少子高齢化が進む昨今、中小企業の後継者不足が深刻な社会課題となっています。問題解決のために、事業承継を目的としたM&Aを選択する企業は、業界問わず増えています。IT業界も然りで、事業承継型のM&Aが増加しているだけでなく、IT企業を対象にした買収案件も増加しています。こうした背景があるなかで、IT業界でM&Aを検討している場合、どのような戦略を立てる必要があるのでしょうか? 詳しく解説していきます。
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M&A全体の動向は?
帝国データバンクが実施した2025年度の全国「後継者不在率」動向調査では、2025年における日本企業の後継者不在率は50.1%にものぼることがわかっています。つまり、全体の約半数企業が後継者不足に悩まされているということです。この結果は前年の2024年から2.0ポイント低下しており、さらに7年連続で前年の水準を下回っていることもわかっています。
依然として後継者不在率は高いとはいえ、全体的に改善傾向が続いている大きな理由は、「自治体や民間のM&A仲介業者、とりわけ地域金融機関による事業承継への取り組み効果が加わり、事業承継の重要性が広く認知・浸透したこと」と考えられています。
参照:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2025年)
IT業界とは
冒頭で述べた通り、IT業界においてもM&Aが増加しているうえ、IT企業を対象にした買収案件も増加していますが、IT業界とはそもそもどのような業界であるのかを一度確認しましょう。
ITとは「Information Technology(情報技術)」の頭文字を並べた言葉で、IT業界とは、「情報技術を活用したサービスを展開する業界」を意味します。
代表的なものは以下の領域です。
それぞれ詳しく解説していきます。
ソフトウェア開発
ソフトウェア開発とは、システム、ゲーム、モバイルアプリ・ウェブアプリ、アプリケーションソフトウェアなどを開発することです。ソフトウェアの要件定義、設計、実装、テストの実施、保守・運用まで一貫して対応するケースが多いです。プログラミング言語は日々進化しているため、新しい技術に対応していくことが求められます。特に近年は、ノーコードツールや生成AIが発達しているため、これらに強い企業は有利です。
ハードウェア産業
ハードウェア産業が扱うものは、コンピューターやサーバー、ネットワーク機器などの電子機器、モバイルフォンなどで、ハードウェアの要件定義から、設計、試作、生産までおこないます。コンピューターやネットワーク機器ときくと、パソコン周りを想像しますが、自動車運転技術に関わるデバイスの開発などもこの分野です。
インターネット関連事業
webサイト構築、EC事業、オンラインゲームサービス、SNSなど、インターネットを活用したサービスを提供したり、ビジネスを展開したりする事業を、インターネット関連事業といいます。
情報セキュリティ分野
情報セキュリティ分野とは、コンピューターシステムやデータ、ネットワークなどを不正アクセスから保護する分野を指します。ネットワークセキュリティ、セキュリティ運用、アクセス認証、アプリケーションセキュリティなどがこれに該当します。近年では、サイバー攻撃への対応が大きな課題とされています。
ITサービス業
ITサービス業とは、企業や組織にIT関連サービスを提供する業界のことです。システム構築支援、ITコンサルティング業、データセンターの運営、SaaSなどのクラウドサービスなどがこれに該当します。近年はDX需要が高まっていることから、ITコンサルティング領域についてもニーズが高まっています。
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IT業界のM&Aの動向は?
日本でIT産業が誕生したのは1960年頃とされています。そのため、他の業界と比べて歴史は浅いですが、先に挙げた領域をみてもわかる通り、現代の私たちにとっては欠かすことのできないものを扱っている業界です。これまでの歴史を見ると、特に家庭用パソコンが普及し始めた1980年代から2000年代にかけては、IT業界の企業数は急激に増加しています。
それ以降のIT業界におけるM&Aの件数の推移については、日本M&Aセンターが作成している「IT業界のM&A件数推移」によって知ることができます。グラフによると、2010年から2022年までの12年間で、件数は約7倍にまで伸びており、2022年時点で、公表されているものだけでも約1,400件ものM&Aがおこなわれています。
参照:日本M&Aセンター「IT業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報」
では、なぜIT業界のM&Aが近年活性化しているのかについては、このあと解説していきます。
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IT業界のM&A件数が増えている理由は?
