タグアロング条項とは? ドラッグアロングとの違い|M&A契約の注意点

株主間契約において、「タグアロング」と「ドラッグアロング」の設定が検討されることがありますが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか? それぞれの言葉の意味や、タグアロングのメリット、デメリットなどを詳しく解説していきます。

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目次
  1. 株主間契約とは?
  2. タグアロングとは?
  3. タグアロング条項の具体的な内容とは? 条項として設定するには?
    1. タグアロング条項の例文
  4. ドラッグアロングとは?
  5. ドラッグアロング条項の具体的な内容とは?  
  6. タグアロングとドラッグアロングの共通点、相違点は?
    1. タグアロングとドラッグアロングの共通点
    2. タグアロングとドラッグアロングの相違点
  7. タグアロング・ドラッグアロング条項の「実務上の落とし穴」
    1. 買い手側が直面するリスク
      1. 表明保証の範囲拡大
      2. 契約交渉の長期化
    2. 売り手(創業者)側が直面するリスク
      1. 価格交渉権の欠如
      2. 株式譲渡を拒否された場合のペナルティ
  8. タグアロングのメリットは?
    1. 少数株主にとってのメリット
    2. 大株主・創業者にとってのメリット
    3. 投資ファンドにとってのメリット
  9. タグアロングのデメリット
    1. 少数株主にとってのデメリット
    2. 大株主・創業者にとってのデメリット
    3. 取引全体のデメリット
  10. M&Aの買い手から見たタグアロング・ドラッグアロングの注意点
    1. 買い手にとってのタグアロング条項のリスク
    2. 買い手にとってのドラッグアロング条項のメリット
  11. タグアロングに関するよくある質問(FAQ)
    1. Q. タグアロングとドラッグアロングの両方の条項を設定することはできますか?
    2. Q. タグアロングとドラッグアロングの両方ともの条項を設定しないという選択もありですか?
      1. 株主がごく少数で、かつ信頼関係が強い
      2. 上場会社やIPOを目指す場合
      3. 投資家の交渉力が弱い場合
      4. 優先交渉権(Right of First Offer)
      5. コールオプション/プットオプション
    3. Q. タグアロングの権利を行使する際の具体的な手続きは?
  12. タグアロング設計の際は専門家に相談しよう!

株主間契約とは?

まずは、冒頭で触れた「株主間契約」の意味を説明していきます。

株主間契約とは、企業の株主同氏が、企業の運営、株式譲渡、役員選任などに関して、事前に合意したルールを定める契約です。株主間の対立を防いで、企業の運営を安定させることを主な目的としています。

締結するタイミグには決まりがなく、株主同氏の合意があればどのようなタイミングでも締結することが可能です。たとえば、次のようなタイミングで締結されることがあります。

  • 合弁会社の設立時
  • 設立後に第三者による資本参加があったとき
  • 株式譲渡を自由にできないようにしたいとき
  • デッドロック(株主間で意見が対立して意思決定できない行き詰まり状態)を避けたいとき
  • M&AやIPOを効率的に進めたいとき
  • 少数派株主が意向を反映させたいとき
  • など

    なお、株主間契約は英語にすると「Shareholders Agreement」であるため、「SHA」と略されることもあります。

    特にスタートアップやベンチャー企業においては、主に創業者と、資金を提供するベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家などの外部株主との間で締結されます。 契約内容は、出資を受ける側の創業者と、出資する側の投資家のどちらの交渉力が強いかによって大きく変わるのが実情です。

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    タグアロングとは?

    続いては、タグアロングについて説明していきます。

    タグアロングとは、M&Aや株式売却において、少数株主が行使できる権利です。

    具体的には、複数の株主がいる非上場企業において、そのうちの一部の株主が、自分が所有している株式を第三者に売却する場合に、ほかの株主も、自分が所有している株式を「同じ条件で」「同じ第三者に」買取請求できる権利を保障するものです。

    なぜこのような権利が設定される場合があるかというと、一度に大量の株式売却がおこなわれると株価が低下するリスクがあるためです。たとえば、「大きな影響力を持つ大株主が値下がり前の株価で売り抜け、少数株主のみが被害を受けてしまう」ということがあり得ますが、タグアロング権を行使すれば、少数株主は大株主と同等の条件・価格で株式を売却することができます。

