事業譲渡とは? 株式譲渡との決定的な違い・メリット・税務を徹底解説

「事業譲渡」とは、M&Aのスキームの一種で、企業が有している事業のすべてまたは一部を第三者に譲渡することをいいます。この記事では、同じくM&Aのスキームの一種である「株式譲渡」とどのような違いがあるのか、事業譲渡というスキームを選択したときにどのようなメリットが考えられるのかなどについて、詳しく解説していきます。

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目次
  1. 事業譲渡の定義、株式譲渡の定義は?
  2. 事業譲渡と株式譲渡の主な違い
    1. 事業譲渡と株式譲渡の契約内容の違い
    2. 事業譲渡と株式譲渡の会計処理の違い
      1. 事業譲渡の場合
      2. 株式譲渡の場合
  3. 全部譲渡の場合も経営権は移転されない?
    1. 事業譲渡後、会社が清算・解散予定である
    2. 事業譲渡後、役員が交代となる場合
    3. 事業譲渡と株式譲渡を同時におこなう場合
    4. 新設会社に事業譲渡後、その会社の株式を買収
  4. 株式譲渡ではなく全部譲渡を選択するメリットは?
    1. 買収側にとってのメリット
    2. 売却側にとってのメリット
  5. 株式譲渡ではなく全部譲渡を選択する典型パターン
    1. リスクが読めない
    2. 再建・再編前提
    3. 株式が動かせない
  6. 事業譲渡の流れは?
    1. 事業譲渡の検討
    2. アドバイザリー契約の締結
    3. 候補先探し
    4. 秘密保持契約(NDA)の契約
    5. 企業概要書(IM)の提示
    6. トップ面談
    7. 基本合意書(MOU)の締結または意向表明書(LOI)の提示
    8. デューディリジェンス(DD)
    9. 取締役会での決議
    10. 事業譲渡契約の締結
    11. (必要に応じて)臨時報告書の提出
    12. (必要に応じて)公正取引委員会への届出
    13. 株主に対する通知または公告
    14. 反対株主による株式買取請求
    15. 株主総会の開催
      1. 簡易事業譲渡とは?
      2. 略式事業譲渡とは?
    16. 必要な許認可の取得
    17. クロージング
  7. 事業譲渡に関するFAQ(よくある質問)
    1. Q. 赤字の事業でも譲渡できますか?
    2. Q. 個人事業主でも事業譲渡は可能ですか?
    3. Q. 競業避止義務とは何ですか?
  8. まとめ|事業譲渡は「選別」と「合意」が成功のカギ

事業譲渡の定義、株式譲渡の定義は?

「事業譲渡」とは、企業が自社の事業のすべてまたは一部を第三者に引き継ぐことで、M&Aのスキームの一種です。

事業譲渡のうち、自社の事業のすべてを譲渡することを「全部譲渡」、一部の事業のみを譲渡することを「一部譲渡」といいます。なお、一部譲渡の場合、売り手側は、譲渡する資産および負債、契約、従業員などを個別に選択可能です。

一方、「株式譲渡」とは、対象企業の株主が保有している株式を第三者に売却することによって、対象企業の経営権を第三者に移転させることをいいます。買い手側は、株式を取得することによって会社をそのまま引き継ぐことができるため、後継者不在の場合の事業承継目的などで株式譲渡が活用されるケースが多いです。

