タームシートとは? 資金調達・M&Aで失敗しないための全知識

タームシートは、資金調達やM&Aのプロセスにおいて非常に重要な役割を果たします。投資家と企業、あるいは倍種者と売却者の間で取り交わされるものですが、具体的にどのような項目を盛り込めばいいのか、拘束力はあるのかなど、タームシートについて詳しく解説していきます。

目次
  1. タームシートとは
    1. タームシートに記載する主な項目
    2. タームシートと契約書の違いは?
    3. タームシートに拘束力はある?
  2. 資金調達におけるタームシートとは?
  3. M&Aにおけるタームシートとは?
  4. M&Aにおいてタームシートを作成するタイミングは?
  5. M&Aにおけるタームシート活用メリットは?
    1. 契約の要点がわかりやすい
    2. M&Aプロセスの進行がスムーズ
    3. 関係者と情報共有しやすい
    4. 契約書の作成費用を低減できる
    5. 契約の最終段階での決裂リスクを低減できる
  6. M&Aにおけるタームシート活用デメリットは?
  7. M&Aにおけるタームシートの作成例
  8. M&Aにおけるタームシート作成のポイント
    1. その時点で合意に至っていない内容についてもすべて落とし込む
    2. 作成時には、必ず法的専門家のチェックを受ける
    3. タームシートを「全体戦略を見通すためのツール」と捉える
      1. M&Aの「売り手」がタームシートで注意すべきポイント
      2. M&Aの「買い手」がタームシートで注意すべきポイント
  9. タームシートを適切に活用することで交渉の透明性と信頼性が高まる

タームシートとは

「タームシート(term sheet)」とは、契約や取引の要点をまとめた文書です。取引の対象、価格、支払い条件、期限、関与する各当事者の役割、取引の終了条件などの主要な条件を、箇条書きにするか、もしくは表などを用いて簡潔に記します。通常、交渉の初期段階で作成されて、双方が合意に達するための道筋を示す役割を果たします。

タームシートに記載する主な項目

  • 取引の対象:対象となる資産や株式などの具体的内容を記します
  • 取引金額:具体的な価格や支払い条件を記します
  • 主要な取引条件:契約条件や、重要な制約事項を記します
  • 関与する各当事者の役割:売り手、買い手、仲介者などの当事者のそれぞれの役割を記します
  • 権利と義務:当事者間で合意された具体的な権利や義務を記します
  • 取引タイムライン:交渉、精査、契約締結までのスケジュールを記します
  • デューデリジェンスの範囲:精査する対象や手続きの詳細を記します
  • 取引終了条件:契約解除の条件や終了時の処理方法を記します

タームシートと契約書の違いは?

タームシートは、基本合意契約書や最終契約書を作成する際の基盤としての役割も果たします。ただし、タームシートは契約書とは異なり、作成が必須ではありません。また、契約書にはひな形がある場合が多いですが、タームシートは各契約に即して要点をまとめられるため、双方にとって要点がわかりやすいよう仕上げられます。

実際のところ、タームシートはExcelで作成するケースが多く、縦軸に契約の項目、横軸に契約の内容を記すなど、極めてシンプルな方法で作成されます。

そのため、タームシートを作成した経験がない人でも、記載すべき項目さえ理解していれば、比較的簡単に作成することができるでしょう。なお、合意が必要な事項をあらかじめExcelのセルに列挙しておくと、これから合意に向けて交渉を進めていくべき項目も把握しやすいため、スムーズに作成を進められるでしょう。

タームシートに拘束力はある?

タームシートは基本的には法的拘束力は持ちません。しかし、タームシートで合意した内容は、その後の交渉プロセスにおける事実上のガイドラインとして機能します。一度合意した事項を最終契約の段階で覆すことは、相手方との信頼関係を損ない、交渉決裂のリスクを高めることになります。そのため、法的拘束力がなくても、心理的な拘束力や交渉上の制約が非常に大きい点を理解しておくことが重要です。なお、、排他交渉権条項、秘密保持条項、違約金の設定に関する条項などに関しては、法的拘束力を持たせるケースが多いです。また、法的拘束力がない項目に関しても、タームシートの段階で双方が合意したものに関しては、その後の契約書にも反映されることとなり、後から大幅に変更することが難しい場合があります。

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資金調達におけるタームシートとは?

