2026年2月24日、野村ホールディングス・伊藤忠商事・日本M&Aセンターホールディングスなど日本を代表する大手企業が連名で、中小企業の「内部承継」を専門に支援するファンドの設立を発表した。
「事業承継ファンド」という言葉を聞いたことはあるが、何が違うのか、自社には関係があるのか、そう感じている経営者は多いだろう。
本記事では、事業承継ファンドの基本的な仕組みから、今回設立された新ファンドの特徴、そして「M&Aとどう使い分けるか」まで、経営者目線でわかりやすく解説する。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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事業承継ファンドとは?基本の仕組みから理解する
「後継者不在」を解決するプライベート・エクイティ
事業承継ファンドとは、後継者が見つからない中小企業に対して、ファンドが一時的に株式を取得し、経営を支援しながら適切な後継者や売却先を見つけることを目的とした投資ファンドだ。
機関投資家や事業会社から資金を集め、その資金で対象企業の株式を買い取る。買い取った後は経営に関与しながら企業価値を高め、数年後に第三者へ譲渡することで売却益を得る仕組みだ。
中小企業庁の調査によると、2024年の全国後継者不在率は52.1%(帝国データバンク調査)。休廃業・解散した企業のうち51.1%が黒字のまま廃業しているという現実がある。このような「勝てるのに廃業する企業」を救う手段として、事業承継ファンドへの注目が高まっている。
一般的なM&Aとどう違うのか
事業承継ファンドと一般的なM&Aの違いは、「誰が、何のために買うか」にある。
| 一般的なM&A | 事業承継ファンド | |
| 買い手 | 事業会社 | 投資ファンド |
| 目的 | 事業拡大・シナジー獲得 | 後継者問題の解決・企業価値向上 |
| 承継後 | 買い手グループに統合 | 一定期間経営支援後、再度売却 |
| 期間 | クロージングで完了 | 5〜10年の長期支援 |
| 向いている場面 | 戦略的な売却 | 後継者がいない・育てたい |
事業会社によるM&Aは「自社グループに取り込む」ことが前提だ。一方、事業承継ファンドは「引き継ぎ先を一緒に探し、育てる」伴走型の支援といえる。
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2026年2月、大手連合が「内部承継特化型ファンド」を設立
ファンドの全容:野村・伊藤忠・日本M&Aセンターほかが参画
2026年2月24日、「内部承継プラットフォーム投資事業有限責任組合」が設立された。参画企業は以下の通りだ。
無限責任組合員(GP、業務運営担当)
有限責任組合員(LP、主要投資家)
存続期間は2026年2月24日から2045年12月31日までの約20年。短期的なリターンを追うのではなく、長期視点で日本の事業承継問題に向き合う設計だ。
フリーが参加しているのも注目点だ。クラウド会計ソフトを提供するフリーは、中小企業の財務データと深い接点を持つ。財務可視化の支援という観点で、投資先企業の経営改善を担う役割が想定される。
なぜ今「内部承継」に特化するのか
このファンドの最大の特徴は、外部のM&Aではなく「内部の役職員(幹部・従業員)への承継」に特化している点だ。
一般的なM&Aでは「会社を外部に売る」ことになる。しかし経営者の中には「外の人間には売りたくない。できれば社員や右腕に引き継ぎたい」と考える人も多い。
この場合に立ちはだかるのが資金の壁だ。役職員が自社の株式を買い取るには多額の資金が必要で、個人でまかなえるケースは少ない。いわゆるMBO(マネジメント・バイアウト)を実現するには、LBO(レバレッジド・バイアウト)という借入を活用したスキームが必要になるが、中小企業の役職員個人が銀行融資を引き出すのは容易ではない。
この「内部承継の資金ハードル」を解決するために今回のファンドが設計された。ファンドが一時的に株式を取得し、後継者候補の役職員を経営者として育てながら、最終的に経営を移譲する。いわば「承継の橋渡し役」だ。
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事業承継ファンドのメリット・デメリット
経営者にとってのメリット
① 内部承継が「資金なし」でも実現できる
役職員に承継させたいが資金がない、というケースでも、ファンドが株式を取得することで承継を前に進められる。
② 経営から一定距離を置きながら、後継者を育てられる
