M&Aに興味があるものの、未経験であるがゆえに、「自社もM&Aを実施することができるのだろう?」と不安に感じている中小企業経営者は多いかもしれません。しかし、M&Aは大企業だけが実施しているものではなく、中小企業同士の案件もかなり多いのが実態です。そこで今回は、M&Aの基礎から実務に至るまで、M&Aが初めてでも迷わない全体像について解説していきます。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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中小企業同士のM&Aは増加傾向にある
国内のM&A成約事例のうち、中小企業同士のM&Aが占める割合に関する正式なデータは存在しませんが、中小企業庁の資料によると、中小企業のM&Aの実施件数は、2014年度と2022年度で次の通りの差が出ていることがわかっています。
| 年度 | 事業承継・引継ぎ支援センターを通じた、中小企業におけるM&A実施件数 | 民間M&A支援機関を通じた、中小企業におけるM&A実施件数 |
| 2014年度 | 102件 | 260件 |
| 2022年度 | 1,681件 | 4,036件 |
参照:経済産業省 中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」―中小企業におけるM&Aの実施件数
中小企業同士のM&Aが増加傾向にある理由
なぜ中小企業同士のM&Aが増加傾向にあるかというと、主な理由は次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
後継者不足
黒字であっても後継者を確保できていない企業にとって、M&Aは、自社の技術と雇用を守る唯一の手段となります。後継者が見つからないことによって廃業・倒産に追い込まれる中小企業が後を絶たないことを政府も重く見ており、事業承継税制の適用期限延長や、M&A支援機関の登録制度による透明性向上など、環境整備に力を入れています。国としてのそうした動きもあり、承継型M&Aは、事業継続のための有効な手段として広く認知されるようになってきています。
持続的な成長のための戦略的M&Aの浸透
企業が持続的に成長を続けるためには、シェア拡大、新しい技術の獲得、異業種への進出などを、スピード感を持って実現していく必要があります。しかし、シェア拡大や技術獲得、異業種への進出などは、自社でゼロから着手するとなるとかなりの時間が必要です。一方、M&Aによって売り手企業の市場や技術を手に入れることができれば、企業としてのスピーディな成長が叶います。
TOBおよび非公開化の加速
TOB(株式公開買付け)の件数は、2025年、過去最多を更新しています。TOBが増えると、市場全体においてM&Aが活発化するため、中小案件が増えやすくなります。
また、近年、親子上場の解消やMBO(経営陣による買収)を通じた非公開化を選択する企業も増えています。
近年、親子上場の解消やMBO(経営陣による買収)を通じた非公開化を選択する企業も増えています。非公開化は多くの場合、PEファンド、投資ファンドが主導しますが、その際、ファンドは上場企業の非公開化と中小企業のロールアップを同時並行でおこなうため、ファンド資金が増加すると、中小企業M&Aも増加するということになります。また、東証による「資本コストや株価を意識した経営」の要請以降、上場企業は不採算子会社の売却、ノンコア事業切り出しなどをおこない、カーブアウトが増加していますが、その受け皿になるのが中小企業やPEファンドであることから、“大企業の再編に伴い、中小企業側の買収機会が増加する”という構造も成り立っています。
金融環境の変化
地方銀行や信用機関はアドバイザリー業務を強化しており、地域の中小企業のマッチングにも尽力していることで、成約件数が伸びています。
専門人材の成熟
M&A専門の仲介業者やプラットフォームが普及したことによって、M&A取引の安全性と効率性は大きく向上しています。また、PEファンドは、買収後の経営支援を通じて企業価値を高める専門家として定着しています。
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M&Aの基礎知識
ここで改めて、M&Aの定義を確認していきましょう。
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の頭文字を並べた言葉で、Mergersは「合併」、Acquisitionsは「買収」を意味します。つまり、M&Aは合併や買収などの総称ということになります。
