親子間で株式を承継する場合、それは多くの場合、事業承継を意味します。「譲渡」「贈与」「相続」の3つのうち、最適な方法を選択するためには、それぞれの具体的な手続き、注意点、メリット・デメリットを深く理解する必要があります。本記事では、後継者への円滑な事業承継を見据え、手続きの詳細に加え、承継に伴う税金の不安を解消し、税負担を抑える戦略についても詳しく解説していきます。
M&A・事業承継で失敗したくないなら
ジョブカンM&Aは、経験豊富なアドバイザーが事業の売却・買収をトータルでサポートします。
「信頼できる相手を見つけたい」「交渉や手続きが不安」「適正な価格で取引したい」といった、M&Aに関するあらゆるお悩みを解決に導きます。
詳しいサービス内容を知りたい、気軽に相談したいという方は、下記サービスサイトをご覧ください。
親子間で株式を譲渡する方法
親子間で株式を譲渡する方法は次の3つです。
| メリット | デメリット | |
| 譲渡 | ・資金力がない譲受側候補の参入を防げる ・譲渡側が譲渡益を得られる |
・譲受側が対価となる資金を用意する必要がある ・譲渡側に【所得税】【復興特別所得税】【住民税】が生じる可能性がある ・安い金額で譲渡すると、譲渡側に【贈与税】が課税される場合がある |
| 贈与 | ・被相続人の意思を反映できる ・「暦年贈与」または「相続時精算課税制度」によって税率を抑えられる |
・年間110万円以上または累計2,500万円以上の贈与に対して【贈与税】が課される ・暦年贈与が完了する前に経営者が亡くなった場合、死亡日から遡って7年以内は相続扱いとなるため、相続税が発生する可能性がある |
| 相続 | ・遺言書を作成すれば、相続人を選任できるため、相続争いを抑止できる | ・法定相続人が複数人いる場合、相続争いが起きる可能性がある ・遺言書で特定相続人を指定できるが、遺言書の形式が法令に沿っていなければ無効となる可能性がある ・【相続税】が発生する場合がある |
それぞれの具体的な方法およびメリット、デメリットを解説していきます。
譲渡
譲受する側の家族が対価を支払うことによって、株式を取得する方法です。
メリット
一般的な事業譲渡同様、譲受側は、株式を購入するための資金を用意する必要があります。そのため、資金力がない譲受側候補の参入を防ぐことができます。
また、譲渡側は、譲受側から得た譲渡益をもとに新たな事業に着手することもできますし、老後の資金として活用することもできます。
デメリット
譲受側が、対価となる資金を準備する必要があります。また、株式の評価額によっては、譲渡側に所得税・復興特別所得税・住民税が課せられます。なお、非上場株式の適正な時価よりも安い金額で譲渡した場合、その差額が後継者への「みなし贈与」と見なされ、高額な贈与税が課税されるリスクがあります。非上場株式の時価評価は複雑なため、税理士との連携が不可欠です。
贈与
家族を含む親族に、株式を無償で渡す方法です。
メリット
贈与は、被相続人の生存中におこなわれるため、被相続人の意思を反映することができます。また、非上場株式の贈与に限り、要件を満たせば「事業承継税制の特例措置」を利用でき、贈与税の納税を猶予・免除できる可能性があります。その他に「暦年贈与」「相続時精算課税制度」のいずれかを利用することでも、税率を抑えることが可能です。
「暦年贈与」とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産が、贈与税の基礎控除額である“年間110万円”以下であれば、贈与税がかからない制度です。
「相続時精算課税制度」とは、60歳以上の祖父母や両親から、20歳以上の子に対して、課税価格が累計で2,500万円までの贈与額に対する贈与税を非課税とする制度です。
なお、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」は併用できません。
デメリット
年間110万円以上または累計2,500万円以上を贈与する場合、贈与税がかかります。
また、暦年贈与によってすべての資産を贈与し終わる前に経営者が亡くなった場合、死亡日から遡って7年以内は相続扱いになります。
相続
経営者の相続発生によって、相続人である親族が株式を受け継ぐことを「贈与」といいます。一般的に、相続が発生するのは、被相続人の死亡日です。
メリット
