2006年の会社法改正により新規設立が廃止された特例有限会社は、その多くが歴史が長く、経営者の高齢化に伴い事業の存続が大きな課題となっています。後継者が見つからない場合、M&Aによる事業承継を検討するのが一般的ですが、それが難しい場合は会社を解散(廃業)するという選択肢を取ることになります。本記事では、M&Aではなく解散を選択した特例有限会社が、スムーズに解散・清算手続きを完了させるための流れ、費用、必要書類を網羅的に解説します。
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有限会社とは
「有限会社」とは、「株式会社」と同じく、会社形態のひとつです。ただし、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類の会社形態は、2025年現在においても、日本国内で新たに設立できることになっていますが、有限会社は新設することができません。なぜかというと、2006年の会社法施行によって、有限会社の新規設立が廃止されたためです。
有限会社の新設が廃止されたことは、会社法施行によって、株式会社の設立ハードルが下がったこととも関係しています。どういうことかというと、会社法施行以前は、株式会社の設立には最低1,000万円の資本金が必要でしたが、会社法が施行されて最低資本金制度が廃止されたことで、「1,000万円を用意することはできない」などの理由で、有限会社という形態を選ぶ必要がなくなったのです。
解散(清算)とM&A(事業承継)の選択肢と決定的な違い
後継者不在の有限会社(特例有限会社)が直面する選択肢は、「会社解散による廃業」と「M&A(事業承継)による売却」の二つです。特に以下の3点は、意思決定において決定的な違いとなります。1. 金銭的な対価の有無:M&Aでは買い手から売却対価(株価)を得られますが、解散の場合は、資産を負債に充当し残った残余財産を株主に分配するのみで、場合によっては何も残らないこともあります。2. 従業員の雇用:M&Aでは原則として従業員の雇用は維持されますが、解散では全員解雇となります。3. 手続きのコストと期間:解散・清算手続きは、一般的にM&Aよりも手続き自体はシンプルですが、負債が多い場合は特別清算や破産となり、かえって長期化・複雑化する可能性があります。解散はM&Aという選択肢がない場合の「最終手段」として位置づけられます。まずはM&Aの可能性を探り、買い手がつかない場合に解散手続きへ移行することを推奨します。
会社法施行以前に設立された有限会社の選択肢とは?
2006年の会社法施行によって、有限会社の新規設立が廃止されたと同時に、既に設立・運営されている有限会社は、「必要な手続きをとって株式会社に変更する」「有限会社の性質を残した『特例有限会社』として運営を続ける」のいずれかを選ばなければならなくなりました。
そのため、厳密にいうと現在は、法的な意味での「有限会社」は存在しません。前述の通り、株式会社に変更しなかった(旧)有限会社は、「特例有限会社」と呼ばれていますが、法律上は、株式会社の一種として扱われています。
ただし、社名には「有限会社」を用いなければならないため、多くの人は社名を見て、「あの会社は有限会社である」と解釈しているのではないでしょうか。また、「特例有限会社」には、株式会社においては必須とされる決算公告の義務が課されていないなど、(旧)有限会社の特性も一部残しています。
なお、有限会社は次の条件を満たす必要があったことから、現存している「特例有限会社」も、これらの条件を満たしています。
【有限会社の条件】
この規模感からわかる通り、社名に「有限会社」と入っている会社はすべて中小企業ということになります。
そうなると、昨今は中小企業の経営者の高齢化が進んでいることから、事業承継または廃業の手続きを進める必要性に迫られている有限会社が増えていることになります。
有限会社の廃業手続きとは?
有限会社を廃業させるためには、「解散手続き」「清算手続き」をおこなう必要があります。
「解散」「清算」とは?
解散手続きとは、法人を消滅させる手続きのことです。
清算手続きとは、会社の財産や債務をゼロにする手続きです。
「通常清算」「特別清算」「破産手続き」とは?