合併とは
合併とは、複数の会社を法的に1つに統合することを意味します。2社以上が1つの会社に統合されるため、少なくともそのうち1社は法人格を失って消滅することになります。法人格が消滅した会社の権利義務は、統合後の新しい会社あるいは存続する会社に引き継がれます。
合併には、1つの会社がそれ以外の会社を吸収する「吸収合併」と、すべての会社が解散して、新設した会社に義務権利を移す「新設合併」があります。
買収とは
買収とは、ある会社が他の会社の経営権の取得を目指すことを意味します。代表的な方法としては、買収したい会社の株式の過半数を取得する「株式譲渡」や、事業の一部または全部を譲り受ける「事業譲渡」などが挙げられます。そのほか、買い手企業などの特定の第三者に対して新株を発行して、その対価として出資を受け入れる「第三者割当増資」などもあります。
参照:日本M&Aセンター「M&Aとは?意味・目的・手法・流れなどわかりやすく解説」
中小企業M&Aで主流となる2つの手法(株式譲渡と事業譲渡)
中小企業のM&Aにおいて、実務上ほとんどのケースで用いられるのが「株式譲渡」と「事業譲渡」です。初めてのM&Aで失敗しないためには、この2つの違いを理解しておくことが非常に重要です。
株式譲渡
売り手企業の株式を買い手に譲渡し、経営権を移行させる手法です。中小企業M&Aの約8〜9割がこの手法で行われます。
事業譲渡
会社の全部、または一部の事業を選んで譲渡・譲り受ける手法です。
会社分割とは
また、「合併」「買収」以外に「会社分割」「株式交換」などもM&Aに含まれる場合があります。
会社分割とは、会社が営んでいる事業を別会社に包括的に承継させる手法です。会社分割には、ある会社の事業を既存の会社に移すものの、事業を移した会社は存続する「吸収分割」と、新しく設立した会社に事業を移す「新設分割」があります。
ただし、会社分割に関しては、“M&Aの準備行為”ととらえられる場合と、“M&Aには該当しない”ととらえられる場合があります。
たとえば、①A社が不要事業を新設分割で切り出して、②その新会社の株式を第三者に売却した場合、実質的にM&Aといえるため、“新設分割=M&Aの準備行為”と考えられます。一方、親会社と子会社の間で事業を移す、いわゆるグループ内再編の場合、単なる組織再編であって、M&Aとは呼ばれないことも多いです。
株式交換とは
株式交換とは、子会社になる会社の株主が親会社の株式を受け取ることによって、100%子会社にするスキームです。お金ではなく、株価を対価として支配権を取得するのが特徴です。
会社分割同様、第三者との取引の場合はM&Aだととらえられますが、グループ内再編の場合は、実質的にM&Aではないととらえられます。
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M&Aの全体フロー
続いては、M&Aの全体フローをみていきましょう。M&Aの流れは、どのスキームの場合も、大きく6つのフェーズにわけることができます。
全体を通して、6か月前後~1年前後の時間を要すと考えておくといいでしょう。
それぞれのフェーズについて詳しく解説していきます。
Phase1:検討・意思決定(1~2ヶ月)
目的
「本当にM&Aをやるのか?」を決める
具体的にやること
ここで決まること
失敗しやすい点
Phase2:アドバイザー選定・案件探し(1~3ヶ月)
目的
「伴走者」と「候補先」を見つける
具体的にやること
≪重要:仲介とFAの違いを理解する≫
アドバイザー選びで失敗しないためには、「仲介」と「FA(フィナンシャル・アドバイザー)」の違いを必ず理解しておきましょう。
自社の目的や規模に合わせて、どちらの専門家に依頼するかを慎重に見極めることが成功の第一歩です。
ここで決まること
失敗しやすい点
Phase3:初期交渉・トップ面談(1~2ヶ月)
目的
「この相手と進められるか」を見極める
具体的にやること
ここで決まること
失敗しやすい点
Phase4:基本合意・DD実施(1~2ヶ月)
目的
「リスクを洗い出す」
具体的にやること
ここで決まること
失敗しやすい点
Phase5:最終交渉・契約締結(1ヶ月)
目的
「法的に確定させる」
具体的にやること
ここで決まること
失敗しやすい点
Phase6:クロージング・PMI(3~6ヶ月)
目的
「統合を成功させる」
クロージング
PMI(Post Merger Integration:M&A成立後の経営統合プロセス)
≪実はここが一番重要≫
M&Aは契約がゴールではなく、PMIこそが本番!