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事業譲渡と株式譲渡の主な違い

事業譲渡と株式譲渡の主な違いは、次の表の通りです。

事業譲渡 株式譲渡
取引相手 ・売却側:法人または個人事業主
・買収側:法人または個人
売却側:株主
買収側:法人または個人
売買対象 事業 株式
移転するもの 事業およびそれに関連する資産や負債、権利義務、従業員など 会社の所有権および経営権
従業員の処遇 個別に移籍手続きが必要 雇用継続
譲渡目的 ・売却側:事業の選択と集中、不採算事業からの撤退、事業承継
・買収側:事業拡大、新規事業への参入
・売却側:事業承継、経営基盤の強化
・買収側:事業拡大、新規事業への参入
契約内容 事業譲渡契約 株式譲渡御契約
会計処理 承継した事業の純資産価額と譲渡対価の差額が「のれん」として計上される 譲渡された会社の個別財務諸表に「のれん」は計上されないが、買収企業の連結財務諸表に、株式の取得価額と取得した会社の純資産との差額が「のれん」として計上される場合がある
課税される税金 ・売却側:事業の譲渡益に対して法人税などが課税される
・買収側:譲渡対象の資産に応じて消費税が課税される(ただし、仕入れ税額控除によって相殺されるのが一般的)、不動産を取得した場合は不動産取得税や登録免許税も発生する
・株主が個人の場合:譲渡所得に対して所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた20.315%が申告分離課税として課される
・株主が法人の場合:譲渡益を他の所得と合算したうえで法人税等が課される
許認可の承継 個別に手続きが必要 自動承継

事業譲渡と株式譲渡の契約内容の違い

事業譲渡の場合、売却側と買収側との間で「事業譲渡契約」が締結されます。事業譲渡契約締結にあたっては、譲渡対象となる事業に関わる資産や負債を明らかにする必要があります。それに伴い、取引先などとの契約を結び直す必要が出てくるため、従業員や取引先に個別対応しなくてはなりません。顧客契約や賃貸借契約などに関しても、承認手続きが必要となります。

具体的には、オフィスの賃貸借契約の再審査・名義変更、リース契約の巻き直し、銀行口座の新規開設、公共料金の引き落とし口座変更、取引先との基本契約書の再締結など、膨大な事務手続きが発生します。株式譲渡であればこれらは原則不要ですが、事業譲渡ではこれら全てをクロージング日までに(または直後に)完了させる必要があるため、実務担当者の負担が非常に大きいスキームと言えます。

株式譲渡の場合、売却側と買収側との間で「株式譲渡契約」を締結します。契約書には、株式譲渡の基本事項に加えて、表明保証や制約事項などを記します。契約書の内容に基づいて、買収する側が代金を支払い、売却する側が株式を交付した後、株式名簿の書き換えをおこないます。

事業譲渡と株式譲渡の会計処理の違い

事業譲渡と株式譲渡の会計処理においては、「のれん」の扱いに大きな違いがあります。

事業譲渡の場合

事業譲渡においては、承継した事業の純資産価額と譲渡対価の差額が「のれん」として計上されます。なお、「税務上ののれん」と呼ばれる資産調整勘定が発生した場合、5年間にわたって償却することとなりますが、償却費は「損金」として計上することが認められています。

  • 売却する側の会計処理
  • 先の表で解説した通り、売却側には、事業譲渡益に対して税金が課されます。事業譲渡益は「譲渡価格-譲渡資産の簿価」の計算式で算出します。会計処理する際は、現金と事業譲渡益を借方と貸方に計上して、譲渡した資産を貸方から除外します。

  • 【重要】オーナーの手取り額への影響
  • 株式譲渡であれば、株主である個人に直接対価が入り、税率は約20%で済みます。一方、事業譲渡の場合は「会社」に対価が入るため、まず約30〜34%の実効税率で法人税等が課税されます。さらに、その残った現金をオーナー個人が受け取るには「役員報酬」や「配当」などの形で引き出す必要があり、そこでも所得税などが課税されます。結果として、株式譲渡よりもトータルの税負担が重くなるケースが多いため、税理士による事前シミュレーションが必須です。

  • 買収する側の会計処理
  • 譲渡対価と譲渡対象事業の資産・負債との差額である「のれん」を5年~20年以内に償却することになります。「税務上ののれん」である資産調整勘定が発生した場合、5年間にわたって償却して、償却費を損金として計上できます。

  • 【重要】消費税によるキャッシュフロー圧迫
  • 株式譲渡は非課税ですが、事業譲渡は課税取引です。土地などの非課税資産を除く譲渡資産(建物、在庫、のれん等)に対して消費税(10%)が課税されます。この消費税分は、M&A実行日に譲渡対価と合わせて一括で支払う必要があります。決算後に還付される可能性がありますが、一時的に多額の現金が出ていくことになるため、買収資金の調達計画においては消費税分を含めた資金繰りが必要です。

