事業譲渡における「のれん」とは? 会計・税務処理から仕訳まで徹底解説

事業譲渡において、買収時に支払う対価が買収対象の時価純資産を上回った場合、「のれん」が発生します。反対に、取得原価が時価純資産を下回った場合、「負ののれん」が発生しますが、「のれん」「負ののれん」とは具体的にどういうものであるのか、どうやって計算するのかなどを詳しく解説していきます。

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目次
  1. 事業譲渡において生じる「のれん」とは?
    1. 「のれん」と「営業権」の違い
    2. 「のれん」と「超過収益力」の違い
    3. 「のれん」と「買収プレミアム」の違い
  2. 事業譲渡と株式譲渡における「のれん」の違い(会計・税務)
    1. 事業譲渡の場合(売り手・買い手とも)
    2. 株式譲渡の場合(買い手)
  3. 「負ののれん」が発生するケース
  4. 「のれん」の会計上の取り扱いと日米会計基準の違い
    1. のれんの会計処理例
  5. 譲受企業における「のれん」の税務上の取り扱い
    1. のれんの税務に関して譲受企業が注意すべき点
    2. のれんの税務に関して譲渡企業が注意すべき点
  6. 事業譲渡における「のれん代」の算出方法
    1. インカムアプローチ
      1. DCF法(Discount Cash Flow)
      2. 配当還元法
    2. コストアプローチ
      1. 簿価純資産法
      2. 時価純資産法
    3. マーケットアプローチ
      1. 類似企業比較法(マルチプル法)
      2. 類似業種比較法
  7. M&A実務における「のれん」の評価と注意点
    1. 買い手・売り手が実務で注意すべき点

事業譲渡において生じる「のれん」とは?

「のれん」とは、事業譲渡における売り手企業の取得原価と時価純資産価額の差額のことです。ただし、「のれん」そのものを評価するということはなく、あくまでも、事業譲渡の対価(=事業価値)と、譲渡時の時価純資産(相当額)との差額ということになります。
「のれん」は、「営業権」「超過収益力」「買収プレミアム」とニアイコールの関係であるため、混同されることもありますが、後者の3つの言葉は、厳密には意味合いが異なります。

「のれん」と「営業権」の違い

「のれん」と「営業権」は、どちらも事業譲渡の対価が時価純資産を上回る場合の差額を指しますが、前者は「M&Aの取引後に発生する会計上の資産」であるのに対して、後者は「M&A価格を算定する際の考え方」です。
具体的には、次のような計算式を用います。

  • M&A価格-時価純資産=のれん
  • 最終的なM&A価格から時価純資産をマイナスする減算の考え方

  • 純資産+営業権=M&A価格
  • 買収対象企業の時価純資産にプラスアルファの価値を加算する考え方

    「のれん」と「超過収益力」の違い

    「超過収益力」とは、貸借対照表に載っている資産に含まれないものの、企業価値を構成する要素を指します。具体的には、ブランド力、独自の技術力、ノウハウ、優秀な人材、他社より有利な販路・取引条件などが含まれます。

    また、「のれん」と「超過収益力」の関係性はというと、M&Aにおいては、売り手企業の超過収益力を買収価格に含めるため、買収価格に含められた超過収益力は、会計処理の際に「のれん」として計上されることになります。

    「のれん」と「買収プレミアム」の違い

    「買収プレミアム」とは、M&Aにおいて市場価格を上回る買収額を支払う際の、“上乗せ分”を意味します。これに対して、「のれん」は前述した通り、対象企業の取得原価と時価総資産価額の“差額”なので、定義が異なるということになります。

    事業譲渡と株式譲渡における「のれん」の違い(会計・税務)

    事業譲渡において、買収対価が時価純資産を上回る場合に「のれん」が発生しますが、M&Aのスキームである事業譲渡と株式譲渡では、「のれん」の会計・税務上の取り扱いが大きく異なります。スキーム選択の重要な判断材料となるため、比較しておきましょう。

    事業譲渡の場合(売り手・買い手とも)

  • 会計: 個別財務諸表・連結財務諸表ともに「のれん」が計上され、無形固定資産として20年以内で償却されます。
  • 税務: 「資産調整勘定」として計上され、税務上は5年間で償却(損金算入)されます(節税効果あり)。
  • 株式譲渡の場合(買い手)