ファンド保有期間中、現経営者が顧問として関わりながら後継者候補を育成する設計にすることも可能だ。急に手を引かず、段階的な引き継ぎができる。
③ 従業員・取引先への影響が小さい
外部の事業会社に売却する場合と比べて、社名・経営方針・雇用が大きく変わりにくい。「自分が育てた会社を守りたい」という経営者の想いと合致しやすい。
④ プロの経営支援が受けられる
野村・伊藤忠・三井住友信託銀行といった大手の知見・ネットワークが経営支援に活用される。財務・法務・M&A実務面でのサポートが期待できる。
デメリット・注意点
① 一時的に支配権を失う
ファンドが株式を取得する期間中、経営の意思決定権はファンドと共有(または委譲)される。「完全に自分でコントロールしたい」経営者にはストレスになりうる。
② 最終的な出口(Exit)が不確定
ファンドは最終的に持分を売却して投資回収する。後継者候補が成長しなかった場合、外部のM&Aに転換される可能性がある。
③ 大企業ほど対象にならない場合も
ファンドによって投資対象とする企業規模・業種は異なる。今回の内部承継ファンドは中小企業がターゲットだが、売上規模・業種によっては対象外となることもある。
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どんな企業に向いているか?活用ケースと向かない例
内部承継ファンドが向いているケース
M&A(外部売却)のほうが向いているケース
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M&Aとファンド、どう使い分けるか
事業承継ファンドは万能ではない。中小企業の事業承継の手段として、以下のように整理すると選択しやすい。
後継者候補がいる?
└ YES → 内部承継ファンドを検討
└ NO → M&A(外部売却)を検討
↓ 内部承継ファンドを検討する場合
候補者に資金調達力がある?
└ YES → MBO直接実行も可能
└ NO → ファンドを活用したMBO支援スキームへ
↓ M&A(外部売却)を検討する場合
業績・財務は健全か?
└ YES → 複数仲介・入札方式で高値を目指す
└ NO → 事業の「磨き上げ」後に売却タイミングを検討
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よくある質問(FAQ)
Q. 事業承継ファンドに相談するには何から始めればいいですか?
まずは自社の企業価値(おおよその売却想定額)を把握することから始めることを推奨する。ファンドへの相談前に、M&Aアドバイザーや仲介会社に「無料の簡易バリュエーション」を依頼するのが最初のステップだ。自社の価値を客観的に知ることで、ファンド活用かM&A売却かの判断軸が定まる。
Q. 小規模な会社(売上1億円以下)でも活用できますか?
ファンドによって対象規模は異なる。今回の「内部承継プラットフォーム」は大手連合での設立だが、地域の信用金庫・政策金融機関が組成する小規模企業向けファンドも存在する。規模にかかわらず、まず専門家に相談して選択肢を広げることが重要だ。
Q. 今回のファンドに自社の株式を売却することは直接できますか?
今回の「内部承継プラットフォーム投資事業有限責任組合」は、投資対象の発掘・選定をGP(野村リサーチ・アンド・アドバイザリー)が行う。直接の申し込み窓口は現時点では公開されていないため、日本M&Aセンターなど参画企業経由での相談が現実的だ。
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まとめ:事業承継の「新しい選択肢」として認識せよ
今回の大手連合によるファンド設立は、日本の中小企業が抱える後継者問題に対して、新しい解決策が生まれたことを示している。
「外部に売るか、廃業か」という二択ではなく、「内部の人材に承継するためのファンドを活用する」という第三の道が現実的な選択肢になりつつある。
ただし、事業承継ファンドが適切かどうかは企業の状況によって異なる。後継者候補の有無、財務状況、経営者の引退後のビジョンなどを整理したうえで、M&A・ファンド・内部承継のどれが最適かを専門家と一緒に判断することが重要だ。
まずは自社の現状を客観的に把握する「企業価値の簡易試算」から始めてみることをおすすめする。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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