消滅会社とは、吸収合併をおこなうことによって、他の会社に吸収されて法人格がなくなってしまう会社のことです。反対に、他の会社を吸収して存続する会社を「存続会社」といいます。今回は、このうち「消滅会社」にスポットを当てて、実務担当者が押さえるべきポイントを中心に解説していきます。
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消滅会社にとってのメリットとM&Aにおける役割
法人格が消滅するときくと、「吸収合併は消滅会社にはメリットをもたらさないのでは?」と考えてしまうかもしれません。
しかし、消滅会社は吸収合併を通して、経営基盤の安定を手にできる可能性が高いため、消滅会社にとってもメリットは大きいといえます。なぜかというと、消滅会社となる会社は、一般的に存続会社よりも規模が小さく、後継者が見つからないケースなどが多いですが、存続会社に吸収されることによって、権利も義務も、従業員の雇用も引き継いでもらえるためです、
一方、存続会社は消滅会社の権利義務や従業員を引き継ぐことで、経営資源を獲得できます。これによって、販路の拡大や新規事業への進出を実現できる場合もあります。加えて、消滅会社の資産および負債もすべて引き継ぐことになるため、決算書上で、事業規模を大きく見せることができます。株主を含めた投資家の期待が大きければ、株価が値上がりすることも期待できます。
また、株主にとっては、保有する株式が存続会社の株式や現金に交換されるため、M&Aの対価(買収価格)として現金を手にしたり、より安定した存続会社の株式を保有することでリスクの分散やリターン獲得の機会を得られるという側面も重要です。
【実務担当者が押さえるべきポイント】吸収合併において消滅会社がおこなう手続き
吸収合併において、消滅会社は次の9つのステップを踏む必要があります。
上記手続きに先行し、実務上最も重要かつ負担が大きいのが、存続会社(買い手)によるデューデリジェンス(DD:買収監査)への対応です。消滅会社(売り手)は、自社の財務、法務、事業、人事などに関する詳細な情報を開示し、質問に回答する義務があります。このDDの結果は、合併対価(買収価格)の最終決定に大きく影響するため、実務担当者は正確かつ誠実に臨む必要があります。
それぞれ詳しく説明していきます。
合併契約書の作成と締結
最初に、吸収合併の実施に向けて、合併契約書を作成して相手企業と締結します。合併契約書には、会社法第749条に基づいて、次の内容を記します。
また、吸収合併の条件面についても記載します。条件に関しては、合併契約書を作成する前に双方で話し合って決めます。なお、合併契約書に記載漏れがある場合、契約書の効力が発揮されないため注意が必要です。
合併契約書の事前開示
合併契約書を締結したら、株主や債権者から内容について承認を得るか、あるいは意義を申し出る機会を与えるために、合併契約内容をまとめた書類を、合併に先駆けて開示します。
合併の承認を得るために株主総会を開催
合併契約書に記載した「効力発生日」の前日までに、株主総会を開催して、吸収合併することに対しての承認を得る必要があります。なぜかというと、吸収合併をおこなうと、会社の組織が大きく変わってしまうためです。
承認を得るためには、議決権を持つ株主の半数以上が出席する特別決議で、出席者の2/3以上に賛成してもらう必要があります。
ただし、一定の要件を満たしていれば、株主総会を省力しても構いません。要件を満たしている場合の吸収合併のことを「簡易合併」といいます。
また、株主総会では合併の承認と併せて、取締役・監査役の任期満了に伴う退任や再任についても決議します。合併によって役員が退任する場合、退職慰労金の支給についても併せて決議されるのが一般的です。
官報公告の実施
株式会社が吸収合併をおこなう場合に関しては、法律で官報公告の実施が義務付けられています。官報公告とは、吸収合併する旨を官報に掲載して、広く一般に知らせることです。また、官報公告と併せて、個別催告をおこなう場合もあります。
官報公告や個別催告を通して債権者に伝える主な内容は次の通りです。
吸収合併を実施すると、自社の財政状況や事業状態が大きく変わってくる場合がありますが、そうなると、株主や債権者にも影響が及びます。マイナスな影響が及ぶことを懸念する株主は、前述の特別決議に出席して反対の意思を表明することができますが、債権者は株主と比べて権利が制限されているうえ、事前に必要な情報を手に入れられない場合もあります。そうした事態を防ぐためにも、官報公告を実施して、債権者の権利を保護することが大切であるというわけです。
反対株主の株式買取請求に対応
合併に反対している株主からの株式買取請求に対応して、株主の権利を保護します。前述の通り、吸収合併をおこなうにあたっては、特別決議で承認を得る必要がありますが、その際、反対する株主が現れたとしても、株式買取請求に応じることによって、株主の権利を保護できるということになります。
なお、買取価格に関しては、会社と反対する株主とで相談します。協議によって決定できなかった場合、裁判所の決定に従うことになります。
債権者保護手続きの実施