    株式譲渡の場合

    株式譲渡の場合、個別承継ではなく包括承継となるため、会社の帳簿もそのまま引き継がれます。したがって、譲渡された会社の個別財務諸表にのれんが計上されることはなく、株式の取得価額と譲渡された会社の純資産評価額との差額として、買い手企業の連結財務諸表上に計上されることになります。

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    全部譲渡の場合も経営権は移転されない?

    事業譲渡と株式譲渡の主な違いを確認したところで、「事業をすべて譲渡した場合も、経営権が移転することはないの?」と疑問に思う人もいるでしょう。

    結論からいうと、事業譲渡そのものでは、経営権が移転することはありません。ただし、一定の条件がそろうと、実質的に経営権が移転するか、または“移転したように見える”ことがあります。

    具体的にどのようなケースにおいては経営権が移転するかというと次の通りです。

    事業譲渡後、会社が清算・解散予定である

    全部譲渡後、事業を売却する側の会社が清算・解散する場合、会社の価値および経営の中身がまるごと買収する側に移ったようなものであることから、“移転したように見える”という状態になります。

    事業譲渡後、役員が交代となる場合

    事業譲渡後、買収する側が売却する側に送り込んだ人物が経営陣となる場合、事業単位でみると、「経営支配が移った」といえます。

    事業譲渡と株式譲渡を同時におこなう場合

    表向きは「事業譲渡」ということにしながら、実際には株式譲渡も同時に実行して経営権を移転させる場合もあります。

    新設会社に事業譲渡後、その会社の株式を買収

    売却する会社が新会社を設立して、その会社に事業を譲渡した後、買収する会社が新会社の株式を取得した場合、売却する会社から直接株式を買収したことにはなりませんが、段階的に経営権が移転しているということになります。

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    株式譲渡ではなく全部譲渡を選択するメリットは?

    全部譲渡では基本的に経営権は移転されないとなると、「株式譲渡ではなく全部譲渡を選択するメリットは?」という点が気になる人も多いでしょう。

    株式譲渡であれば、先に解説した通り包括承継となるため手続きも簡便であるのに、なぜわざわざ全部譲渡という選択を取るのかというと、実務においてははっきりした理由があります。

    その理由とは、「不要なものを引き継がせなくていい」ということです。

    株式譲渡は、会社そのものを引き継ぐことになるため、簿外債務や過去のトラブル、偶発債務も丸ごと承継することになります。もちろん、税務調査・訴訟・未払い残業代なども承継の対象です。これに対して、事業譲渡に含まれる全部譲渡の場合、譲渡対象を個別に特定できるため、負債などを引き継がせることなく、事業を承継してもらうことが可能です。

    まとめると、株式譲渡ではなく全部譲渡を選択する、買収側・売却側それぞれにとってのメリットは次の通りです。

    買収側にとってのメリット

  • 「この借入・この契約だけ引き継ぐ」が可能であるため簿外債務・リスクを遮断できる
  • デューディリジェンス(DD)リスクも最小化できる
  • 引き継ぐ従業員のみ個別で同意を得ればいいため組織再編・PMIが楽
  • 売却側にとってのメリット

  • 法人格、社歴、免許(業種による)を保持できるため、事業転換や別事業立ち上げも可能
  • 会社の意思決定だけで売却できるため、株主の同意を得なくていい
  • 事業を売却しても会社が残ることから、心理的ハードルが低く、実行に移しやすい
  • まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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    株式譲渡ではなく全部譲渡を選択する典型パターン

    上記メリットが絡んでいる場合を含め、株式譲渡ではなく全部譲渡を選択する典型パターンは次の3つです。

  • リスクが読めない
  • 再建・再編前提
  • 株式が動かせない
  • それぞれ詳しくみていきましょう。

    リスクが読めない

    創業年数が長い、帳簿が荒いなどの場合、過去に遡ってリスクのもととなりそうなことを確認するのが困難な場合があります。また、元役員・元従業員がトラブルを起こした場合の影響などについても、把握することは難しいと考えられます。