資金調達におけるタームシートは、投資家と企業の間で交わされる最初の合意文書として機能します。記載する項目は、投資金額、出資形態、株式の種類、株主権、将来的な株式の持分や投資回収方法などになります。

タームシートの作成が、投資家と企業の利害関係調整に役立ち、将来的な紛争を未然に防ぐことにつながります。

M&Aにおけるタームシートとは?

M&Aにおけるタームシートは、買収者と売却者の間で交わされる文書です。M&Aの取引は複雑になるケースが多いため、タームシートを作成することで早期に重要事項を確定させて、双方の合意を形成することが非常に大切です。記載する項目は、買収価格、支払方法、買収後の事業統合計画、役員構成、雇用契約などです。また、デューデリジェンスの範囲や、取引が不成立に終わった場合の解約条項なども記載することが大切です。

M&Aにおいてタームシートを作成するタイミングは?

M&Aにおいて、タームシートは、売り手と買い手が主要な条件に付いて概ね合意した段階で作成されます。多くの場合、トップ面談後、またはLOI(Letter of Intent/意向表明書)提出後に取り交わされることとなり、買収価格やスキーム、スケジュールなどの実務的な項目を整理するために用いられます。

LOI作成の目的は「買収の意思表明」ですが、これに対してタームシートには、より具体的な条件が盛り込まれるため、交渉の実務フェーズに進むための前提資料としての役割を果たしてくれます。

タームシート作成後には、タームシートに基づいて基本合意書が締結されることとなりますが、その後のデューデリジェンスやPMI(Post Merger Integration/統合プロセス)においても、タームシートは前提資料として機能します。

なお、売り手からみたM&Aの基本的なステップは次の通りです。

  • 自社のニーズ確認
  • 秘密保持契約書の締結・概要書の作成
  • 買い手候補者の選定
  • 秘密保持契約書・アドバイザリー契約書の締結
  • ネームクリア・提案資料の開示
  • トップ面談の実施
  • 意向表明書の提出
  • タームシートでの合意
  • 基本合意書の締結
  • デューデリジェンスの実施
  • 最終契約書の締結
  • クロージング

M&Aにおけるタームシート活用メリットは?

M&Aにおけるタームシート活用には、次のようなメリットがあります。

  • 契約の要点がわかりやすい
  • M&Aプロセスの進行がスムーズ
  • 関係者と情報共有しやすい
  • 契約書の作成費用を低減できる
  • 契約の最終段階での決裂リスクを低減できる

それぞれ詳しく解説していきます。

契約の要点がわかりやすい

先に解説した通り、タームシートは、要点を箇条書きするか、もしくは表などにまとめるスタイルで作成されるため、契約の要点がわかりやすいのが大きなメリットです。

仮に、箇条書きや表形式を用いず、分厚い資料などを提示して条件を示したとすると、交渉相手の意欲も削がれてしまうに違いありません。一方、簡潔でわかりやすい形式のタームシートであれば、スムーズに交渉相手の理解を得やすいといえます。

M&Aプロセスの進行がスムーズ

タームシートを作成して、初期段階で基本条件を整理しておくと、後々、認識の食い違いが生じるリスクも少なく、M&Aをスムーズに進行させることができます。また、前述の通り、基本合意書の作成や、デューデリジェンスおよびPMIもスムーズに進められます。

関係者と情報共有しやすい

前述の通り、タームシートは要点がわかりやすいようにまとめられたものなので、交渉相手と認識を一致させるために有効であるだけでなく、社内や関係者との情報共有にも有効です。

契約書の作成費用を低減できる

先に述べた通り、タームシートは、基本合意契約書や最終契約書を作成する際の基盤としての役割も果たします。そのため、精度の高いタームシートを作成しておけば、後々、弁護士に契約書の作成を依頼する際、タームシートを提示することで、ドラフト作成にかかる費用を低減させることもできるでしょう。

契約の最終段階での決裂リスクを低減できる

契約の要点がわかりやすいタームシートがあれば、交渉相手との意思疎通がスムーズであるため、最終契約の締結まで到達しやすくなると同時に、早期に主要な条件についてお互いに合意できていることから、最終段階での決裂リスクを減らすことにもつながります。

M&Aにおけるタームシート活用デメリットは?