失敗の多くはPMI段階で起こります。
たとえば、次のような問題が起こりやすいので注意が必要です。
など
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売り手が知っておくべきこと
M&Aを実施するにあたって、売り手が知っておくべきことはいくつもありますが、そのなかでも重要なポイントは次の通りです。
それぞれ詳しく解説していきます。
「いくらで売れる?」企業価値の算定方法(3つのアプローチ)
企業価値評価は大きく3つあります。
インカムアプローチ(将来利益ベース)
将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引く方法です。実務においては、“価格交渉の理論武装”として使われることが多いです。
✓考え方
「この会社は将来いくらお金を生むか?」
✓強み
✓弱み
マーケットアプローチ(相場比較)
相場と比較する方法です。実務においては、「最終価格の土台」になることが多いです。代表例は「EBITDA倍率法」です。EBITDA(イービットディーエー/イービッタ)とは、利払い前・税引き前・減価償却前利益のことで、企業が本業で稼ぐ「真の収益力」や「実質的なキャッシュフロー」を図る指標です。
参照:日本M&Aセンター「EBITDAとは?計算方法、平均や目安、M&Aでの活用についてわかりやすく解説」
EBITDA倍率法の計算式イメージは次の通りです。
「企業価値 = EBITDA × ○倍」
なお、中小企業M&Aでもっともよく使われる計算方法です。
✓強み
✓弱み
コストアプローチ(純資産ベース)
純資産をベースとする計算方法です。貸借対照表を時価修正して算定する「修正純資産法」などがこれに該当します。
✓強み
✓弱み
なお、実務においては、コストアプローチを含む2つの方法を組み合わせることが多いです。たとえば、「純資産+営業権(EBITDA倍率)」「下限=純資産、上限=DCF法で算出」などが考えられます。
売却タイミングの判断基準
売却タイミングは価格に直結します。
○ベストなタイミング
×避けたいタイミング
つまり、「売らなくてもいい状態」で売るのが原則ということになります。
従業員・取引先への開示タイミング
これは非常に重要なポイントです。
原則
基本合意後~最終契約直前が一般的で、実質、クロージング直前に伝える場合が多いといえます。
理由:
開示の順番
失敗例
売却後の経営者の役割(引継ぎ期間)
売却後、即退任はほぼありません。
一般的なパターンとしては次の通りです。
ポイントとして、価格が高い案件ほど残留期間が長くなるのが一般的です。
また、買収完了後の一定期間内に売却企業が特定の業績目標を達成した場合に、買い手が売り手に追加の買収対価を支払う「アーンアウト(Earn-out)」がある場合、その期間を待つ必要があるため特に長くなります。
参照:日本M&Aセンター「アーンアウトとは?M&Aで活用するメリット・デメリットや会計処理について解説」
引継ぎでやること
まとめ
売り手が本当に知るべきことは次の通りです。
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買い手が知っておくべきこと
M&Aを実施するにあたっては、買い手が知っておくべきこともいくつもありますが、そのなかでも重要なポイントは次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
「何を買うべきか」の判断基準
多くの失敗はここで起きます。
価格ではなく、“戦略との整合性”が最重要ポイントです。
判断基準①:戦略フィット
→「なぜ買うのか?」が曖昧だと必ず失敗します。
判断基準②:シナジーの具体性
シナジーは“抽象論”であってはいけません。
×「売上が伸びそう」
○「既存顧客500社にクロスセル可能」
※クロスセルとは、顧客が購入しようとしている商品・サービスに関連する別の商品を提案して、購入点数や客単価を向上させる販売手法です。
判断基準③:再現性
→「オーナーがいなくても回るか?」が、再現性に対する重要な判断基準です。
判断基準④:価格妥当性
価格だけでなく、次のポイントも必ずチェックします。
まで必ず見る。
案件の探し方
M&Aプラットフォーム
代表例:
✓メリット
✓デメリット
仲介会社
代表例:
✓メリット
✓デメリット
金融機関
地銀・信金ルート
✓メリット
✓デメリット