  • 会計: 買い手の個別財務諸表には「のれん」は計上されません。連結財務諸表を作成する際に「連結上ののれん」として計上され、20年以内で償却されます。
  • 税務: 原則、税務上の「資産調整勘定」は発生せず、償却による損金算入はできません。この点が事業譲渡との最大の違いであり、株式譲渡では原則、節税効果がない点に注意が必要です。ただし、適格組織再編など特定の手続きの場合、例外的に調整勘定が発生するケースがあります。
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    「負ののれん」が発生するケース

    冒頭で述べた通り、事業の買収対価が譲渡事業の時価純資産を下回る場合には、「負ののれん」が発生します。どのような場合に「負ののれん」が発生するかというと、たとえば、簿外債務など、貸借対照表に計上されない類の負債が見込まれるケースです。また、当該事業が本来の価値よりも低い価格で売却された場合にも、「負ののれん」が発生します。このことは、買い手企業目線で見ると、本来の価格より低い価格で購入できたことになるので、「バーゲン・パーチェス(Bargain Purchase)」と呼ばれます。

    「のれん」の会計上の取り扱いと日米会計基準の違い

    のれん代は、会計上、無形資産として計上され、一定期間にわたって消却されるものと見なされます。一般的には、販売費および一般管理費として計上されます。
    ただし、償却に関する取り扱いは、適用される会計基準によって大きく異なります。国際的なM&Aを検討する上で特に重要となる、日本会計基準・米国会計基準(US-GAAP)・IFRSの違いを理解しておきましょう。

    会計基準 償却期間 特徴
    日本会計基準 20年以内(効果の期間で見積もり) 強制償却(毎年P/Lに費用計上)と減損処理の両方が必要。
    米国会計基準 (US-GAAP) 償却なし 償却はせず、毎年減損テストを実施し、価値が低下した場合にのみ減損損失を計上。
    IFRS 償却なし 償却はせず、毎年減損テストを実施し、価値が低下した場合にのみ減損損失を計上。

    のれんの会計処理例

    続いて、譲渡企業の一部事業を、下記の条件で譲渡する場合の会計処理について解説します。

  • 移転する資産の帳簿価額は800、時価は900(含み益が100)
  • 移転する負債は600
  • 譲渡価格は400
  • 借方科目 金額 貸方科目 金額
    負債 600 資産 800
    現預金 400 譲渡金 200

    事業譲渡直前の帳簿価額をもとに計算した移転する簿価純資産は、「帳簿価額800-負債600=200」、時価純資産は、「時価900-負債600=300」となり、「①時価純資産300-簿価純資200=100」が、資産譲渡益ということになります。

    さらに、「②譲渡対価400-時価純資産300=100」も譲渡益となり、①+②=200が、事業譲渡によって得られる利益ということになります。

    借方科目 金額 貸方科目 金額
    資産 900 負債 600
    のれん 200 現預金 400

    譲受側は、承継する資産・負債を時価で譲受することになります。譲受する時価総資産(資産900-負債600=300)を、譲渡対価500が200上回っていることから、のれんは200ということになります。

    譲受企業における「のれん」の税務上の取り扱い

    のれんの税務上の取り扱いについては、譲渡企業、譲受企業はそれぞれ、次の点に注意する必要があります。

    のれんの税務に関して譲受企業が注意すべき点

    税務上ののれんは、「資産調整勘定」といわれています。また、税務上の負ののれんは、「差額負債調整勘定」といわれています。
    会計上の「のれん代」は20年以内の一定年数で消却するものであるとされているのに対して、税務上ののれん代である「資産調整勘定」は5年で償却するものとされています。償却費は、法人税法の損金として計上されることから、節税効果が期待できます。
    会計上の負ののれんである「差額負債調整勘定」は、税務上は5年にわたって益金に参入します。
    また、譲受した事業には消費税が課せられることから、譲渡価額に加えて消費税を支払う必要があることも忘れてはなりません。納税手続きは譲渡企業がおこなうことになりますが、実質的に消費税を負担するのは譲受企業です。