清算手続きに関して、残余財産は株主に分配することになります。銀行からの融資や取引先からの仕入れ債務などの借金がある場合は、廃業しても返済義務が残ります。
企業が債務超過で負債をすべて返済できない場合、裁判所監督のもと、「特別清算」をおこなって順番に返済していくことになります。
債務超過額が大きすぎて、返済の見通しが立たない場合、「破産手続き」をおこないます。
企業が保有している資産で負債を返済できる場合、「通常清算」となり、裁判所が監督することはありません。
企業が保有している資産で負債をすべて返済できる見込みがある場合は「通常清算」に進みます。本記事で解説する「スムーズな解散手続き」は、この通常清算を前提とした流れです。
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有限会社が廃業する理由は?
前述の通り、一般的に、有限会社は経営者の高齢化に伴い、事業承継または廃業を選択する必要があります。そのため、「後継者が見つからず事業承継できないから廃業」というケースもありますが、それも含めて、解散事由としては次のような事由が挙げられます。
なお、「後継者が見つからず事業承継できないから廃業」の場合、「株主総会の特別決議による解散(=自主廃業)」ということになります。
また、破産手続き開始に伴う解散は、いわゆる「倒産」に該当します。
有限会社は、「みなし解散」の適用が不可とされている
株式会社および合名会社に関しては、先に述べた6つの事由に当てはまらない場合でも、「みなし解散」に適用させることで解散できます。
みなし解散とは、法務大臣が休眠会社に対して官報公告を出して、それでも届け出がない場合は「解散した」とみなす制度のことです。そのため、株式会社や合名会社は、登記申請をしなくても、会社を休眠状態にしておけば自動的に解散することができますが、有限会社にはこの制度は適用されません。
有限会社の解散・清算の流れ
有限会社の解散・清算に必要な手続きの流れは次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
解散決議・清算人の選任決議
最初に、解散決議および清算人の選任決議をおこないます。「清算人」とは、会社の解散に伴い、清算を担当する人のことを指します。
解散決議および清算人の選任決議をおこなうためには、株主総会を開催して特別決議を得る必要があります。とはいえ、実際のところ、有限会社の多くは家族経営であるため、経営者もしくは創業者一族のみで株主が構成されているケースも多いでしょう。そうなると、株主総会を開く必要はないように思われるかもしれませんが、手続き上、解散するためには株主総会における議事録の提出が必要であるため、形式的で構わないので株主総会を開催する必要があります。
法務局にて解散登記・清算人選任の登記申請をおこなう
解散日から2週間以内に、法務局にて、解散登記・清算人選任の登記申請をおこないます。2週間を過ぎると、再度、株主総会を開催することが必要になるため、必要な書類を作成したらすぐに提出することが望ましいといえます。なお、提出が必要な書類は次の通りです。
財産目録・貸借対照表の作成および株主承認
会社を解散するにあたっては、自社が保有している負債を返済しきれるのか、どの程度の負債が残るのかを確認する必要があるため、財産目録・貸借対照表を作成します。作成した財産目録・貸借対照表は、会社の所有者である株主に承認してもらう必要があります。
債権者保護手続き・債権者保護手続き期間の満了
会社の債権者が自社の解散について不満を抱いている場合、債権を買い取って返済する手続きをとる必要があります。これを「債権者保護手続き」といいます。債権者が、会社の決定に反対で異議申し立てできる期間は2か月と決められています。つまり、債権者保護手続きを開始して2か月間は、債権者から異議申し立てされる可能性があるということです。
「解散確定申告書」の作成・提出・株主の承認
会社の解散時には、通常の決算同様、決算の申告をおこなう必要があります。この際、「解散確定申告書」を作成して提出する必要がありますが、通常の決算の申告とは異なり、1年分に足りない月分の調整をおこなう必要などがあります。そのため、作成時および提出前には、税務署や税理士に、内容に間違いがないかどうかをよく確認してもらうことが大切です。一般的に、M&A仲介会社でも、「解散確定申告書」の作成・提出に関しての相談を受け付けています。なお、解散確定申告書も、最終的に株主が確認して承認することになります。
「清算事務決算報告書」の作成・株主の承認