IT業界でM&A件数が増えている主な理由は次の通りです。
それぞれ詳しく解説していきます。
創業者の高齢化
前述の通り、IT業界の企業数が急激に増加したのは1980年代から2000年代にかけてです。その当時、30代~40代だった創業者たちの現在の年齢が、まず、昨今のIT業界でM&Aが増えている理由のひとつであるといえます。
上場後の企業価値の向上のための手段
昨今の、国内の新規上場社数は年間約100社ですが、そのうち4割以上が「情報・通信業」に分類される企業です。上場すると、株式市場から資金を調達することができますが、IT業種の場合、工場建設や店舗拡大など、有形固有資産に投資する必要がないため、調達した資金の主な投下先は人件費と広告宣伝費となります。また、最大の投資として、M&Aが検討されることが多いという特徴があります。つまり、将来有望なスタートアップなどを早い段階で自社グループに取り込んでおこうということです。
将来的に脅威となる同業他社を先んじて自社グループに入れるため
将来有望な企業だけでなく、将来的に脅威となりそうな企業を買収するケースもあります。これによって、自社の企業価値が下がる可能性を抑えることができるためです。
AIブームの加速・技術獲得競争の激化
IT業界の技術は日々進化していますが、そのなかでも昨今、目覚ましく成長しているのがAI関連の技術です。2025年1月には、OpenAI、Oracle、Softbankの3社によって5,000億米ドル規模のジョイントベンチャーが発表されて、アメリカでAI開発を支えるデータセンターネットワークの構築に着手されたことで、ますますAI関連企業への投資は活性化しています。
そうした社会情勢にあって、生成AI、言語処理、データ分析、オートメーションをはじめとする成長性の高い市場セグメントへの投資を選択する企業が増えています。
最新の技術を導入して、市場での競争優位を確保するためには、他社の技術や顧客基盤を取り込むことが有効と考えられるためです。
DXの加速
DXはあらゆる業界で加速しています。そうした状況下において、自社でDX人材を育成するより、既にノウハウがあるIT企業を買収するほうが効率的だとの理由から、M&Aを検討する企業が増えています。特に、製造業、小売業、金融業などの業界がIT企業を買収するケースは多いです。
専門技術を有した人材不足
IT業界では専門技術を有した人材不足が顕著です。そのため、“技術者チームごと”企業を買収する「アクイハイア(acqui-hire)」が増加しています。これは、日本のIT業界M&A市場の大きな特徴で、グローバル市場と比べて、人材確保を目的としたM&Aの割合が高いことが知られています。
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2025年IT業界M&Aのトレンドは?
2025年時点において、IT業界M&Aには次のようなトレンドがあります。
それぞれ詳しく解説していきます。
AIデータセンターおよび関連企業への投資が急増
「AIデータセンター」とは、AIの学習や推論などの高度な計算処理に特化して設計された、高性能なコンピューティングリソースを備えた専用施設です。従来のデータセンターとは異なり、AIの膨大なデータ処理に必要な高速ネットワーク、高性能GPU、専用AIプロセッサ、高度な冷却システムなどを備えています。
AIデータセンターは、生成AIの普及に伴い容量が拡大していることなどから、そこに着目して投資する企業が急増しています。
クロスボーダーM&Aの増加
「クロスボーダーM&A」とは、国境を越えておこなわれるM&Aのことです。譲渡企業または譲受企業のいずれか一方が海外企業である場合、クロスボーダーM&Aということになります。
日本は人口が減少して市場が縮小していることから、海外市場のほうが売上獲得が期待できることや、海外企業が有している顧客基盤と技術獲得によってさらなる成長が期待できることなどから、クロスボーダーM&Aを選択する企業が増えています。また、リモートワークの普及によって地理的制約が減っていることも大きな理由です。
中小企業の統合が加速
大手企業との競争力を高めるため、中小企業が、自社と同規模の企業と統合するケースが増加しています。また、IT業界においては、中小規模の企業は大手企業の二次請け・三次請けを担う仕組みが定着していることから、多重下請構造からの脱却を目的にM&Aを検討する経営者も増加しています。
BPaaS領域への進出拡大
SaaSは従来、「ソフトウェアを提供することでサービスが成り立つ」というものでしたが、昨今は、「ソフトウェアを活用してサービスを提供する」というBPaaS(Business Process as a Service)領域への進出を拡大していく流れにあります。これに対応するために、SaaS企業がサービス提供企業を買収ケース、サービス企業がSaaS企業を買収するケースの両方が増えています。中でも注目されているのは、特定の業界または業種に特化した「バーティカルSaaS」と、その業界でのサービス提供企業との統合です。
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IT業界のM&Aを成功させる秘訣(買い手・売り手共通)
