承継会社とは? 「会社分割」との関係性や、承継会社となるために必要な手続きなどを徹底解説

承継会社とは、M&Aの手法の一つである「会社分割」において、分割会社から事業を引き継ぐ(=承継する)会社のことです。本記事では、承継会社を目指すM&Aの買い手や、事業の一部を切り離したい売り手(分割会社)が知っておくべき、会社分割の全体像、承継のメリット・デメリット(リスク)、「会社分割」と「事業譲渡」の違い、そして承継会社となるための具体的な手続きまで、実務的な観点から徹底的に解説します。

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目次
  1. 承継会社とは
    1. 吸収分割
    2. 新設分割
  2. 承継会社が事業承継の対価として何を交付するのか?
    1. 吸収分割の場合:承継会社は対価を分割会社、または分割会社の株主に交付します。
    2. 新設分割の場合:承継会社は対価を分割会社の株主に交付します。
  3. 承継会社と分割会社の違いは?
  4. 会社分割と事業譲渡の違い
  5. 会社分割をおこなう主な理由
    1. 組織再編
    2. 複数事業の効率的な運営
    3. 新規事業立ち上げ
    4. 費用をかけずに事業を取得
    5. 税制優遇措置の活用
  6. 適格分割・非適格分割とは?
  7. 会社分割によって承継会社側に負担が生じる費用は?
  8. 承継会社になるメリット
    1. 事業取得のための手元現金を温存できる
    2. 他のM&A手法より手続きが簡単
    3. シナジー効果が期待できる
  9. 承継会社になるデメリット・リスク
    1. 隠れた負債を引き継ぐことになる場合がある
    2. 想定外の株主が経営に参加する可能性がある
    3. 債権の扱いに慎重になる必要がある
    4. 債権者との間でトラブルが起きる可能性がある
    5. 労働者との合意形成に時間がかかる場合がある
    6. 統合作業に時間がかかる
    7. 統合に失敗すると期待したシナジー効果が得られない
  10. 承継会社のリスク回避に必須なデューデリジェンス(DD)
  11. 承継会社化に必要な手続き・流れ
    1. 吸収分割における承継会社化の手続き
    2. 新設分割における承継会社化の手続き
  12. 会社分割の成功のためにも専門家を頼ろう

承継会社とは

承継会社とは、会社が自社の事業の一部または全部を別の法人に移転させる手法である「会社分割」において、事業を引き継ぐ側の会社のことです。
なお、会社分割はM&Aの一種で、「吸収分割」と「新設分割」の2つの方式があります。

吸収分割

吸収分割とは、特定の事業や権利義務を既に存在している他の会社に移す方式です。

新設分割

新設分割とは、特定の事業や権利義務を、新しく設立した会社に移す方式です。
吸収分割の場合、事業の一部または全部を引き継ぎ、自社の事業として運営していく会社が「承継会社」ということになります。一方、新設分割の場合、事業の一部または全部を引き継ぐ形で新設される会社が「承継会社」ということになります。

承継会社が事業承継の対価として何を交付するのか?

会社分割では、承継会社が分割会社に対し、その事業の対価として株式、現金、社債、または新株予約権などを交付します。
実務上最も多いのは、承継会社の株式を対価として交付するケースです。これにより、承継会社は手元資金を使わずにM&Aを実現できるというメリットがあります。
ただし、交付する対価によって、税制適格の要件(適格分割)が変わってくるため、どの対価を選択するかは税務の専門家と綿密に相談して決定する必要があります。

吸収分割の場合:承継会社は対価を分割会社、または分割会社の株主に交付します。

新設分割の場合:承継会社は対価を分割会社の株主に交付します。

承継会社と分割会社の違いは?

前述の「吸収分割」「新設分割」のいずれの方式をとった場合も、事業や権利義務の一部または全部を他の会社に譲渡する側のことを、「分割会社」といいます。
承継会社には、会社分割によって引き継いだ事業を大きくしていくことが期待されています。
一方、分割会社は、会社分割によって、事業を絞り込んだり、経営資源を再分配したりすることができます。
なお、会社分割によって、一部ではなくすべての事業を譲渡する場合、分割会社側には、法人格と資金のみが残ることになります。そうなった場合、次の3つの選択肢が考えられます。

  • 新しい事業を開始する
  • 解散・清算手続きをとって会社を消滅させる
  • 休眠会社として存続させる
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    会社分割と事業譲渡の違い

    事業の一部または全部を他の法人に移転させる手法は、会社分割にも当てはまりますが、事業譲渡にも当てはまります。
    ただし、会社分割と事業譲渡には明確な違いもあります。
    会社分割においては、譲受側は譲渡側から資産・負債・従業員などを包括的に引き継ぐため、個別に契約再締結や合意取得が不要です。
    一方、事業譲渡においては、資産・負債・従業員などを個別に譲渡・承継するため、譲渡対象ごとに契約再締結や合意取得が必要となります。
    また、事業譲渡においては、債務の引き受け方や譲渡範囲の設定によって、譲受側のリスク負担や税務処理が変わってきます。