タームシートを作成すること自体にデメリットはありませんが、タームシートには基本的には法的拘束力がないので、このことを理解しないまま合意すると、最終契約時にトラブルが生じる可能性がある点に関しては注意が必要です。トラブル発生を防ぐためにも、タームシートについての理解を深めると同時に、早期に法務部門などで確認してもらうことが大切です。

M&Aにおけるタームシートの作成例

前述の通り、タームシートはExcelで作成するケースが多く、縦軸に契約の項目、横軸に契約の内容を記すなど、極めてシンプルな見た目に仕上がります。いかに、Excelなどで作成した場合の作成例を載せておきます。

項目 概要または条件など
譲渡人 山田花子(個人株主)
譲受人 株式会社QQ(代表取締役:木村太郎)
対象会社 株式会社TT
対象取引 株式会社TTの発行済普通株式100%
取引価額 XX円
(※「価額調整の基準日」または「価額調整」といった文言を入れるかどうかを検討する必要があります)
価額調整の基準日 2025年X月X日
価額調整 純資産額、運転資本額等に基づく調整あり
クロージング予定日 2026年X月X日
クロージングの前提条件 ・デューデリジェンスの結果、重大な問題がないこと
・必要な許認可の取得
・株主総会での承認
表明保証 譲渡人および対象会社に関する表明保証(別途詳細リスト提示)
(※譲渡対象の会社に、簿外債務や訴訟などのリスクが存在しないことを表明・保証する項目です。この内容に虚偽があった場合は、譲渡人が責任を負うことになります)
契約事項 ・クロージングまで、対象会社の通常業務以外の行為制限
・重要資産の処分禁止
役員・従業員の処遇 ・クロージング後、現経営陣の処遇は別途協議
・従業員の雇用に関しては継続
役員退職慰労金 別途協議
代表取締役社長処遇 クロージング日付で退任
クロージング後の役員構成 別途協議
商号 変更予定(別途要協議)
競業避止義務 譲渡人はクロージング後X年間、同種事業を営まない
(※譲渡後の新事業の立ち上げを制限する条項です。期間や範囲が適切か、売り手は慎重に交渉する必要があります)
秘密保持義務 本取引に関する情報は秘密とする
独占交渉権 譲受人にXか月間の独占交渉権を付与
(※この期間、買い手は安心してデューデリジェンスを進められる一方、売り手は他社との交渉ができません。交渉が長期化する場合は、期間延長や打ち切り条件について慎重に検討する必要があります)
費用負担 弁護士費用、デューデリジェンス費用などに関しては、各当事者が自己の費用を負担
合意管轄 東京地方裁判所
その他 ※本タームシートは法的拘束力を有しないが、秘密保持義務、独占交渉権、合意管轄に関しては法的拘束力を有するものとする

M&Aにおけるタームシート作成のポイント

M&Aにおいて信頼度の高いタームシートを作成するためには、次のポイントをおさえておくことが大切です。

  • その時点で合意に至っていない内容についてもすべて落とし込む
  • 作成時には、必ず法的専門家のチェックを受ける
  • タームシートを「全体戦略を見通すためのツール」と捉える
  • それぞれ詳しく解説していきます。

    その時点で合意に至っていない内容についてもすべて落とし込む

    タームシートには、交渉に関連する重要項目を網羅的に落とし込むことが大切です。その時点で合意に至っていない内容などに関しては、「未合意」と記し、検討中の事項や争点もメモしておけば、交渉の全体像を双方が把握しやすくなるでしょう。