    また違ったケースでいうと、株式を50%保有している株主が2人いる場合も、当事者が合意していれば、タグアロング条項を設定することが可能です。

    タグアロング条項を設定しておけば、株主は株式を売却する前に、その事実を他の全株主に通知しなければならないため、他の株主は通知をもとに意見を調整することができます。

    なお、タグアロングは、英語にすると「Tag Along Right(タグアロング権)」となりますが、“Tag Along”は日本語にすると「誰かについていく、同行する」という意味です。また、日本語表記する場合は、「売却参加権」「共同売却権」となります。

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    タグアロング条項の具体的な内容とは? 条項として設定するには?

    タグアロングを条項として設定するためには、株主間契約にその内容について盛り込んでおく必要があります。具体的にどのような内容を網羅しておけばいいかというと、次の通りです。

  • タグアロング権を持つ株式の範囲
  • タグアロング権が発動する条件(売却株式の割合など)
  • 株式譲渡をしようとする株主の事前通知義務
  • 通知方法(文書など)
  • 通知内容の規定(譲渡株式数、譲渡価額、譲渡相手、譲渡予定期日など)
  • 通知後、タグアロングを申し出る期限
  • タグアロングを得られる株主の特定
  • タグアロングに従わねばならない株主の特定
  • 補償・ペナルティ条項(不履行時の補償措置について)
  • 公正な価格決定方法
  • 価格に対する異議申し立て権
  • など

    ただし、タグアロングは法令によって定められている権利ではないため、株主間でスムーズに合意を形成できない場合があります。たとえば、経営側の株主、投資側の大株主、投資側の少数株主などの立ち位置によっても、どのような内容であれば納得できるかが異なります。ただし一般的には、タグアロングの主旨に則って、少数株主に配慮した合意内容にまとめることが望ましいと考えられています。

    タグアロング条項の例文

    タグアロング条項は、株主間契約にどのように落とし込めばいいかというと、たとえば、次のような条項として記載します。

    (例)
    当会社株主は、自己の所有する株式について、第三者と譲渡交渉をおこなって合意に至った場合、その事実を自分以外の株主に書面で通知しなければならない。

    なお、該当書面には次の内容について必ず記載するものとする。

  • 譲渡株式数
  • 譲渡価額
  • 譲渡相手
  • 譲渡予定期日
  • 通知を受けた株主は、株式譲渡をおこなう株主(以下、「譲渡株主」という)と同等の条件にて、自己が所有する株式のすべてまたは一部を、当該第三者に買取請求する権利を有するものとする。

    これを「タグアロング」といい、タグアロングの行使を希望する株主(以下、「タグアロング株主」という)は、通知を受けてから30日以内に譲渡株主に申し出る必要があり、申し出を受けた譲渡株主は、当該第三者に対してタグアロング株主の株式の買取交渉をおこなう必要がある。

    なお、当該第三者がタグアロング株主の所有するすべての株式買取を望まない場合は、譲渡株主の株式数を減らして、所有比率分のタグアロング株主の株式を譲渡できるものとする。

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    ドラッグアロングとは?

    タグアロングについてある程度理解できたところで、続いてはドラッグアロングについて理解を深めていきましょう。

    ドラッグアロングとは、複数の株主がいる非上場企業において、過半数以上もしくは2/3以上などの議決権を持つ株主が、自身の所有する株式を第三者に売却する際、売却に賛成ではない他の株主に対して、自分と同じ条件で同じ第三者に株式を売却することを強制できる権利です。

    なぜ、他の株主が所有している株式まで売却する必要があるのかというと、すべての株式を買収して会社を完全にコントロールしたいと考える買い手がいるためです。

    少数株主が残っていても、スクイーズアウト(強制排除)の手法を使えば、買い手が会社の経営権を取得することはできますが、株式の取得段階で全株式を売却できるとなれば、スクイーズアウトの手間が省けるぶん、スムーズなのです。

    なお、ドラッグアロングは、英語にすると「Drag-along Right(ドラッグアロング権)」となりますが、“Drag-along”は日本語にすると「引っ張る、無理矢理連れていく」という意味です。また、日本語表記する場合は、「強制売却権」「同時売却請求権」となります。

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    ドラッグアロング条項の具体的な内容とは?  