相続は、基本的には、被相続人が死亡した際に自動的に手続きが必要になりますが、死亡する前に遺言書が作成されている場合、その内容通りに実行されることになるため、相続人争いが起きるリスクを防げます。
デメリット
法定相続人が複数人いる場合、相続争いが勃発する可能性が考えられます。前述の通り、遺言書で特定相続人を指定することは可能ですが、遺言書の形式が法令に沿っていない場合、内容が無効となるケースがあります。
また、相続する財産が、基礎控除額となる「法定相続人の人数×600万円+3,000万円」を超えた場合、相続税が発生します。
M&A・事業承継で失敗したくないなら
ジョブカンM&Aは、経験豊富なアドバイザーが事業の売却・買収をトータルでサポートします。
「信頼できる相手を見つけたい」「交渉や手続きが不安」「適正な価格で取引したい」といった、M&Aに関するあらゆるお悩みを解決に導きます。
詳しいサービス内容を知りたい、気軽に相談したいという方は、下記サービスサイトをご覧ください。
事業承継の最重要論点:非上場株式の株価評価と対策
親子間での株式移転(譲渡・贈与・相続)では、非上場株式の評価額(株価)が、発生する贈与税・相続税の計算根拠となり、税負担の大きさに直結します。特に税率の高い贈与税・相続税を抑えるためには、適切な株価対策が不可欠です。
株価評価の複雑性
非上場株式の株価は、上場株式のように市場で決まらず、税務上の評価方法(原則的評価方法:類似業種比準方式、純資産価額方式など)に従って算定する必要があります。この評価が適正でないと、税務署からの指摘を受けるリスクがあります。
株価引き下げ対策の検討
株式の承継時期や方法を決定する前に、計画的に株価を引き下げる対策(例:役員退職金の支給、含み損のある資産の売却、自社株買いなど)を講じることで、後継者の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。これらの対策は、専門家と連携して早期に実行することが成功の鍵です。
親子間で株式を譲渡する際に発生する税金
前述した通り、親子間で株式を譲渡するにあたっては、各種税金が発生する場合があります。それぞれの税金についての詳細を確認していきましょう。
所得税・復興特別所得税・住民税
株式を譲渡する方法が「譲渡」の場合、株式の評価額が購入時より高い場合の譲渡益には、所得税・復興特別所得税・住民税が課せられます。それぞれの税率は、所得税=15%・復興特別所得税=0.315%・住民税=5%であるため、譲渡益にかかる税率は20.315%となります。
なお、譲渡益は、譲渡価格から必要経費を差し引いた金額となります。
贈与税
株式を譲渡する方法が「贈与」の場合、「暦年贈与」または「相続時精算課税制度」の限度額を上回ると、受贈を受けた側に対して、上回ったぶんの金額に応じて贈与額が発生します。
「暦年贈与」利用の場合
歴年贈与を利用する場合の計算式は次の通りです。
贈与税=(1年間で贈与された合計額-基礎控除額110万円)×税率-控除額
なお、税率と控除額は、「受贈した財産額-110万円」の金額によって次のように異なります。
| 受け取った財産額-110万円 | 贈与税率 | 控除額 |
| 200万円以下 | 10% | - |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
「相続時精算課税制度」利用の場合
相続時精算課税制度を利用する場合の計算式は次の通りです。
贈与税=(贈与額-2,500万円)×20%
相続税
株式を譲渡する方法が「相続」の場合、相続する遺産の総額によっては相続税が発生します。
相続税の金額を計算するには、まず、相続税の対象となる財産(課税財産)を明らかにする必要があります。そのうえで、次の計算式を用いて算出します。
課税遺産総額=課税価格の合計額-相続税基礎控除額
相続税基礎控除額=3,000万円+(法定相続人数×600万円)
親子間で株式を譲渡する際に発生する税金を抑える方法
前述の通り、「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」を利用することでも贈与税を抑えることができますが、それ以外にも、次の方法によって、親子間で株式を譲渡する際に発生する税金を抑えることができます。
詳しくみていきましょう。
事業承継税制を利用する
「事業承継税制」とは、中小企業の事業承継時に、相続税や贈与税の免除や猶予を受けられる制度です。ただし、特定の条件を満たしていなければ、利用することができません。
親子間で株式を譲渡する流れ