    再建・再編前提

    赤字事業や不採算部門を再建・再編前提で買収するケースがあります。また、業界転換予定の場合などもこのケースに含まれます。

    株式が動かせない

    相続未了、株主不明など、株式が動かせない事情がある場合、実質的に「株式譲渡はできない」ことから、事業譲渡を選ぶ場合があります。種類株式が複雑な場合などもこれに該当します。

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    事業譲渡の流れは?

    事業譲渡では、主に次のステップを踏んで手続きを進めていきます。

  • ①事業譲渡の検討
  • ②アドバイザリー契約の締結
  • ③候補先探し
  • ④秘密保持契約(NDA)の締結
  • ⑤企業概要書(IM)の提示
  • ⑥トップ面談
  • ⑦基本合意書(MOU)の締結または意向表明書(LOI)の提示
  • ⑧デューディリジェンス(DD)
  • ⑨取締役会での決議
  • ⑩事業譲渡契約の締結
  • ⑪(必要に応じて)臨時報告書の提出
  • ⑫(必要に応じて)公正取引委員会への届出
  • ⑬株主に対する通知または公告
  • ⑭反対株主による株式買取請求
  • ⑮株主総会の開催
  • ⑯必要な許認可の取得
  • クロージング

    それぞれ詳しくみていきましょう。

    事業譲渡の検討

    事業譲渡検討の段階では、売却する側は、自社の事業価値を正確に評価して、譲渡目的や希望する条件を明確にする必要があります。また、従業員や取引先に対する影響を考えたうえで、適切なプランを策定していくことも大切です。「適切なプラン」を考えるうえでは、先に解説した通り、事業譲渡のほかに、株式譲渡などの選択肢もあることを視野に入れます。

    一方、買収する側は、買収候補となる事業の市場価値や成長可能性を見極めるべく、競合分析や業界動向の調査をおこなうことが大切です。また、売却する側の財務状況や組織文化を理解して、事業譲受後の統合戦略についても考えていきます。

    アドバイザリー契約の締結

    事業譲渡を含むM&A進めるうえでは、M&A仲介会社などの専門家とアドバイザリー契約を締結することが一般的です。なぜかというと、M&Aを進めるにあたっては法務・税務等の専門知識が不可欠で、当事者同士のやりとりでは思わぬトラブルを抱えてしまうリスクがあるためです。

    また、アドバイザリーは、買収候補企業の財務状況やビジネスモデルの分析や、買収後のシナジー効果を最大化するための戦略立案まで請け負ってくれます。つまり、アドバイザリー契約を締結することによって、M&A成功の可能性が高くなるということです。ただし、事業譲渡の実績が豊富で、信頼できるアドバイザリーを選ぶことが大切です。

    候補先探し

    事業譲渡の対象となる候補先を探します。候補探しの段階においては、売却候補または買収候補となる企業を一覧にした「ロングリスト」および、ロングリストを絞り込んだ「ショートリスト」が作成されます。ショートリストには、実際に交渉に進む可能性のある企業のみを載せて、優先順位も付けます。

    さらに、売却する側は、企業が特定されない範囲で自社の情報をまとめた「ノンネームシート」を作成して、仲介会社を通じて買収候補となる企業に開示します。これによって、機密性を保ちながら、買収候補となる企業の興味を引くことができます。

    秘密保持契約(NDA)の契約

    候補先のなかから、交渉に進む企業を選定したら、秘密保持契約(NDA)を締結します。締結の目的は、譲渡対象となる事業に関連する機密情報の漏洩を防ぐことです。秘密保持契約(NDA)には、機密情報の定義、情報の使用目的・開示範囲、情報の返却または破棄に関する規定、契約違反時の措置などが盛り込まれます。これらの条項に関して、双方が納得したら、秘密保持契約(NDA)に署名します。