    ドラッグアロング条項には、通常、次のような内容が盛り込まれます。

  • ドラッグアロング権を持つ株主の範囲(通常は過半数以上の株式を保有する株主)
  • ドラッグアロング権が発動する条件
  • 売却価格や条件の決定方法
  • 権利行使の通知方法と期限
  • など

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    タグアロングとドラッグアロングの共通点、相違点は?

    続いては、タグアロングとドラッグアロングの共通点および相違点を確認していきます。

    タグアロングとドラッグアロングの共通点

    タグアロングとドラッグアロングの共通点は、「大株主vs少数株主」「投資側株主vs経営側株主」などの対立しがちな二者の利害を調整したり保護したりする意図で設定されている点にあります。

    また、そうした性質であるがために、交渉によって合意を形成することなしには設定できない点においても共通しています。

    タグアロングとドラッグアロングの相違点

    タグアロングとドラッグアロングの最も本質的な違いは、「誰のための権利か」という点にあります。
    タグアロング(共同売却権):「置いていかれない」ための少数株主の“防御的”権利 大株主だけが良い条件で株式を売却して利益を得たり、会社の支配権が知らない第三者に移ったりする際に、少数株主が不利な状況に置かれることを防ぎます。「大株主が売るなら、自分も同じ条件で売らせてほしい」と要求できる、少数株主を守るための権利です。
    ドラッグアロング(強制売却権):「M&Aの好機を逃さない」ための大株主の“攻撃的”権利 会社全体にとって有利なM&Aの提案があった際に、一部の少数株主の反対によってその機会を失うことを防ぎます。「このチャンスを逃さず全員で売却するぞ」と、大株主がM&Aを主導して、確実に実行するための権利です。

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    タグアロング・ドラッグアロング条項の「実務上の落とし穴」

    これらの条項は理想的な設計のように見えますが、実際のM&A交渉では予期せぬトラブルが発生することがあります。特に、買い手と売り手は、以下のような実務上の注意点を理解しておく必要があります。

    買い手側が直面するリスク

    表明保証の範囲拡大

    タグアロング権が行使されると、本来の売却主(創業者など)だけでなく、少数株主も株式を売却することになります。この際、買い手は少数株主にも表明保証(株式や会社の状況について虚偽がないことを保証する義務)を求めることがありますが、少数株主がこれを拒否する、あるいは保証能力が低いといった問題が生じることがあります。

    契約交渉の長期化

    タグアロング権の行使により、交渉相手が複数になると、個別の要望調整に時間がかかり、M&Aプロセス全体が遅延する可能性があります。

    売り手(創業者)側が直面するリスク

    価格交渉権の欠如

    タグアロング条項では、少数株主は「大株主と同じ条件」で株式を売却できますが、その価格が適正かどうかの交渉権は持たないケースが多いです。そのため、大株主が不当に低い価格で売却を進めた場合、少数株主の不満につながる可能性があります。

    株式譲渡を拒否された場合のペナルティ

    ドラッグアロング権を行使しても、少数株主が売却に最後まで抵抗する場合、売却側の株主が契約違反に対するペナルティ(違約金など)を負うことがあります。契約書で事前にペナルティを明確にしておくことが重要です。

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    タグアロングのメリットは?

    続いては、タグアロングのメリット、デメリットをみていきましょう。

    まず、メリットとしては次の点が挙げられます。

    少数株主にとってのメリット

  • 大株主と同じ条件で売却可能
  • 情報格差や交渉力の差による不利益を回避できる
  • 契約設計の透明性が高まる
  • 少数株主にとっては、大株主と同じ条件で売却できることは大きな安心材料となります。たとえば、情報格差や交渉力の差があったとしても不利益を回収できるため、将来的な不利益も回避できます。また、契約設計に透明性があるため、どんなリスクがあるのかがわかりやすいことも、大きな安心材料であるといえるでしょう。