    会社分割をおこなう主な理由

    会社分割によって、承継会社に事業を承継させる目的としては、次のようなことが挙げられます。

  • 組織再編
  • 複数事業の効率的な運営
  • 新規事業立ち上げ
  • 費用をかけずに事業を取得
  • 税制優遇措置の活用
  • それぞれ詳しくみていきましょう。

    組織再編

    もっとも多いのは、グループ内再編をおこない、事業の選択と集中を実現させるために、会社分割をおこなうケースです。

    複数事業の効率的な運営

    複数の事業を分割して新会社に承継させて、効率的な運営体制を構築したい場合にも、会社分割がおこなわれることがあります。

    新規事業立ち上げ

    既存事業を切り出して承継会社で展開することによって、分割会社側は新規事業に集中できます。

    費用をかけずに事業を取得

    詳しくは後述しますが、会社分割はM&Aの手法のなかでも、少ない額で実践できる手法です。そのため、費用をかけずに事業を取得したいときにも向いています。

    税制優遇措置の活用

    特定の要件を満たした会社分割であれば、税制上の優遇として課税が繰り延べられます。具体的な要件については、このあと解説していきます。

    適格分割・非適格分割とは?

    前述の、「税制上の優遇」を享受するためには、会社分割が「適格分割」である必要があります。
    適格分割とは、税法で定められた一定の要件を満たす会社分割のことで、これに該当しない場合、「非適格分割」となります。
    適格分割とみなされるためには、次の表で〇のついた項目をすべて満たしている必要があります。

    要件 グループ内 グループ外
    100%の支配 50~100%未満の支配 共同事業
    金銭・資産などの支払いがない
    移転事業の資産・負債を引き継ぐ
    80%以上の従業員を引き継ぐ
    分割する事業と承継会社の事業に関連がある
    事業を継続する見込みがある
    同等の事業規模を超えない
    双方役員が経営参画する
    株式継続保有

    M&A・事業承継で失敗したくないなら

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    会社分割によって承継会社側に負担が生じる費用は?

    会社分割によって承継会社側に負担が生じる費用としては、まず、承継会社の登録免許税が挙げられます。
    登録免許税は、会社分割によって資本金が増加しない場合は3万円で、資本金が増加する場合は、増加分の0.7%(ただし最低3万円)です。
    また、会社分割を公告するための官報掲載費用も必要です。官報掲載費用は文字数が行数によって異なりますが、目安としては3万円~10万円程度だと思っておくといいでしょう。
    そのほか、弁護士や司法書士、M&A仲介会社などにサポートを依頼した場合は、サポート費がかかることになります。この費用は、分割する事業の規模や内容によって異なりますが、目安としては数十万円~数百万円程度と考えられます。

    承継会社になるメリット

    承継会社になるメリットとしては、次の点が挙げられます。

  • 事業取得のための手元現金を温存できる
  • 他のM&A手法より手続きが簡単
  • シナジー効果が期待できる
  • 事業取得のための手元現金を温存できる

    承継会社は、現金以外の対価によって事業を買い取ることができるため、必ずしも手元に現金を用意しなくて大丈夫です。そのため、手元資金が乏しい企業でもM&Aを実現できる可能性が高いといえます。

    他のM&A手法より手続きが簡単

    会社分割は包括承継となるため、事業譲渡のように、資産や契約を個別に移転する手続きが必要な場合と比べて、比較的スムーズかつ短期間で手続きを終えることができます。

    シナジー効果が期待できる

    承継会社の既存事業と、新たに承継した事業とを連携させたり融合させたりすることで、事業拡大が効率化を図ることができます。たとえば、顧客基盤や販売チャネル、人材、ノウハウが一体化すれば、従来の私情以上の収益創出が期待できますし、新市場への展開も可能となります。また、統合による販売力強化ヤコスト削減を通じて、事業価値の向上を図れることも大きなメリットであるといえるでしょう。

    承継会社になるデメリット・リスク

    デメリットやリスクとしては、次の点が挙げられます。

  • 隠れた負債を引き継ぐことになる場合がある
  • 想定外の株主が経営に参加する可能性がある
  • 債権の扱いに慎重になる必要がある
  • 債権者との間でトラブルが起きる可能性がある
  • 労働者との合意形成に時間がかかる場合がある
  • 統合作業に時間がかかる
  • 統合に失敗すると期待したシナジー効果が得られない
  • 隠れた負債を引き継ぐことになる場合がある