IT業界のM&Aを成功させるためには、買い手・売り手双方が以下の点を重視して準備・交渉することが不可欠です。
それぞれ詳しく解説していきます。
専門技術を有した人材の流出を防ぐ
IT業界では“技術者チームごと”企業を買収する「アクイハイア」が増加していますが、買収後にキーマンとなるエンジニアが離職すると、M&Aの価値が毀損します。買い手は統合後のキャリアパスや待遇を明確に提示し、売り手はキーマンに対してM&Aの意義を丁寧に説明し、動揺を防ぐケアが必須です。
文化的適合性を正しく評価する
自由な社風のスタートアップを大企業が買収する場合など、文化的衝突(カルチャークラッシュ)が起こりやすい傾向にあります。買い手はDDの段階で相手先のコミュニケーションツールや意思決定フローを確認し、売り手は自社のカルチャーを隠さずに伝え、統合後の不協和音を防ぐ姿勢が大切です。
技術面のシナジーと「技術的負債」を確認する
買い手は、対象企業の技術スタックが自社と互換性があるか確認します。逆に売り手側にとって重要なのは、「技術的負債(保守性の低いコードや古いシステム)」の解消です。譲渡前にリファクタリング(プログラムの整理)をおこない、ドキュメントを整備しておくことで、企業価値(譲渡価格)の向上が期待できます。
知的財産(IP)の権利関係を整理する
特許、著作権、商標、OSS(オープンソースソフトウェア)のライセンス違反がないかは、最も重大なチェック項目です。特に売り手企業は、開発委託先との契約書において「著作権の帰属」が自社になっているか、使用しているOSSのライセンス表記に漏れがないか、DD実施前に自主監査をおこなっておくことが成功の鍵を握ります。
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IT業界特有のデューデリジェンス「ITデューデリジェンス」とは?
デューデリジェンスとは、M&Aや投資をおこなう前に、対象となる企業や事業の価値やリスクを評価するために実施する詳細な調査のことです。一般的には、組織や財務活動について調査する「ビジネス・デューデリジェンス」、財務内容からリスクを確認する「ファイナンス・デューデリジェンス」、定款や登記事項などをチェックする「リーガル・デューデリジェンス」などが実施されます。
一方、IT業界におけるデューデリジェンスは、企業価値やリスクを正しく判断するために、ITインフラやシステムに焦点を当てる必要があります。IT業界特有のこのデューデリジェンスのことを「ITDD(ITデューデリジェンス)」「システムデューデリジェンス」といいます。
ITデューデリジェンスの主な調査項目は次の通りです。
それぞれ詳しく解説していきます。
ITインフラの構成
売り手企業のITインフラ構成に関して、インフラを構成する各要素の情報を洗い出します。ハードウェア、ソフトウェア、サーバーなどについて、詳細なスペックやバージョン、ベンダー情報なども確認します。また、それぞれのシステムが組織全体のなかでどのような役割を担っているのかも明確にしていきます。
ITシステムの運用コスト
売り手企業がシステムの運用や保守にどの程度のコストを費やしているのかを確認します。具体的には、開発費、運用費、保守費、ハードウェア費用、ソフトウェア費用、人件費、外部委託費などをチェックします。
ITシステムの運用体制
ITシステム自体は堅牢であったとしても、それを運用する体制に問題があれば、システムが安定的に稼働できない恐れがあります。また、管理や保守を外部企業に委託している場合、保守費用が想定外に高額であるケースもありますし、外部企業への依存度が高いことによるセキュリティリスクなども懸念されます。そのため、買収前に、売り手企業のITシステムの運用体制についてしっかり確認することで、買収後のITシステム運用にかかるコストや運用体制を調整していくことが大切です。
また、大手企業のグループ会社のうち1社を買収するケースにおいては、売り手企業のシステムの一部が親会社に依存している可能性についても探る必要があります。なぜかというと、もし親会社に依存しているシステムがあった場合、一般的に、買収後にはそのシステムが利用できなくなるため、システム復旧や代替手段の確保に多額の費用を要すことになりかねないためです。
ITセキュリティリスクの対策
売り手企業のITセキュリティリスクへの対策状況を確認しておくことは、潜在的なリスクの特定や、適切な対策の構築につながります。セキュリティインフラの整備状況はもちろん、従業員のITリテラシー教育の実施状況についても確認することが大切です。たとえば、セキュリティインフラの整備状況は万全であっても、IT教育が行き届いていないとなると、M&A後に大きな教育コストが発生する可能性があります。
ITインフラの親和性
経営統合後のシステム連携の可能性および親和性についても、詳細に調査する必要があります。具体的には、ネットワークの構成・機能、ハードウェアおよびソフトウェア、セキュリティ対策の状況、基幹システム(ERP、CRMなど)の種類・バージョン、カスタマイズ状況、利用しているデータベースなどを調査します。プロバイダとの契約条件、契約期間、サービスレベルなども忘れないように調査しましょう。
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ITデューデリジェンスを実施する流れは?