    大株主・創業者にとってのメリット

  • ベンチャーキャピタルや事業パートナーとの出資契約がスムーズに進みやすい
  • 出口戦略が明確になる
  • 創業者と出資者との間で信頼関係が築かれやすい
  • タグアロング条項が設定されていなければ、大株主が大量の株式を売却すると、株価が下がったり少数株主がスクイーズアウト(強制排除)されたりする可能性があるので、それを避けるために売却前に株主間調整などをおこなう必要があります。

    一方、タグアロング条項が設定されていれば、前述した通り、少数株主も大株主と同条件で株式を売却することができるため、大株主は、株主間での意見調整などをおこなわずとも気軽に株式を売却できます。つまり、ベンチャーキャピタルや事業パートナーとの出資契約もスムーズに進みやすくなるということになります。

    また、出口戦略が明確になることから、企業価値の算定や資本政策の策定に関しての一貫性が保たれます。

    さらに、事前に少数株主とタグアロング条項を締結することによって、信頼関係を築くことができるのも大きなメリットであるといえます。

    投資ファンドにとってのメリット

  • 予測可能なリターンを確保できる
  • 将来的なバイアウト案件などに対しても柔軟に対応できる
  • リスクを分散できる
  • 投資先企業の株式売却に際して、創業者に先行してエグジットできる可能性があるなど、ファンドの資金回収契約が立てやすくなります。また、投資契約時におけるディールストラクチャー(取引スキームの立案やビジネスケース作成、契約書面の作成支援、価格設定など、取引を成功させるための具体的な方法論や構造全体)と柔軟に設計できるため、将来的なバイアウト案件などにもうまく対応することができます。

    また、複数社への同時エグジット戦略を視野に入れて保有設計することができるため、運用効率向上やリスク分散も叶います。

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    タグアロングのデメリット

    デメリットとしては次の点が挙げられます。

    少数株主にとってのデメリット

  • 少数株主が複数いる場合、連携が難しい
  • 発動条件によっては権利を行使しにくい
  • 売却時に一定の契約責任が課されることがある
  • 少数株主が複数存在する場合、連携が難しく、合意形成が遅れることがあることから、トラブルが生じる場合があります。特に、大人数出資型のスタートアップやファミリー企業の場合、事前の調整が不十分だとリスクが高まります。また、通知機関が極端に短いなど、発動条件が厳しすぎる場合、実質的に権利を行使できない可能性があります。なお、タグアロングは「行使しない」という選択を取ることもできますが、その場合にも、迅速な判断が必要になります。

    さらに、売却時に表明保証や責任分担を追う場合がありますが、海外ファンドが買い手となるクロスボーダーM&Aなどでは、少数株主にも一定の契約責任が課されることがあるため、タグアロングの大きなメリットである「少数株主がリスクを回避しやすい」を享受できない場合があります。

    大株主・創業者にとってのデメリット

  • 複数株主がタグアロングの権利を行使する場合、譲渡先との条件調整が難航する可能性がある
  • 少数株主との条件調整に時間とコストがかかることがある
  • タグアロング条項があること自体、新規投資家からネガティブにとられる可能性がある
  • タグアロング条項の発動によって複数の少数株主が売却の意思を示した場合、譲渡先との条件調整に時間がかかる場合があります。さらに、各少数株主との調整にも、時間やコストがかかる可能性があるため、法務・税務面のアドバイザーの活用を余儀なくされる可能性があります。

    また、タグアロング条項を設定した時点で、ベンチャーキャピタルや事業会社から、「自由にエグジットできない構造である」とみなされることがあります。

    取引全体のデメリット

  • 株主数が多いと、株式の売買条件が煩雑化する恐れがある
  • タグアロングの権利行使のタイミングによっては、M&A全体の構造に影響が呼ぶ可能性がある
  • タグアロング条項の設計自体に法的知識が求められる
  • 少数株主が多く、多数の株主が売却を希望した場合、株式の売買条件が煩雑化して、価格交渉が難航する可能性があります。特に買い手からすると、交渉相手の数が増えること自体がネガティブ要素となり、ディール実行しづらくなる場合があります。

    また、想定外のタイミングでタグアロングの権利行使が発動されると、当初予定されていた部分譲渡を全株譲渡に変更せざるを得なくなるなど、売却スキーム全体の見直しを迫られることもあります。