    のれんの税務に関して譲渡企業が注意すべき点

    事業譲渡では、譲渡益は課税所得となります。また、消費税上、のれんを含む課税対象資産に係る消費税について、譲受企業から預かった消費税を納付する必要があります。

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    事業譲渡における「のれん代」の算出方法

    前半で解説した通り、のれん代が次の計算式で算出されます。

    M&A価格-時価純資産=のれん

    このうち、M&A価格(買収価額)は金額が確定していますが、時価純資産に関しては、計算方法によって金額が異なってきます。

    代表的な計算方法は次の3つです。

  • インカムアプローチ
  • コストアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • それぞれの計算方法を詳しく解説していきます。

    インカムアプローチ

    インカムアプローチとは、買収する事業が生み出すと予想される将来キャッシュフローを現在価値に割り戻すことによって、事業価値(時価純資産)を算出するという計算方法です。将来の見積もり要素を含む計算方法であることから、算定者によって計算結果が変わります。そのため、より適切な価格を算出できるよう、専門家に相談することが望ましいといえます。
    インカムアプローチの代表的な手法には、次の方法があります。

    DCF法(Discount Cash Flow)

    将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法です。長期間にわたる収益を割り引くことによって、より正確な評価をおこなうことができます。

    配当還元法

    将来、株主が獲得すると見込まれる配当金額を、株主資本コストまたは配当還元率で割り引くことによって、株式価値を算出する方法です。

    コストアプローチ

    コストアプローチとは、貸借対照表における「純資産」をベースに事業価値を算出する計算方法です。この方法は、過去の実績をベースとすることになるため、客観性が担保されます。ただし、インカムアプローチのように、将来の予測が計算要素に盛り込まれない点はデメリットであるといえます。
    コストアプローチの代表的な手法には、次の方法があります。

    簿価純資産法

    会計帳簿上の純資産額を用いて、事業価値を算出する方法です。

    時価純資産法

    資産・負債を現在の市場価値で再評価することによって、事業価値を算出する方法です。
    また、時価純資産法を用いながらも、「のれん代」なども調整する方法も考えられます。

    マーケットアプローチ

    マーケットアプローチとは、株式市場における株価をベースとして、企業価値を算出する計算方法です。具体的には、評価対象となる企業のPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などのKPUに対して、類似企業または類似業種などの標準とされる倍率を乗じることによって、企業価値を算出するという方法です。マーケットアプローチには、インカムアプローチのような恣意性が入ることがなく、また、コストアプローチのように、過去の実績のみを判断材料とすることがないため、バランスが取れた手法であるといえます。
    マーケットアプローチの代表的な手法には、次の方法があります。

    類似企業比較法(マルチプル法)

    対象会社と類似している上場企業を選び、類似企業の数値から倍率計算をおこなうことによって、対象会社の価値を導き出す方法です。

    類似業種比較法

    類似する規模の会社が、過去にM&Aによって成立させた売買価格の例をもとに、適正な企業価値を導き出す計算方式のことです。

    M&A実務における「のれん」の評価と注意点

    「のれん」は、企業の超過収益力(ブランド力、技術、顧客基盤、優秀な人材など)が買収対価に反映されたものであり、将来の収益力への期待値です。この超過収益力が事業譲渡後に確実に発揮され、当初の計画通りのキャッシュフローを生み出すことが、買い手にとっての「のれん」の価値の実現となります。

    買い手・売り手が実務で注意すべき点

    のれんを適切に評価・扱うために、特に以下の点に注意が必要です。
    デューデリジェンスの徹底: 「のれん」の源泉となる超過収益力(無形資産)が、本当に将来の収益につながるのかを徹底的に検証し、買収価格の妥当性を判断する必要があります。

  • 減損リスクの理解: 買収後に事業計画が未達となった場合、のれんの価値が低下し、減損損失を計上するリスクがあります。特に償却しないIFRS・US-GAAP適用企業は、毎期の減損テストで多額の損失を計上する可能性があるため、その財務影響を考慮に入れる必要があります。
  • M&Aスキームの選択: 前述の通り、事業譲渡と株式譲渡では「のれん」の税務上の取り扱い(損金算入の可否)が大きく異なるため、節税効果も考慮した上で最適なスキームを選択することが重要です。
  • 事業譲渡における「のれん」は無形の価値であり、その算出や適切な取り扱いは容易ではありません。また、「負ののれん」が発生している場合のリスクについてもきちんと理解するためにも、M&Aを進めていくうえでは、M&A仲介会社をはじめとする専門家に相談することが大切です。

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    執筆 ジョブカンM&A編集部

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