M&A 提案書の「成功する作り方」重要  ステップと記載項目

M&Aを実施するにあたっては、まず、相手企業についての情報を収集する必要があります。しかし、非上場企業の情報は一般的に公開されていないため、情報収集は簡単ではありません。そこで役立つのが、M&Aを検討している企業がどんな企業であるのかを情報が落とし込まれた「提案書」です。具体的にどのような内容がまとめられている書類なのか、より魅力的な書類に仕上げるコツはあるのかなどを解説していきます。

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目次
  1. M&A提案書に関する最重要注意事項(秘密保持)
  2. M&Aにおける「提案書」とは
    1. 企業概要書
    2. 提携提案書
  3. M&Aにおいて提案書を作成するタイミングは?
  4. 企業概要書の作成手順【作成者:譲渡側】
  5. 企業概要書の内容
    1. 企業概要
    2. 事業内容
    3. 財務状況
    4. M&Aによる譲渡理由
    5. 将来の事業計画
    6. 想定譲渡スキーム
  6. 提携提案書の作成手順【作成者:譲受側】
  7. 提携提案書の内容
    1. 企業概要
    2. M&Aの提案理由
    3. M&Aの戦略目標
    4. 想定買収価格と算定根拠
    5. M&A実施後における譲渡企業との関わり方
  8. 提案書を作成した場合のM&A成功率は?
  9. M&Aの提案を成功させるために大切なポイントは?
    1. 誰に提案するのかを考える
    2. 何を提案するのかを考える
    3. どう提案するのかを考える
  10. M&Aにおける提案書に関するQ&A
    1. 提案書の「フォーマット」は Word/PPT/PDF のどれがよいか?
    2. 業界特有の記載事項(IT・製造業など)はあるか?
    3. M&Aアドバイザーは提案書作成のどのフェーズで活用すべきか?
  11. M&Aの成功確率を上げるためにも、相手企業と長期的な協力関係を築けるような提案を目指そう

M&A提案書に関する最重要注意事項(秘密保持)

M&A提案書は、企業の機密情報の塊であり、情報漏洩は事業に重大な影響を及ぼします。提案書を開示・受領する前に、秘密保持契約(NDA)を必ず締結し、情報の取り扱いルールを明確にすることが不可欠です。また、提出後の提案書は目的外利用を厳禁とし、関係者以外への開示を制限することも、買い手・売り手双方の信頼関係構築における最重要ステップとなります。

M&Aにおける「提案書」とは

M&Aにおける提案書は、「企業概要書」と「提携提案書」の2つが存在します。

企業概要書

「企業概要書」とは、譲渡企業がどんな企業であるのかについて、細部まで譲受企業に知ってもらうために作成するものです。つまり、作成するのは譲渡側ということになります。
言い換えると、企業を譲渡したい側が、譲受してくれる企業に対してアプローチするために作成するということです。ただし、譲受する側が企業概要書をほっしていることから、それに応える形で譲渡側が作成するというケースもあります・
また、企業概要書は、適正な企業価値を測るための情報を入手するためにも役立ちます。なお、企業概要書は英語では「Information Memorandum」となるため、頭文字をとって「IM」と表記されることもあります。

提携提案書

「提携提案書」とは、いうなれば買収提案書です。譲受企業から譲受企業に対して、もしくは譲受企業から株主などに提出して、企業を譲り受ける提案をおこなうための書類です。つまり、作成するのは譲受側ということになります。
提携提案書は、必ず作成しなくてはならないものではありませんが、相手方に対して“仕掛け型”の打診をおこなう場合には必ず作成します。“仕掛け型”とは、M&Aにおける買収者側が主導して相手企業に働きかけるタイプの買収です。

M&Aにおいて提案書を作成するタイミングは?