清算人は、財務財産の株主への分配や債務返済などを完了させたら、分配内容を記した「清算事務決算報告書」を作成して会社に提出します。提出した清算事務決算報告書は、最終的に株主が確認して承認します。
法務局にて決算結了登記の申請をおこなう
株節総会にて、解散確定申告書および清算事務決算報告書が承認されたら、2週間以内に、法務局にて決算決了登記の申請をおこないます。
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有限会社の解散・清算に必要な費用
有限会社の解散・清算にかかる費用の目安は25万円~35万円程度です。
内訳は次の通りです。
【登記費用(登録免許税)】
【登記事項証明書の取得費用】
【行政書士や税理士への外注費用】
有限会社の解散・清算に要する期間
有限会社の解散・清算には、最低でも3か月を要します。
先に解説した通り、たとえば、債権者保護手続き期間が満了するまでには2か月かかりますし、それ以外のステップに関しても、必要な書類を準備するだけでも時間がかかる場合があります。
また、行政書士や税理士に書類作成を依頼する場合は、さらに多くの時間を見積もっておいたほうがいいでしょう。なお、清算結了登記が完了しても、会社法上、清算人は会社の帳簿と重要な書類を10年間保存する義務があります(会社法第508条)。このため、手続き上の会社の消滅と、法的な義務の完全な終了には長期的な管理が必要となります。
「清算事業年度」とは?
会社が解散した場合、“事業年度がスタートした日から解散した日まで”が1つの事業年度になります。
また、解散した翌日からの1年ごとの期間は、「清算事業年度」と呼ばれます。ただし、1年かからずに残余財産が確定した場合、確定した日までが1つの事業年度となります。なお、残余財産確定までに1年以上かかる場合もあります。
清算事業年度には、従来通り、定時株主総会をおこなう必要があります。そのため、年度にかかる貸借対照表や事務報告書などを作成する必要があります。
解散事業年度および清算事業年度の税務申告の注意点は?
解散事業年度および清算事業年度には、法人税、事業税、都道府県民税、市町村民事を納付する必要があります。なお、税務申告の期限は、それぞれの年度が終わった日の翌日から2か月以内です。
ただし、残余財産が決まった場合、その事業年度が終わった日の翌日から1か月以内に確定申告書を提出する必要があります。
有限会社の解散・清算に際して従業員・取引先にはどう対応する?
有限会社を解散・清算するにあたっては、従業員との雇用関係を修了させる必要があります。
従業員本人の同意を得て、合意退職という形をとることが理想ですが、合意を得られない場合、整理解雇が必要となります。いずれにしても、できる限りトラブルを回避できるよう、解散理由や時期、退職金をはじめとする退職条件などについて一人ひとりに丁寧に説明して、理解を求めることが大切です。
また、取引先に廃業の事実を伝えるタイミングにも慎重になることが不可欠です。
タイミングが遅くなったり、説明が不十分だったりすると、信頼関係にヒビが入ったり、損害賠償トラブルに発展したりする恐れがあります。その点に配慮して、取引先についても丁寧に対応していくことが肝心です。通知タイミングは、遅くとも1か月前までです。なぜかというと、それ以上遅くなると、先方の業務計画や納品体制に影響を及ぼす可能性が高くなるためです。
なお、取引先への通知は、口頭やメールではなく、解散日や取引終了日を明記した書面をもっておこないます。書面には、廃業の詳細な理由についてまでは記す必要はありません。「諸般の事情により、廃業する運びとなりました」などの一般的かつ簡潔な表現で構いません。
有限会社の解散・清算の判断には時間をかけ過ぎないことが大切
有限会社が会社を廃業させることを検討している場合、判断に時間をかけ過ぎないことが肝心です。なぜかというと、決断しきれずにいる間にも、債務が増えていく可能性や、関係者への影響が膨らんでいく可能性が考えられるためです。特に、債務が大きくなった場合、通常清算が叶わず、特別清算または破産手続きをおこなわなければならなくなる場合があります。そうした事態に陥ることを防ぐためにも、早めの決断を心がけましょう。
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この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
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