    企業概要書(IM)の提示

    ノンネームシートでは伏せていた詳細な情報を記した「企業概要書(IM)」を提示します。具体的には、事業の歴史、企業のビジョン、財務状況、競争優位性、顧客基盤などの情報を盛り込みます。

    企業概要書(IM)は、「詳細に記すこと」「正確に記すこと」のほかに、「リスクや課題についても明確に記すこと」が重要です。

    トップ面談

    売却する側と買収する側の経営者が直接顔を合わせて、事業に向けての意思確認や信頼関係の構築をおこないます。これを「トップ面談」といいます。トップ面談の目的は、双方のビジョンや企業文化、長期的な戦略、譲渡・譲受理由がどの程度一致しているのかをお互いに確認することです。

    トップ面談は、通常、1回のみおこなわれますが、相手企業を見学したいという希望がある場合などは、複数回おこなわれることもあります。

    基本合意書(MOU)の締結または意向表明書(LOI)の提示

    仲介会社を通して、基本合意書(MOU)の締結または意向表明書(LOI)の提示がおこなわれます。基本合意書には、取引の基本的な条件、譲渡対象となる範囲、大枠の価格、支払い条件、デューディリジェンス(DD)のスケジュール、秘密保持に関する条項などが盛り込まれます。意向表明書とは、買収する側が事業譲渡に対して強い関心を持っていることを示す文書です。いすれの書類も法的拘束力は限定的ですが、後々のトラブルを防ぐために大切な書類となります。

    デューディリジェンス(DD)

    譲渡対象の事業に関する詳細な調査をおこないます。これをデューディリジェンス(DD)といいます。過去数年間の財務諸表を分析して、収益性や資産負債の実態を評価する「財務デューディリジェンス」、契約関係や法的義務の有無を確認して、潜在的な法的リスクを洗い出す「法務デューディリジェンス」のほか、「税務デューディリジェンス」「人事デューディリジェンス」「知的財産デューディリジェンス」など、多岐にわたる分野の情報についての調査をおこないます。

    取締役会での決議

    取締役会において、事業譲渡を正式に承認するかどうかの決議をおこないます。なお、取締役会が設置されていない場合、取締役の過半数の賛成が求められます。取締役会決議を適切に進めるために、決議の対象となる事業譲渡の範囲と内容の明示をはじめ、事前に十分な情報を提供して、取締役に対して理解を促す必要があります。また、利害関係者の利益に配慮して、透明性を確保することや、会議の辞儀録を正確に作成して、法的証拠として保存することも大切です。

    事業譲渡契約の締結

    取締役会での決議が下りたら、売却する側と買収する側との間で事業譲渡契約を交わします。事業譲渡契約には、譲渡対象資産・負債、譲渡価格と支払い条件、契約承継の範囲、従業員の取り扱い、表明保証条項、違約金・損害賠償条約、秘密保持義務などを盛り込みます。

    (必要に応じて)臨時報告書の提出

    有価証券報告書の提出義務がある会社は、一定の要件に該当する場合、事業譲渡がおこなわれた事実やその詳細を公的に報告するための「臨時報告書」を内閣総理大臣に提出しなければなりません。このことは、金融商品取引法第24条の4において定められています。

    なお、臨時報告書の提出が必要となるケースは次の通りです。

  • 最近事業年度末日と比較して純資産が30%以上増加もしくは減少が見込まれる事業譲渡
  • 最近事業年度と比較して売上高が10%以上増加もしくは減少が見込まれる事業譲渡
  • なぜ、これらの事業譲渡の場合、臨時報告書を提出する必要があるかというと、株主や投資家、取引先などのステークホルダーに対して、会社の経営状況の変化を明確に伝える必要があるためです。