M&Aは、大まかにいうと次の7つのステップを踏んで実施されることになります。

  • ①戦略策定
  • ②対象先候補のリストアップ
  • ③マッチング
  • ④基本条件交渉(トップ面談や基本合意締結など)
  • ⑤最終条件交渉(デューデリジェンスの実施など)
  • ⑥クロージング
  • ⑦経営統合(PMI)
  • この流れ通りにM&Aを進める場合、「企業提案書」に関しては主に③のマッチングフェーズにおいて使用されることになります。
    「提携提案書」についても基本的にはマッチングフェーズおいて使用されるものです。譲受側は、譲渡側企業とその関係者に、MA&が双方にとっていかにメリットをもたらすかを伝えるために、提携提案書を用意するだけでなく、提案書の内容を伝える際の話し方のスキルも磨いていくことが望ましいとされています。
    ただし、提携提案書を提出すれば必ずM&Aが成功するというわけではありません。そのため、④以降のステップには進めないという結果に終わる場合もあるでしょう。

    企業概要書の作成手順【作成者:譲渡側】

    続いては、企業概要書および提携提案書の作成手順、それぞれの内容を説明していきます。
    まずは企業概要書の作成手順は次の通りです。

  • 秘密保持契約を締結する
  • 譲渡企業の業界分析・情報収集をおこなう
  • 企業価値評価(バリュエーション)も簡単におこなう(デューデリジェンス実施後に想定される資産査定の簡易版として)
  • ②③の情報を企業概要書にわかりやすくまとめる
  • 企業概要書の内容

    企業概要書に盛り込むべき主な要素は次の通りです。

    企業概要

    企業名、住所、代表者名、従業員数、沿革など、企業に関する概要を記載します。譲渡企業が有している知的財産の情報についても、企業概要に記載します。

    事業内容

    開発・製造している商品やサービスの詳細を記載します。譲渡企業のコア・コンピタンスがしっかり伝わるよう、企業の強みや独自性についても明記します。主な取引先や取引の流れについても記載すると、譲受する側が譲渡企業のことをより深く理解できます。

    財務状況

    損益計算書と貸借対照表を開示することで、財務状況を示します。この情報が不十分であれば、譲受する側はM&Aを実行すべきであるのかの判断ができません。また、デューデリジェンス実施後に想定される資産査定も簡単に実施しておくと後々手続きがスムーズです。具体的には、金融機関からの借入状況や返済状況、簿外資産または簿外負債の有無、所有資産の回収可能性や時価評価額などを反映させた時価純資産についても調べておくといいでしょう。

    M&Aによる譲渡理由

    なぜM&Aによる譲渡を検討しているのか、なぜこのタイミングで譲渡したいのかなどをできる限り詳細に記します。よくある譲渡理由としては、後継者不在や経営状況の悪化などが挙げられます。譲渡理由が明らかであると、譲受側にとっては、自社のM&A戦略と合致しているのかどうかを判断できます。

    将来の事業計画

    将来の事業計画がある場合は、その計画を記載することも大切です。これに関しても、詳しく書くことによって、譲渡側が戦略を立てやすくなるためです。また、M&A後の統合プロセス(PMI)の立案も、成約の確度を高めることに役立ちます。

    想定譲渡スキーム

    M&Aの実行にあたって、株式譲渡、事業譲渡、会社分割など、希望するスキームの類型や、そのスキームを提案する理由を記載します。特に株式譲渡を希望する場合、その理由(手続きの簡便さ、税制上のメリットなど)を明確にすることで、譲受側が初期の検討を進めやすくなります。また、事業譲渡の場合には、どの資産・負債・契約を承継対象とするかの概要を簡潔に示すと、より実務的です。

    提携提案書の作成手順【作成者:譲受側】

    提携提案書の作成手順は次の通りです。

  • ①秘密保持契約を締結する
  • ②譲受企業の業界分析・情報収集をおこなう
  • ③②で収集した情報をもとに、対象企業の主要株主らが提携を検討するために必要な情報を落とし込んだ提携提案書を作成する
  • 提携提案書の内容

    提携提案書に盛り込むべき主な要素は次の通りです。

    企業概要

    企業概要書同様、まずは企業概要を記します。ただし、企業概要書とは作成の目的が異なっています。提携提案書の作成目的は、譲受側に、譲渡側の事業を譲り受けだけの資金や営業基盤、経営ノウハウがあることを伝えることです。
    ただしもちろん、経営理念や経営方針などの基本的な情報についても網羅します。