    前述の通り、会社分割においては包括承継となるため、資産だけでなく負債も引き継ぐことになります。そのため、帳簿に記載されていない簿外債務や偶発債務があれば、想定外の支出や経営リスクにつながる可能性があります。これを防ぐためにも、承継前にデューデリジェンスを徹底して、リスクの有無や範囲を明確にしておくことが大切です。

    想定外の株主が経営に参加する可能性がある

    事業の対価を株式で支払う場合、分割会社の株主がそれを受け取ることによって、承継会社の株主構成が変化します。その結果として、これまで想定していなかった株主が経営に関与する可能性が出てきます。さらに、それによって経営の自由度が意思決定のスピードに影響が及ぶ可能性があるため、予め株主の意向や関係性に留意することが不可欠です。

    債権の扱いに慎重になる必要がある

    会社分割においては、分割会社の債務も承継会社に引き継がれることになりますが、債務超過の事業を承継することで、承継会社の財務状況が悪化する可能性があるため、債務の扱いには慎重になる必要があります。

    債権者との間でトラブルが起きる可能性がある

    前述の通り、承継会社は債務も引き継ぐため、会社分割の契約内容によっては、債権者とトラブルになるリスクがあります。

    労働者との合意形成に時間がかかる場合がある

    会社分割は、従業員も含めた包括承継であるため、承継会社は従業員と雇用契約を結ぶ直す必要がありませんが、従業員との協議によって合意を得る必要はあります。そのため、協議が難航して会社分割の手続きが進まないリスクがあります。

    統合作業に時間がかかる

    包括承継は、事業自体の移転手続きはスムーズですが、従業員やシステム、取引先の調整など、承継後の運営体制を整えるための準備にはそれ相応の時間がかかります。

    統合に失敗すると期待したシナジー効果が得られない

    統合に想定以上に時間がかかったり、思うように手続きを進められなかったりすると、期待したシナジー効果が得られない場合があります。

    承継会社のリスク回避に必須なデューデリジェンス(DD)

    承継会社は、会社分割による包括承継(資産と負債をまとめて引き継ぐこと)のリスクを最小限に抑えるため、デューデリジェンス(DD:買収監査)を徹底的に実施する必要があります。
    DDとは、承継する事業の財務、法務、税務、事業内容などを詳細に調査するプロセスです。特に以下の点に焦点を当てて調査することで、リスクを事前に把握できます。

  • 簿外債務・偶発債務の有無:退職給付引当金や訴訟リスクなど、帳簿に載っていない負債がないか。
  • 重要契約の確認:主要な取引先との契約に「チェンジオブコントロール(COC)条項」(M&A時に相手の同意が必要となる条項)がないか。
  • 移転対象財産の確認:譲り受ける資産や権利義務の適正な評価と漏れがないか。
  • DDの結果、深刻な問題が発見された場合、分割契約の内容を見直すか、最悪の場合はM&A自体を中止する判断を下すことになります。

    承継会社化に必要な手続き・流れ

    会社分割によって承継会社となる手続きは、吸収分割の場合と新設分割の場合とで多少異なります。

    吸収分割における承継会社化の手続き

  • 分割会社との間で「分割契約書」を作成・締結する
  • 取締役会や株主総会で承認決議をおこなう
  • 債権者保護手続きを実施して、公告や個別催告をおこなう
  • 労働契約の承継に伴う労働者への通知および協議をおこなう
  • 必要に応じて、許認可や契約の承継について関係機関と調整する
  • 登録免許税を納付して、登記申請をおこなう
  • 新設分割における承継会社化の手続き

  • 分割会社との間で「分割計画書」を作成する
  • 取締役会や株主総会で承認決議をおこなう
  • 債権者保護手続きを実施して、公告や個別催告をおこなう
  • 新設する会社の定款を作成して、公証人の認証を受ける
  • 資本金の払い込みや出資財産の確認をおこなう
  • 設立登記をおこない、新会社を正式に成立させる
  • 許認可・契約・労働契約の承継について、関係先と調整する
  • 2つのケースの主な違いとしては、まず、分割会社との間で作成する書類が「分割契約書」なのか「分割計画書」なのかという点です。
    また、吸収分割の場合、既存の会社が承継会社となるため、登録免許税を納付する必要があるのに対して、新設分割の場合、設立登記をおこなって新会社を成立させることが必要となります。

    会社分割の成功のためにも専門家を頼ろう

    前述の通り、承継会社化にはメリットもある一方、デメリットやリスクもあるため、会社分割を成功させるためには、自社の目的や状況を考えながら準備を進めていくことが不可欠です。その際、適切な専門家のサポートを得ると、成功確率が高まるので、承継会社化を検討し始めた時点で、頼りになる専門家探しをはじめることを考えるのがおすすめです。

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    執筆 ジョブカンM&A編集部

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