    参照:e-GOV「金融商品取引法」

    (必要に応じて)公正取引委員会への届出

    買い手企業の国内の売上高合計が200億円を超えていて、かつ次の条件に該当する場合、独占禁止法によって公正取引委員会への届出が必要とされています。

  • 国内売上高が30億円を超える会社の事業の全部を譲受する場合
  • 売り手の事業の重要部分の譲受であり、譲受対象の部分が売上高30億円を超える場合
  • 売り手の固定資産の全部または重要部分の譲受であり、譲渡対象の部分が売上高30億円を超える場合
  • 届出には、譲渡する事業の内容や取引の背景、取引が市場に与える可能性がある影響などを記します。これをもとに公正取引委員会が市場競争に及ぼす影響を評価して、場合によっては、取引の中止または条件変更を求めることになります。なお、届出受理から30日を経過しなければ、事業譲渡をおこなうことができません。

    株主に対する通知または公告

    売却する側、買収する側ともに、それぞれの株主に対して、事業譲渡契約の効力発生日の20日前までに通知または公告をおこないます。この手続きは、株主への透明性を確保して、権利を保護するために不可欠なものとされています。

    通知する場合、株主が適切に判断できるよう、譲渡の背景や目的、譲渡される事業の範囲や条件などをきちんと説明します。なお、特定の条件を満たしている場合、株主への個別の通知は省略して、公告のみおこなえばよしとされています。公告は、官報や会社のホームページを通しておこなわれます。

    反対株主による株式買取請求

    事業譲渡に反対する株主は、事業を売却しようとしている会社に対して、株式買取請求権を行使することができます。株式買取請求の手続きは、事業譲渡契約の効力発生日の20日前から前日までに書面でおこなうこととされています。買取請求を受けた会社は、反対株主の保有している株式を買い取る義務があります。

    買取価格には公正な評価が求められますが、会社と株主との間の協議で決定できない場合、裁判所が価格を決定する場合があります。なお、“公正な評価”をおこなうにはどうすればいかというと、会社の資産価値や将来収益性を考慮することが大切であるため、多くの場合、独立した専門家による鑑定評価が用いられます。

    株主総会の開催

    株主総会の特別決議を開催して、議決権を有する株主の過半数以上の出席かつ出席株主の3分の2以上の賛成を得る必要があります。特別決議においては、株主の理解を得るために戦略的にコミュニケーションをとる必要があります。事業譲渡が株主にどんなメリットをもたらすのか、会社の成長や存続のために、なぜ事業譲渡が不可欠であるのかを明確に示します。

    なお、簡易事業譲渡や略式事業譲渡に該当する場合、株主総会を省略できます。

    簡易事業譲渡とは?

    売却する側に関しては、譲渡する資産の帳簿価額が会社の総資産の5分の1以下である場合、買収する側に関しては、対価として支払う試算が会社の純資産の5分の1以下の場合、それぞれの株主総会を省略できます。これを「簡易事業譲渡」といいます。ただし、簡易事業譲渡に該当する場合、反対株主の株式買取請求が認められません。

    略式事業譲渡とは?

    売却する側または買収する側が、もう一方の議決権の90%以上を保有している場合、株主総会を省略することができます。これを「略式事業譲渡」といいます。また、こうした関係性を「特別支配関係」といいます。略式事業譲渡に該当する場合、特別支配株主は株式買取請求権を行使できません。ただし、特別支配株主以外の少数株主に関しては買取請求権が認められています。

    必要な許認可の取得

    特定の業種や業態においては、事業譲渡にあたって、許認可の取得が必要となります。たとえば、医療関連業や飲食業がこれに該当します。医療法や営業許可に基づく許認可の取得なしには、譲渡される事業を法令に基づいて運営することができないためです。

    許認可の取得が遅れると、スケジュール通りに事業を開始できないリスクが合うため、事前にスケジュールを立てて、余裕を持って手続きを進めることが肝心です。

    クロージング

    事業譲渡契約にしたがって譲渡金額が支払われ、すべての書類が適切に作成・署名・交換されると、事業尾所有権が買い手に移行して効力が発生します。通常、効力発生日はクロージングの日付として契約書に明記されます。