    検討中の事項や争点に関しては、上記のタームシート作成例の「概要または条件など」の列に記入しても構いませんが、「合意済み/未合意」の別がわかりやすいよう、「概要または条件など」の右にもう一列メモ欄を増やすなどしてもいいでしょう。

    作成時には、必ず法的専門家のチェックを受ける

    タームシートの作成時には、法務部門または外部の弁護士などの法的専門家によるチェックを受けることが不可欠です。特に上場企業の場合、有価証券報告書や適時開示との整合性も問われるため、専門家のチェックを入れなければリスクが大きくなります。

    タームシートを「全体戦略を見通すためのツール」と捉える

    前述の通り、「合意済み/未合意」の別がわかりやすい仕様を意識することをはじめ、タームシートを見れば、それぞれの項目の進捗状況や、次に何を検討すべきであるかが一目でわかるよう工夫しておくと、タームシートを通して全体戦略を見通すことができます。

    先に述べた通り、タームシートには決められたフォーマットなどは存在しないため、当事者同士の理解を深める目的を達成できるなら、上記作成例に沿ったものでなくとも構いません。作成したタームシートが他者からみてわかりやすいものであるかどうか判断できない場合は、その点も含めて法務部門などに確認してもらうのもいいかもしれません。
    売り手目線、買い手目線で見ると、次のポイントにも留意することが大切です。

    M&Aの「売り手」がタームシートで注意すべきポイント

    項目 注意点
    価格と価格調整条項 表示された金額が「企業価値(EV)」であるか「株式価値(Equity Value)」であるかを確認。価格調整(ネットデットや運転資本調整)で後に減額される可能性もある
    独占交渉権(Exclusivity) 一定期間、他の買い手と交渉できなくなる条項。期間が長すぎないか、延長条件が曖昧でないか注意
    デューデリジェンスの範囲 買い手に広範な調査権限を与える場合、過度に業務が負担にならないか、また秘密情報保護が明確になっているか確認
    表明保証・補償義務(Representations & Warranties) 売り手の責任範囲が広くなりすぎないように注意。後に訴訟や補償請求に発展する可能性がある
    クロージング条件(Closing Conditions) 売却が成立するための条件が過剰に設定されていないか確認。たとえば、役員の継続雇用、従業員の契約更新など
    取引構造(Asset DealかShare Dealか) 法的・税務上の影響が大きいため、自社にとって不利にならないよう構造を確認
    秘密保持義務(NDA) すでに締結済であっても、再度明記されている内容に矛盾や追加がないか注意

    M&Aの「買い手」がタームシートで注意すべきポイント

    項目 注意点
    バリュエーションの妥当性 提示価格が過大でないか、EBITDA倍率や類似企業比較などで再検討。価格調整条項があるか確認
    独占交渉権の確保 他の買い手との競合を避けるため、一定期間の独占交渉を明記。違反時の違約金も検討対象
    デューデリジェンスの自由度 会計・税務・法務だけでなく、人事やITも含めた詳細なDDができるように明記
    クロージング前の重要契約の維持 売り手が勝手に人員整理や資産売却をしないよう、クロージングまでの行動制限を定める(Covenants)
    表明保証と補償期間・金額 買収後のリスクを避けるため、十分な表明保証と補償上限・期間の設定が必要
    従業員・経営陣の処遇 経営陣の残留やインセンティブプランが必要な場合は、タームシート段階で触れておくとスムーズ
    ファイナンス条件(資金調達の前提) 買収資金の準備が前提となる場合、「資金調達に成功したこと」をクロージング条件に設定することが多い

    タームシートを適切に活用することで交渉の透明性と信頼性が高まる

    タームシートは、資金調達においてもM&Aにおいても、交渉を効率的かつ効果的に進めるために役立つ重要なツールです。適切なタイミングで作成して、適切な内容を記すことによって、交渉の透明性と信頼性が向上するので、作成のポイントをおさえて、タームシートを上手に活用することを意識してくださいね。

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    ジョブカンM&A編集部

    執筆 ジョブカンM&A編集部 | ジョブカンM&A編集部

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