続いては、3つの方法それぞれを用いた場合の、親子間で株式を譲渡する流れを解説していきます。
譲渡の流れ
譲渡の場合の流れは次の通りです。
一連の流れについて詳しく解説していきます。
譲渡承認の請求をおこなう
「譲渡承認」とは、家族を含む第三者に対する譲渡制限がある株式の譲渡に関して、会社から承認を得るための手続きです。なお、会社が発行する株式の譲渡について、会社の承認を得る必要がある場合の株式のことを、「譲渡制限株式」といいます。譲渡制限株式を譲渡したい株主は、承認を得るために「株式譲渡承諾請求書」を会社に提出します。株式譲渡承諾請求書には、譲渡先、譲渡する株式の数、種類などを記載します。
株式譲渡の承認決議をおこなう
株式譲渡承認請求書が提出されたら、会社の決定機関である取締役会や株主総会において、株式譲渡の承認決議が実施されます。なお、定款に規定がある場合、その内容に従って、別の組織や役職者が承認決議をおこないます。承認が得られたら譲渡できる流れになりますが、得られない場合は、会社が株を買い取るか、あるいは指定の買取人に譲渡するという流れになります。
株式譲渡の承認通知を送付する
株式譲渡が承認された場合、議決後2週間以内に承認通知を送付します。ただし、会社と請求者双方の同意があれば、2週間から延長できます。通知期限を過ぎた場合も、通知がなされなければ、承認されたとみなされることになります。
株式譲渡契約を締結する
デューデリジェンスデュなどを経て、株式譲渡契約書の締結手続きがおこなわれます。株式譲渡契約書には、株式数や金額などに関する基本合意事項、譲受側に対して譲渡側が保証する事項である表明保証事項を記載します。なお、両者の署名・捺印が必要です。
株式名簿を書き換える
株式不発行会社の場合、譲渡側と譲受側が共同で株式名簿の書き換え請求をおこないます。
株式発行会社の場合、譲渡側のみが書き換え請求をおこないます。
株式名簿を書き換えることによって、株主権が発生して、譲渡手続きが完了します。また、この手続きによって、二重譲渡を防ぐことができます。
贈与の流れ
贈与の場合の流れは次の通りです。
①贈与契約書を作成する
②名義変更する
それぞれ詳しく解説していきます。
贈与契約書を作成する
贈与契約書には決まった形式はありませんが、贈与者と受贈者の意思を明確に示す目的から、最低限、次の事項は記載することが大切です。
なお、贈与契約書は必ず作成しなければならないというわけではありません。口頭での契約でも、贈与をおこなうことは可能です。ただし、上記の事項を落とし込んだ書類を作成しておけば、相続税計算などがスムーズです。
名義変更する
名義変更手続きについては、上場株式の場合は証券会社へ、非上場株式の場合は株式発行会社に依頼します。手続き方法や必要書類、手数料などは証券会社ごとに異なります。
相続の流れ
相続の場合の流れは次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
相続人を決める
相続人の決め方は、被相続人の遺言書があるかどうかで変わってきます。
遺言書がある場合、内容を考慮して後継者を決めます。遺産の分割が必要であれば、次の方法から選んで相続することになります。
遺言書がない場合、法定相続人全員が参加する遺産分割協議で、遺産分割協議書を作成することになります。
名義変更する
名義変更手続きについては、上場株式の場合と非上場株式の場合とで異なります。
上場株式の場合、相続人の証券口座および必要な書類を準備します。必要な書類は、遺言書の有無や相続人の人数によって異なるため、証券会社に確認することが望ましいといえます。なお、株式を譲渡する場合、名義変更の手続き後に、株式を相続人の講座に移してから、譲渡手続きをおこなうことになります。
非上場株式の場合、株式発行会社に相続手続きを申請して、株式評価を依頼します。その後、相続人間で遺産分割協議を経て、株主名簿を書き換えるという流れになります。株主名簿を書き換えたら、相続税の申告および納付手続きをおこないます。
M&A・事業承継で失敗したくないなら
ジョブカンM&Aは、経験豊富なアドバイザーが事業の売却・買収をトータルでサポートします。
「信頼できる相手を見つけたい」「交渉や手続きが不安」「適正な価格で取引したい」といった、M&Aに関するあらゆるお悩みを解決に導きます。
詳しいサービス内容を知りたい、気軽に相談したいという方は、下記サービスサイトをご覧ください。
準確定申告とは?