    M&Aの提案理由

    なぜ譲渡企業を譲受したいと考えているのか、その理由について記します。譲受側がどれだけ譲受企業を必要としているのかが、しっかりと伝わるように記すことがポイントです。

    M&Aの戦略目標

    譲渡側の事業を買収した後の戦略について記します。譲受側とのシナジー効果によって得られるメリットなどを丁寧に記すと、譲渡側から、「M&Aを実施するなら相手企業はこの企業がいい」と判断してもらいやすくなります。

    想定買収価格と算定根拠

    初期の提携提案書においては、譲渡企業に対する想定買収価格(レンジ)を提示することが極めて重要です。また、その価格が、どのような算定根拠(DCF法、類似企業比較法など)に基づいているかを明確に示します。買収価格は、譲渡側が最も関心を抱く項目の一つであり、価格提示が曖昧だと本気度が伝わりにくくなります。ただし、最終的な買収価格はデューデリジェンスの結果を踏まえて変動することを明記し、初期提案であることを明確に伝える配慮も必要です。

    M&A実施後における譲渡企業との関わり方

    M&A実施後、譲受側が譲渡企業とどのように関わっていきたいと考えているのかは、極めて大事なポイントです。M&Aを実施した場合、実施後の譲渡側のグループ内での位置づけはどうなるのか、譲渡側が果たす役割機能や営業体制はどうなっていくのかなど、できるだけ具体的に記します。
    譲渡側からすると、商流や働き方がM&Aを機にガラリと変わることは好ましいことではない場合が多いため、緩やかに変化していけるよう調整することを視野に入れるといいかもしれません。

    提案書を作成した場合のM&A成功率は?

    M&Aにおいて、提案書の作成は必須の事項ではありません。しかしながら、相手企業にとって魅力的な提案書を用意することができれば、相手から興味を持ってもらえる可能性が高くなることは間違いありません。
    しかしそれでも、M&Aが成功する確率は100%ではありません。それどころか、とりわけ日本企業による海外企業買収の成功率は非常に低く、2018年時点での成功率は1~2割であると公表されています。
    この割合が、提案書を作成した場合とそうでない場合とで変わってくるかまでは明らかになっていませんが、少しでも成功率を高めるためにも、魅力的な提案書を作成することには注力したいところです。

    参照:日本経済新聞「成功率はわずか2割 M&Aは失敗の歴史」

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    M&Aの提案を成功させるために大切なポイントは?

    M&Aの成功率を高めるためには、提案書を作成する以外にも心がけたいことがあります。

    具体的には次の通りです。

  • 誰に提案するのかを考える
  • 何を提案するのかを考える
  • どう提案するのかを考える
  • それぞれ詳しく解説していきます。

    誰に提案するのかを考える

    M&Aにおける提案書、とりわけ「提携提案書」を作成する際には、“誰に向かって提案するのか”を考えることが重要です。譲渡企業の株主はもちろん、対象会社の経営陣、従業員、取引先、債権者など、M&Aの決定に影響を与える可能性のあるすべての関係者のことを考慮して、提案内容を考えることが重要です。

    何を提案するのかを考える

    提案の背景や目的、M&Aを実施することで着たいできるシナジー効果、譲受後の体制案、想定している買収額、なぜその企業と提携したいのかなど、譲渡側関係者の関心事を網羅した提案にすることが大切です。

    どう提案するのかを考える

    最初の提案時に自社名を明かすか明かさないか、想定される質問としてはどんな質問があるのかなどに目を向けて、具体的な提案方法を固めていくことも大切です。
    なお、企業名を明らかにして接触する方法は「バイネーム」、企業名を伏せた状態で、外部の専門家を通じて接触する方法は「ノンネーム」といいます。バイネームは、具体的な内容が伝わりやすく、スムーズに交渉が進む可能性が高いというメリットがありますが、既存の取引先への影響が心配な場合や、業界内に噂が広まるのを避けたい場合などは、ノンネームで接触することを検討してもいいでしょう。ただし、ノンネームにした場合でも、先方が興味を抱いてくれた場合は、できるだけ早い段階で社名を明らかにして直接的な交渉を進めるのが望ましいと言えます。

    M&Aにおける提案書に関するQ&A

    続いては、M&Aにおける提案書に関するよくある質問とその答えをみていきましょう。

    提案書の「フォーマット」は Word/PPT/PDF のどれがよいか?

