが、買収成立後、その巨額の借金の返済義務は「買収された会社自身」が背負うことになる。結果として、返済資金を捻出するために、競争力の源泉であった本社や工場を売却(セール・アンド・リースバック等)せざるを得ない構造に陥るのだ。
「1円でも高く売りたい」という気持ちは当然だ。しかし長年育てた会社・技術・ブランド・従業員がどうなるかを考えると、価格だけが判断軸にはなれない。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
資産保護交渉の基本:「何を売り、何を守るか」を先に決める
売却交渉に入る前に、オーナー自身が「これだけは変えてほしくない」リストを作ることが最初のステップだ。
保護すべき資産の分類
物理的資産
無形資産
組織資産
このリストを事前に作り、「売却は受け入れるが、これらは条件として守る」という交渉ポジションを固めておく。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
資産保護を成約条件に盛り込む4つの手法
① M&Aスキームの工夫(事業譲渡・会社分割による切り出し)
「売らずに会社を売る」ための最も確実な方法は、そもそも守りたい資産をM&Aの売買対象から外すことだ。会社全体(株式)を売却するのではなく、買い手が求める「事業」のみを事業譲渡や会社分割で切り出して売却し、絶対に残したい工場や不動産、特許などはオーナーの手元(あるいは資産管理会社)に残す。
成約後、オーナーは買い手企業に対してその工場や不動産を「賃貸」することで、資産を保護しながら継続的な賃料収入を得ることも可能になる。
②「事業継続確約書」の取得
単なる口約束ではなく、「X年間は現在の事業を継続する」という誓約書を法的拘束力のある形で取得する。
内容に含めるべき項目:
③エスクロー(代金の一部留保)
成約代金の一部(例:10〜20%)を第三者機関に預け、「成約後X年間、約束した条件が守られた場合のみ放出される」仕組みを設ける。
これにより、買い手が成約後に条件を反故にするリスクを抑制できる。エスクローの設定は日本のM&Aでも増えてきており、大手M&A仲介会社・弁護士を通じて設定できる。
④段階的売却(ステップ・アクワイジション)
一度にすべての株式を売却するのではなく、最初は過半数未満(例:49%)を売却し、一定期間後に残りを売却する段階的な手法。
初回売却時に「残りの株式取得権(コールオプション)の行使条件」として「事業継続・資産保護の達成」を設定することで、買い手に「約束を守る動機」を持たせる。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
「資産保護条件」が価格交渉に与える影響
資産保護条件を付けると、買い手からは「価格が下がる」と言われることがある。実際に、資産売却禁止条項は買い手の将来の経営自由度を制限するため、バリュエーションへの影響は避けられない。
しかし、適切な準備をしていれば価格の下落幅を最小化できる。
価格ダウンを抑えるための準備
複数の買い手候補を用意する
資産保護条件を受け入れる買い手候補が複数いれば、競争原理が働く。「資産を売却したい買い手」と「事業継続を重視する買い手」を並行打診し、後者の中で最も高値をつける相手を選ぶという交渉が可能になる。
資産が事業価値の根幹であることを数字で示す
「この工場がなければ売上の◯%が失われる」「この技術ノウハウがなければ主力商品を作れない」という事実を財務データ・顧客データで裏付ける。資産の戦略的重要性が説明できれば、買い手も「売却は合理的でない」と納得しやすくなる。
「守りたい資産」と「交渉の余地がある資産」を区別する
すべてを守ろうとすると交渉が膠着する。「絶対に守るもの(工場・主要技術)」と「交渉の余地があるもの(遊休不動産・副次的な設備)」を分けて提示することで、買い手との折り合いがつきやすくなる。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
弁護士・FAの役割:一人で交渉しない
資産保護条件の交渉は、専門的な法律知識と交渉経験が必要だ。オーナーが単独で買い手の法務チームと交渉するのは、プロボクサーと素人が戦うようなものだ。
FAと弁護士の役割分担
| 役割 | 担当 |
| 買い手候補の探索・初期交渉 | M&A仲介会社 or FA(フィナンシャル・アドバイザー) |
| 契約書の法的リスク確認・条項交渉 | 弁護士(M&A経験のある専門家) |
| 税務面の最適化 | 税理士・公認会計士 |
| 資産評価・バリュエーション | FA or 会計士 |
特に「資産売却禁止条項」「エスクロー設定」「段階的売却の設計」は、弁護士の関与なしに進めると後から法的問題が発生するリスクが高い。費用を惜しまず専門家チームを組むことが、資産保護の成功率を上げる最善策だ。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
まとめ:「守るものを決める」ことが売却交渉の起点
会社を売ることは、「すべてを渡す」ことではない。
長年育てた工場・技術・ブランド・従業員を守ることは、オーナーの正当な意思として主張できる。適切な条項・構造設計と専門家チームがあれば、「高値」と「良い売却」を両立することは可能だ。
まず「これだけは守りたい」リストを作り、FA・弁護士に相談する——これが、資産を守りながら会社を売る最初のステップだ。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
他の関連記事はこちら