官報公告や個別催告をおこなった後、期日までに債権者からの異議申し出がなかった場合、吸収合併に同意したとみなすことができます。一方、異議申し出があった場合、次のような方法で対応する必要があります。
なお、吸収合併によって債権者の権利が侵害されることがない場合、個別の対応は不要です。つまり、権利保護の手続きをとる必要がないということです。
吸収合併の効力発生
合併契約書に記載した効力発生日を迎えると、吸収合併の効力が発生します。このタイミングで、存続会社は消滅会社の権利義務をすべて引き継ぐことになります。
なお、効力発生後、存続会社は事後開示書類を措置する必要がありますが、消滅会社は事後開示書類を措置する必要はありません。
登記手続き
効力発生日から2週間以内に、登記手続きをおこなう必要があります。
存続会社は変更登記をおこなう一方、消滅会社は解散登記をおこないます。
登記には次の書類が必要です。
なお、解散登記の登録免許税は3万円です。
権利義務に関する手続き
効力発生日を迎えたら、吸収合併で承継される権利義務に関する手続きもおこなわなければなりません。
不動産の移転登記
消滅会社が所持している不動産は、存続会社に引き継がれることになるため、不動乱の権利を移転するための移転登記が必要になります。
銀行口座の名義変更
消滅会社が有している銀行口座の名義変更も必要になります。銀行口座は、吸収合併後も、営業関連の支払いや回収、税務申告などで使用することもあるので、手続きを先延ばしにしないようにしましょう。先延ばしにしたり、忘れてそのままでいたりすると、振り込みなどの場面で対応できなくなることがあります。
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【実務担当者が押さえるべきポイント】消滅会社の従業員への対応
吸収合併は基本的に包括承継であるため、従業員の雇用契約も継続されます。ただし、たとえば給与体系に関しては、そのまま引き継がれると、存続会社と消滅会社の2つの給与体系が存在することになるため、吸収合併のタイミングではないにしても、いずれは存続会社の給与体系に合わせていく傾向にあります。また、退職金制度についても同様であるため、従業員には、吸収合併によって生じ得る変更を改めて説明して、同意を得ておくとトラブルが起きにくいといえます。
また、吸収合併後の人事制度統一に際しては、存続会社への転籍に伴い、消滅会社の退職金制度が終了し、存続会社の制度に移行します。この際、退職金制度の終了に伴う中間精算が必要となる場合があります。この中間精算の実施有無、計算方法、資金の確保は、M&Aの対価算定(エスクロー含む)や資金繰りにも影響する重要実務です。
消滅会社の従業員に対して通知義務はある?
吸収合併によって生じ得る変更について、事前に従業員に説明することは大切ではありますが、法律的に通知義務があるかというと、通知義務はありません。ただし、従業員からすると、通知されなかった場合は会社に対して不信感を覚えるケースが多いと考えられます。また、授業員のモチベーション低下を防ぐためにも、予め説明することが望ましいといえるでしょう。
【実務担当者が押さえるべきポイント】消滅会社の決算および決算公告
消滅会社は効力発生日に消滅するため、その年の決算については、効力発生日の前日を決算日として実施することになります。つまり、事業年度の途中で解散する場合、事業年度の開始日から合併の前日までの期間を、1つの事業年度とみなして決算する必要があるということです。
なお、株式会社の場合、決算に用いる貸借対照表の公告が必要です。ただし、実務上では、存続会社が代わりに公告を実施することになるため、消滅会社側の実務担当者は手を動かす必要はありません。
【実務担当者が押さえるべきポイント】吸収合併後の実務は基本的に存続会社が担当
貸借対照表の公告に限らず、効力発生日以降の実務に関しては、基本的には存続会社の実務担当者が担当することになります。なぜかというと、前述の通り、吸収合併は基本的に包括承継であるため、権利も義務もすべて存続会社が承継することになるためです。
たとえば、消滅会社に関する税務調査や訴訟に関しても、存続会社が対応する義務を負うことになります。訴訟の場合、消滅会社が原告であっても被告であっても、存続会社がその訴訟を引き継ぐことになります。
スムーズな吸収合併のためにも専門家への依頼は必須
吸収合併において消滅会社がとるべき手続きの大枠は、ここまで説明してきた通りですが、実際には、個別のケースに即した内容で進める必要があるため、弁護士やM&Aアドバイザリーなどの専門家に相談することが大切です。なお、吸収合併を進めるべきかについて悩んでいる段階であっても、まずは相談だけでも持ち掛けてみることがおすすめですよ。
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この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
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