    M&Aにおける提案書の最適なフォーマットは、提案書を作成する目的および相手企業との関係性によって異なります。
    一般的には、初回接触時には、プレゼン型の提案ができるPPTが用いられることが多いです。なぜかというと、視覚的に伝わりやすく、戦略糸やシナジーを訴求しやすいためです。
    具体的な条件を提示する段階においては、WordまたはWordで作成してPDF化したものを用意すると、文書としての正式感を演出できます。
    また、相手に提出・送付する最終版は、改ざんを防ぐためにPDFで固定化することが望ましいといえます。

    業界特有の記載事項(IT・製造業など)はあるか?

    M&Aにおける提案書に盛り込む基本的な内容は前述の通りですが、それに加えて、業界特有の重要ポイントも記載することが望ましいといえます。
    たとえば、IT業界におけるM&Aの場合、有形資産よりも、技術や人材、知的財産などの無形資産に価値が集中するため、次のような情報を充実させるといいでしょう。

  • 技術資産:自社開発プロダクト、アルゴリズム、クラウド基盤の独自性
  • 顧客基盤:契約形態(サブスクリプション/ライセンス)、解約率(チャーンレート)
  • 成長指標:ARR、MRR、LTV、CACなどのSaaS指標
  • 人材・組織:エンジニア構成、主要技術者の在籍、採用力
  • セキュリティ体制:ISMS認証、個人情報保護対応、クラウドセキュリティ
  • 技術シナジー:自社プロダクトとの連携・統合可能性
  • また、設備、生産能力、品質管理、取引ネットワークをはじめとする“ものづくりの基盤”が評価対象となる製造業の場合、次のようなポイントを記載することが望ましいでしょう。

  • 生産設備:主要工場・設備の概要、稼働率、老朽化状況
  • 品質管理:ISO認証、検査体制、歩留まり率など
  • 技術力:特許・ノウハウ、製造プロセスの独自性
  • 取引関係:主要顧客・サプライヤー、取引年数
  • コスト構造:原材料比率、労務コスト構成、外注率
  • サプライチェーン:調達・物流・生産の一体化によるシナジー
  • M&Aアドバイザーは提案書作成のどのフェーズで活用すべきか?

    M&Aアドバイザーを活用するベストなタイミングは、何をサポートしてもらいたいかによって異なります。
    たとえば、ターゲット企業の選定から関わってもらいたいのであれば、ターゲット選定前が適切で、ノンネームシートの作成や初期提案書の作成も支援してもらうことが望ましいといえます。
    買収候補が決まっていて、初回提案書やプレゼン資料の作成、企画概要書やシナジー資産の整理・文書化を依頼したいなら、ターゲット企業と接触後の依頼でも遅くはありません。財務・戦略分析をもとに、数字的に説得力のある資料に仕上げてもらうなど、専門家ならではのサポートを求めるといいでしょう。

    M&Aの成功確率を上げるためにも、相手企業と長期的な協力関係を築けるような提案を目指そう

    M&Aが成功するかどうかは、複合的な要素が関係しているため、「ここを強化すれば必ずうまくいく」というものではありません。しかし、相手の立場や状況をよく理解したうえで、共感を得られるような提案ができるかどうかが、大きなキーとなることは間違いありません。相手側企業からみても、「この企業と提携してよかった」と思ってもらえるような関係性を目指すことを意識すれば、自ずと成功率は高まっていくはずです。

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    執筆 ジョブカンM&A編集部

    ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。


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