    また、タグアロング条約の設計には高度な法的知識が求められることから、そもそも合意形成に至る条約を設計できるまでに時間とコストがかかることもデメリットであるといえます。もちろん、弁護士や税理士などの専門家を交えて設計を進めることも不可欠であるため、会社にとっての負担も大きくなります。

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    M&Aの買い手から見たタグアロング・ドラッグアロングの注意点

    タグアロング条項やドラッグアロング条項の有無は、M&Aを検討する買い手にとっても交渉の前提を左右する重要な確認事項です。買い手はデューデリジェンス(DD)の過程で株主間契約書を精査して、これらの条項の存在を必ず確認します。

    買い手にとってのタグアロング条項のリスク

    買い手、特に特定の株主から一定割合の株式のみを取得したい(例:創業者から経営権を取得し、資本業務提携としたい)と考えている場合、タグアロング条項は大きなリスクとなり得ます。
    想定外の買収総額の増加: 創業者から60%の株式を取得する予定だったところに、他の少数株主(VCなど)がタグアロング権を行使すると、買い手は想定していなかった株式まで買い取らなければならず、買収総額が大幅に増加する可能性があります。
    ディールブレイクの可能性: 予算や提携のスキーム上、全株式の取得を望んでいない買い手にとって、タグアロング権の行使はディールそのものを破談させる要因(ディールブレイカー)になり得ます。なお、「ディールブレイク」とは、M&Aなどの企業取引において、デューデリジェンスの結果、重大な問題が発覚したり、交渉が不調に終わったりしたことなどによって、取引が中断または破談となることを意味します。

    買い手にとってのドラッグアロング条項のメリット

    一方で、ドラッグアロング条項は、買い手にとっては非常に望ましい条項です。
    100%株式取得の確実性: 買い手は、会社の経営権を完全に掌握するために100%の株式取得を目指すことがほとんどです。ドラッグアロング条項があれば、一部の少数株主が売却に反対しても全株式を確実に取得できるため、買収をスムーズに進めることができます。
    スクイーズアウトの手間が不要: もしドラッグアロング条項がなければ、反対する少数株主を強制的に退出させるためのスクイーズアウト(現金対価による株式の強制取得)という法的な手続きが必要となり、追加の時間とコストが発生します。ドラッグアロングは、この手間を省く効果があります。

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    タグアロングに関するよくある質問(FAQ)

    続いては、タグアロングに関するよくある質問とその答えを紹介していきます。

    Q. タグアロングとドラッグアロングの両方の条項を設定することはできますか?

    タグアロング条項とドラッグアロング条項は、ひとつの株主間契約や投資契約において、併せて設定することが可能です。実務上、両方を規定するケースは珍しくはありません。
    ただし、発動条件や優先順位を契約内で整理しておくことが重要です。たとえば、「一定割合以上の株主が売却する場合はドラッグアロングを発動できる」と定めるとして、その前にタグアロングがどう作用するかを調整する必要があります。なお、実務上はドラッグアロングが優先されるケースが多いです。

    タグアロング条項とドラッグアロング条項の両方を同一の株主間契約に盛り込む場合、次のような契約条項を作成する必要があります。

    (例/重要部分の抜粋)
    第X条(共同売却請求権:Tag-along)
    1.甲(大株主)が本契約締結日以降に自己の保有する株式の全部または一部を第三者(以下「譲受希望者」という)に譲渡しようとする場合、乙(少数株主)は、当該譲渡株式数に応じた自己の保有株式を、甲と同一の条件で譲渡することを請求することができる
    2.甲は、譲受希望者との間で譲渡条件が確定した場合、遅滞なくその内容を乙に書面で通知しなければならない
    3.乙が前項の通知を受けた日から◯日以内に書面により共同売却の意思表示をおこなったときは、甲は譲受希望者に対して、乙の株式も同条件で譲り受けるよう求めなければならない

    第Y条(強制売却条項:Drag-along)
    1.甲が自己の保有する株式の全部または発行済株式総数の◯%以上を第三者に譲渡しようとする場合、甲は乙に対して、乙の保有株式についても甲と同一条件で当該第三者に譲渡することを求めることができる
    2.前項の場合、乙は甲からの請求に従い、甲と同一条件にて自己の保有株式を譲渡しなければならない
    3.甲は、当該譲渡にかかる条件について乙に対して誠実に通知して、譲渡手続に必要な協力をおこなうものとする