    なお、「クロージング」というと、それをもってすべての義務が果たされたように思えますが、クロージングした後にも、売却した側・買収した側が連携して、問題発生に備えたフォローアップ体制を整備していくことによって成功の確率が高まります。具体的には、事業譲渡後の税務申告や会計処理の確認、契約履行状況や従業員の処遇の確認などが挙げられます。

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    事業譲渡に関するFAQ(よくある質問)

    続いては、事業譲渡に関するよくある質問とその答えを解説していきます。

    Q. 赤字の事業でも譲渡できますか?

    事業譲渡は、むしろ赤字・不採算事業の整理手段として定番のスキームです。なぜかというと、「赤字=価値ゼロ」というわけではなく、顧客基盤や技術・ノウハウ、人材、ブランド、許認可などは、買い手にとって価値がある場合があるためです。そのため、「単体では赤字であっても、買い手の既存事業と統合すれば黒字化できる」と判断されることもあります。たとえば、営業網の活用、仕入れ・物流の共通化、間接部門の統合などによって、高いシナジー効果が見込まれる場合もあります。

    ただし、譲渡価格の実態としては、のれん価値なし・資産もほぼなしの「ゼロ円譲渡」となるケースが多いです。または、売却する側が「引き取り料」を支払うことによって事業を引き取ってもらう場合もあります。つまり、マイナス価格での譲渡ということになります。

    Q. 個人事業主でも事業譲渡は可能ですか?

    「事業譲渡と株式譲渡の主な違い」の表にも記している通り、個人事業主でも事業譲渡は可能です。設備や在庫、顧客リスト・営業権、屋号(商号)、ノウハウなどを譲渡することができます。ただし個人事業主の場合、原則として借入金や未払い金などの債務は譲渡されません。買収する側が引き継ぎに合意すれば別ですが、法人の場合と比べて、負債の譲渡が合意に至るケースは少ないと考えられます。

    また、税務に関して、資産ごとに課税区分がわかれるので注意が必要です。事業用資産を譲渡した場合は、原則、譲渡所得となり、棚卸資産を譲渡した場合、事業所得となります。

    個人事業主が事業譲渡するケースとしては、たとえば個人店などで後継者不在のケースなどが挙げられるほか、自分で設立した会社に事業を譲渡する、いわゆる「法人成り型」なども挙げられます。

    Q. 競業避止義務とは何ですか?

    競業避止義務とは、事業譲渡において売却した側が、一定期間・一定地域で、同じ事業をおこなわない義務のことです。事業譲渡では、顧客・ノウハウ・信用などを売るため、売った直後に同じ商売を始められると、買収した側の価値が損なわれるためです。

    具体的には、会社法21条において次のように記されています。

    (譲渡会社の競業の禁止)
    第21条 事業を譲渡した会社(以下、譲渡会社)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業をおこなってはならない
    2 譲渡会社が同一の事業をおこなわない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する
    3 前2項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業をおこなってはならない

    参照:e-GOV「会社法」

    なお、会社法は個人事業主にも適用される法律であるため、競業避止義務は、個人事業主も守る必要があるということになります。

    まとめ|事業譲渡は「選別」と「合意」が成功のカギ

    先に解説した通り、事業譲渡は、自社の事業のすべてまたは一部を譲渡するスキームであって、譲渡する対象は自由に選別することができます。そのため、売り手にとっても買い手にとってもメリットの大きい譲渡を実現することも可能です。ただし、従業員などが譲渡対象となる場合は、個別に合意を得る必要があるため、事業譲渡を成功させるためには、計画的かつ戦略的に手続きを進めていくことが不可欠となります。また、前述の通り、事業譲渡とは異なるメリットがある株式譲渡などのスキームもあるため、自社の事業の拡大または継続などを実現させるにあたって、どのスキームを選択することが最善であるのかをよく考えることも大切です。どのスキームを選ぶことが最善であるのかの判断に迷った場合は、早い段階で専門家に相談することが得策です。相談だけなら無料で受け付けているところも多いので、まずは気軽に相談することからはじめてみてもいいかもしれませんね。

    まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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    執筆 ジョブカンM&A編集部

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