ITデューデリジェンスを実施するタイミングに決まりはありませんが、一般的には、法務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスなどの、そのほかのデューデリジェンスと並行して実施されるケースが多いです。その場合、IT以外の分野に関する専門知識が求められることになるので、高度なIT知識を有した人材のほかに、たとえば弁護士などの専門家を含んだ調査チーム組成することが大切です。
また、ITデューデリジェンスを実施する基本的な流れは、そのほかのデューデリジェンスと同じで、おおまかな流れとしては次の通りとなります。
1. 調査チームを組織する
2. 調査項目・調査方針を検討する
3. 秘密保持契約(NDA)を締結する
4. 資料や面談をもとに分析をおこなう
5. 調査結果をもとに取引を検討する
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失敗しないための「IT-PMI(システム統合)」実務ガイド
M&Aの成否は、契約締結後の統合プロセス「PMI(Post Merger Integration)」で決まると言われます。特にIT業界においては、人事や経理の統合に加え、複雑な「ITシステムの統合(IT-PMI)」が発生します。ここでの失敗は、サービス停止や顧客情報の漏洩など致命的な事故につながりかねません。
IT-PMIは主に以下の3つのフェーズ・領域で計画を立てる必要があります。
1. ITインフラ・セキュリティの統合(守りのPMI)
最も優先度が高いのがセキュリティポリシーの統一です。 ・PCやサーバーのウイルス対策ソフトの統一 ・ID管理・アクセス権限の統合(Active Directory等の連携) ・社内ネットワークの接続ルールの統一 これらが遅れると、セキュリティレベルの低い方からサイバー攻撃を受けるリスク(サプライチェーン攻撃)が高まります。
2. 業務システム・ツールの統合(業務効率化のPMI)
コミュニケーションツール(Slack, Teams等)、会計システム、勤怠管理システムなどをどちらかに寄せるか、あるいは連携させるかを決定します。特にエンジニアにとっては、開発環境や使用ツールが変わることは大きなストレス要因となるため、現場の意見を吸い上げながら慎重に進める必要があります。
3. プロダクト・サービスの統合(攻めのPMI)
顧客に提供しているサービス(SaaSやアプリ等)の統合です。 ・顧客ID(ログインアカウント)の共通化 ・データベースの統合 ・UI/UXの統一 最終的にはサービスそのものを一本化するのか、並行稼働させるのか。技術的な実現可能性とコスト(移行コスト)を天秤にかけ、数年単位のロードマップを引くことが求められます。
IT業界は変化がスピーディ! M&Aの成功のためには、常に最新の動向をチェックすることが不可欠
IT業界のM&Aは近年活性化しているため、他の業界と比べると、マッチングする可能性は高いと考えられます。ただし、IT業界はトレンドの移り変わりが激しいことから、自社にとって最適なM&Aのタイミングを見極めることが大変重要です。そのためにも、常に最新の動向を負い続けておくことは必須なので、M&A関連の媒体やニュース番組をこまめにチェックする習慣をつけることをおすすめします。
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この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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