    第Z条(優先関係)
    本契約に基づくドラッグアロング条項が発動された場合には、タグアロング条項は適用されないものとする

    Q. タグアロングとドラッグアロングの両方ともの条項を設定しないという選択もありですか?

    タグアロング条項とドラッグアロング条項の両方の条項を設定しないという選択もあり得ます。

    タグアロング条項とドラッグアロング条項の両方を設定しないのはどんなケースかというと、たとえば次のようなケースです。

    株主がごく少数で、かつ信頼関係が強い

    契約上の強制力を持たせなくても調整できるとの考えから

    上場会社やIPOを目指す場合

    将来、流動性が市場で確保できるため「退出条項」をあえて設けない

    投資家の交渉力が弱い場合

    会社側がタグアロング/ドラッグアロングを拒否して、条項自体を設けない

    なお、タグアロング条項とドラッグアロング条項の両方を設けないことによって、大株主、少数株主に次のようなリスクをもたらす可能性があります。

  • 大株主 → 株式売却が難しくなるリスク
  • 少数株主 → 支配株主交代時に不利な立場になるリスク
  • そのため、両方の条項を設けない場合でも、株式譲渡承認手続(会社法上の譲渡制限規定)や別の契約条項(優先交渉権、買取請求権などの代替策を置くことが多いです。具体的には、以下のような条項が代替手段として機能します。

    優先交渉権(Right of First Offer)

    株式を譲渡したい株主は、まず他の既存株主に対し、一定期間内に特定の条件で株式を取得するかどうかを打診しなければなりません。これにより、外部に株式が流出する前に、既存株主が株式を買い取る機会を確保できます。

    コールオプション/プットオプション

    コールオプションは、特定の株主(主に大株主や会社)が、将来、あらかじめ決められた価格で少数株主の株式を買い取る権利です。一方、プットオプションは、少数株主が、特定の条件(例:IPO未達の場合)で大株主や会社に株式を買い取らせる権利です。これらの条項は、少数株主の出口(エグジット)を確保する重要な手段となります。

    Q. タグアロングの権利を行使する際の具体的な手続きは?

    タグアロングの権利を行使する際は、契約書に定められたルールに従って手続きを進めていきます。一般的な手続きの流れは次の通りです。

    1.大株主による売却意向の通知

    大株主が第三者に株式を譲渡しようとする場合、次のような条件を少数株主に書面で通知します。

  • 譲渡予定株式数
  • 売却価格
  • 支払条件
  • 譲渡予定先(買い手)
  • 2.少数株主による意思表示(権利行使)

    少数株主は、通知を受け取ってから一定期間(例:10営業日以内など)に、「自分も同条件で株式を譲渡する」旨を書面で回答します。この意思表示をおこなうことによって、タグアロング権が発動します。

    3.大株主による買い手への交渉・取次ぎ

    大株主は、少数株主が参加する分も含めて、買い手に株式を売却するよう交渉・手配します。通常、契約で「大株主は買い手に少数株主の株式取得を求めなければならない」と定められます。

    4.株式譲渡契約の締結

    少数株主は、大株主と同一の条件で、買い手と株式譲渡契約を締結します。
    なお、譲渡対価の支払時期・方法も大株主と同じということになります。

    5.クロージング(株式譲渡手続)

    株券交付・名義書換など、通常の株式譲渡と同様のクロージング手続きをおこないます。譲渡代金は買い手から直接、少数株主に支払われます。

    タグアロング設計の際は専門家に相談しよう!

    少数株主の権利を保護できるタグアロングは、資本構成の透明性を担保するためにも重要な設計となります。会社の健全な成長および外部投資家からの信頼獲得のためにも設計の検討は望ましいですが、先にも解説した通り、設計には法的な専門知識が不可欠なので、信頼できる専門家にしっかり相談するようにしてくださいね。

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    ジョブカンM&A編集部

    執筆 ジョブカンM&A編集部 | ジョブカンM&A編集部

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