被相続人の死去に伴い、株式を譲受することになった場合、相続人が被相続人に代わって所得税申告をおこなう必要があります。これを「準確定申告」といいます。
準確定申告と通常の確定申告との違いは次の通りです。
| 項目 | 通常の確定申告 | 準確定申告 |
| 申告者 | 本人 | 相続人全員(代表者申告可:付表・委任状) |
| 申告期限 | 翌年3月15日 | 相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内 |
| 所得計算期間 | 1月1日~12月31日 | 1月1日〜死亡日 |
| 必要書類 | 確定申告書 | 確定申告書+付表(相続人の代表者等) |
| 医療費控除 | 支払った医療費 | 死亡日まで被相続人が支払った分のみ |
| 配偶者・扶養控除 | 12月31日時点での状況 | 死亡日時点の状況(月割り計算なし) |
| 生命保険料控除 | 年間支払額 | 死亡日までの支払額(限度内で控除、満額とは限らない) |
なお、申告先は、相続人の住所地ではなく、被相続人の死亡時住所地を管轄する税務署となります。
また、準確定申告は、通常の確定申告同様、税務署窓口、郵送、e-Taxのいずれかでおこないます。納税が必要となった場合、期限内に納付します。
参照:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
親子間の株式名義変更に関するFAQ
続いては、親子間の株式譲渡における名義変更に関してよくある質問とその回答を解説していきます。
Q1. 手続きは自分でおこなうべき? 専門家に頼むべき?
株式の名義変更(株主名簿の書き換え)は、基本的には、非上場企業の場合は株主自身もしくは会社でおこなうことができます(株主名簿の書き換え請求含む)
ただし、次の場合は専門家に頼んだほうが安心です。
贈与税・譲渡所得税などの税務判断が必要なとき
親族間の株式移転は「時価評価」が必要で、税務署は時価を厳しく見るため、誤ると追徴課税のリスクがあります。そのため、税理士に依頼するのが安全です。
定款に譲渡制限がある会社の場合
株式譲渡には取締役会や株主総会の承認が必要です。手続き不備だと譲渡が無効になりかねないため、弁護士や司法書士に確認してもらうと安心です。
将来的に相続や事業承継を意識している場合
この場合、事業承継税制や贈与税の特例を使える可能性があります。これを見落とすと税負担が大きくなるので、専門家に相談することが得策であるといえます。
Q2. 家族信託と、家族間での株式譲渡の違いは?
家族信託と家族間譲渡は、どちらも家族に株式や財産を移すイメージがありますが、法的な仕組みも目的も大きく異なります。
家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理や処分を任せる制度です。所有権は、形式的に受託者に移りますが、利益を得るのは受益者(多くの場合、委託者自身)です。
家族信託は何のためにおこなうのかというと、たとえば、「認知症対策(本人が判断できなくなっても家族が管理できる)」「遺言代わりに承継先をコントロールする」「事業承継の円滑化」などが考えられます。
なお、家族信託は贈与や譲渡ではないため、原則として贈与税や所得税は発生しません。
親子間の名義変更の種類ごとの違いを理解してベストな選択をしよう
ここまで解説してきた通り、譲渡、贈与、相続にはそれぞれにメリット、デメリットがあり、節税のためにできることも異なるため、自分たちに合っているのはどの方法であるのかをよく比較検討することが大切です。なお、「どの方法がベストであるのかわからない」という場合は、専門家に相談することが一番です。なお、生前贈与なども視野に入れている場合は、いつスタートするかによって節税効果に違いが出てくるため、できるだけ早い段階で相談することが大切ですよ。
M&A・事業承継で失敗したくないなら
ジョブカンM&Aは、経験豊富なアドバイザーが事業の売却・買収をトータルでサポートします。
「信頼できる相手を見つけたい」「交渉や手続きが不安」「適正な価格で取引したい」といった、M&Aに関するあらゆるお悩みを解決に導きます。
詳しいサービス内容を知りたい、気軽に相談したいという方は、下記サービスサイトをご覧ください。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
他の関連記事はこちら