知人紹介
実は成功率が高い探し方です。なぜかというと、信頼関係ができていて、情報の透明度が高い場合が多いためです。
信頼関係がある
情報の透明性が高い
DDのチェックポイント
財務DD
次の点を中心に、「利益の質」をチェックします。
法務DD
税務DD
人事DD
ビジネスDD
PMIが成功の8割を決める
これが最重要ポイントです。
PMIでやること
✓経営統合
✓人事統合
✓システム統合
✓文化統合
【PMIが原因の失敗パターン】
【PMIにおける成功のコツ】
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M&Aにかかる費用と使える支援制度
続いては、M&Aにかかる主な費用と、M&Aに使える支援制度を説明していきます。
M&Aにかかる費用の内訳
M&Aにかかる費用の全体構造は次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
アドバイザー費用
アドバイザー費用は、M&Aにかかる費用のなかでもっとも金額が大きいものです。
仲介会社やFAへの成功報酬がかかるほか、次のような費用もかかります。
なお、中小企業M&Aの場合、会社規模が1億円未満であれば、仲介費用の目安は300~800万円程度となります。
【主に買い手】DD費用(デューディリジェンス費用)
目安となる金額は次の通りです。
全体像の目安は次の通りです。
契約・登記関連費用
【売り手側にとって重要】税金
✓株式譲渡の場合
✓事業譲渡の場合
など、スキーム選択で手取りが大きく変わります。
【買い手】買収資金の調達コスト
例:1億円借入 → 年利2%なら年間200万円となります。
PMI(統合)費用
この費用は意外と見落とされがちです。中小企業の場合でも、100~500万円程度は見積もっておく必要があります。
≪重要ポイント≫
M&Aに使える補助金・税制優遇
M&Aに使える補助金・税制優遇については、次の記事をご参照ください。
- → 記事2(M&A補助金)への内部リンク
- → 記事1(事業承継税制)への内部リンク
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M&Aでよくある失敗と回避策
続いては、M&Aでよくある失敗と回避策をみていきます。まず、よくある失敗としては次の4つが挙げられます。
それぞれの回避策をみていきましょう。
情報漏洩による従業員の不安・離職
なぜ起きる?
回避策
✓NDA徹底+情報アクセス制限
✓開示タイミングの設計
-1. 幹部
-2. キーパーソン
-3. 全社員
-4. 主要取引先
✓メッセージ設計
不安の正体が“情報不足”であることを認識して、次の3点については必ず伝えましょう。
「雇用は守る」
「会社を成長させるため」
「待遇は原則維持」
✓リテンション設計
DDの不備による簿外債務の発見
✓よくある簿外リスク
回避策
✓DDは“コスト削減対象にしない”
最低限実施すべきDDは次の3つです。
✓表明保証+補償条項を強化
契約書で次の3点を必ず設定します。
✓経営者インタビューを重視
数字だけでは見抜けない場合、次の質問を投げかけて、相手の空気を察知します。
「困っていることは?」
「訴訟の可能性は?」
PMIの失敗による買収後の業績悪化
≪失敗例≫
回避策
✓PMI計画を契約前に作る
「買ってから考える」は失敗の元となります
✓「100日プラン」の策定策定
最初の100日で次の3点を実施します。
✓経営者の残留設計
✓“変えない勇気”を持つ
最初の半年は、原則として、経営体制などを急激に変えてはいけません。
感情的な交渉決裂
≪よくある原因≫
回避策
✓初期段階で期待値調整
✓価格以外の条件整理
次のような「心理条件」を明文化します。
✓トップ同士の直接対話
弁護士任せにすることなく、経営者同士で信頼を構築することが大切です。
✓BATNAを持つ
交渉で合意することに次ぐ“最善の代替案”であるBATNA(バトナ)があると、冷静になることができます。
【ポイント】
M&Aは「財務取引」ではなく、“高度な心理マネジメントプロジェクト”であることを念頭に置いておくとうまくいきやすいでしょう。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
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