
M&Aによって会社が買収されると、経営権が移行して、組織体制が見直されるため、結果として、経営陣や従業員にも大きな影響が及ぶ可能性が高いといえます。具体的にどのような影響が考えられるのか、詳しく解説していきます。
M&Aによる買収とは?
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の頭文字を並べた言葉です。Mergersは「合併」、Acquisitionsは「買収」をそれぞれ意味するため、M&Aは「合併と買収」という意味になります。つまり、買収はM&Aの一種ということになりますが、M&Aにはそのほか、会社を「分割」することも含まれます。
さらに、合併には「吸収合併」と「新設合併」がありますし、買収の手法には、株式を買い受ける「株式譲渡」もあれば、事業そのものを買い受ける「事業譲渡」もあります。
合併と買収は、手続きやメリットなどさまざまな違いがありますが、もっとも大きな違いは「消滅する会社があるかどうか」ということです。合併の場合、吸収合併でも新設合併でも、もともとの会社は消滅することになりますが、買収の場合、株式譲渡でも事業譲渡でも、会社自体はそのまま残ることになります。
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M&Aでの買収が会社に及ぼす影響は?
M&Aによって買収された会社には、冒頭で述べた通り、主に次のような変化が起きます。
- 経営権が移行する
- 組織体制や経営方針が見直される
- 従業員の労働環境やキャリアパスに影響が出る可能性がある
それぞれ詳しく解説していきます。
経営権が移行する
M&Aによって会社が買収されると、買収元が買収先の運営権を取得することになるため、経営の主導権が移行します。経営の主導権が移るということは、経営方針が大きく変わる可能性があるということになります。
組織体制や経営方針が見直される
経営権の移行に伴い、組織体制や経営方針の見直しがおこなわれるのが一般的です。なぜかというと、買収元は、買収先を自社の経営方針や戦略に統合させる必要があるためです。そのため、買収元は、自社のビジョンや戦略に沿った経営方針が策定して、重要な意思決定をおこない、新しい戦略を導入するのが一般的です。
また、組織の見直しに関しては、買収先の部門や役職の再編成が実施されます。この目的は、買収元の組織構造に統合させて、業務の効率化や意思決定の迅速化を目指すことです。
経営方針の見直しには、財務戦略や市場展開戦略、技術開発戦略が含まれます。この際、買収先は、買収元のノウハウや成功事例を活用することによって業績向上を図ります。
従業員の労働環境やキャリアパスに影響が出る可能性がある
新しい経営方針や新しい戦略の導入に伴い、給与体系や福利厚生、評価制度、役職配置などが見直される可能性があります。その結果として、従業員の労働環境やキャリアパスに影響が出る可能性が考えられます。
M&A買収後の従業員はどうなる?具体的な変化を解説
M&A成立後には、PMI(Post Merger Integration/統合プロセス)がおこなわれます。統合する対象は、経営に関することから業務内容、従業員の意識にまで及ぶため、さまざまな要素が変化することに馴染めない従業員が出てくる可能性や、場合によっては退職を希望する者が出てくる可能性があります。
具体的には、主に次のような影響が考えられます。
- 企業文化や社風になじめない
- 雇用条件や労働条件の変更
- 給与・退職金の変更
- 福利厚生の内容の変更
それぞれ詳しく解説していきます。
企業文化や社風になじめない
経営方針の変化によって、買収元の企業文化や社風が色濃く反映された場合、それになじむことができない従業員が出てくる可能性が高いと考えられます。その場合、従業員自ら、退職を選ぶこともあるでしょう。
雇用条件や労働条件の変更
戦略の変更によって人員配置が換わると、職務内容や勤務地をはじめとする、雇用条件や労働条件が変更となる可能性があります。勤務地が変わることに対応できない従業員が出てくることを見越して、転勤または早期退職制度の利用のいずれかを、従業員自らに選択してもらう場合もあります。
給与・退職金の変更
給与や退職金の変更は、買収が従業員に及ぼす影響のなかでももっとも見逃せないポイントでしょう。もちろん、買収元が採用する新たな経営方針に基づき、給与体系や退職金制度が見直された結果、買収前より給料などが上がる可能性もあります。
株式譲渡の場合
買収後、売り手企業の退職金規定が廃止され、買い手企業の規定に統合されることがあります。その際、これまでの勤続年数がどう扱われるか、従業員が不利益を被らないようにどう交渉すべきかを記載する必要があります。。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、転籍時にいったん雇用契約が終了するため、それまでの勤続期間に対応する退職金が売り手企業から支払われるのが一般的です。買い手企業での勤続年数はゼロからスタートすることになります。
福利厚生の内容の変更
買収先企業は、自社の福利厚生を基準にして、福利厚生制度を再編するため、健康保険や年金制度、休暇制度などが変更となる可能性があります。買収元の福利厚生が充実していれば、もともとの福利厚生と比べて充実度が高くなる可能性もあります。
M&Aでの買収によって従業員がリストラ・解雇の対象になる可能性はある?
M&Aでの買収が従業員に及ぼす影響に関してもうひとつ気になることが、リストラ・解雇の可能性です。
買収直後に従業員が人員整理の対象になる可能性は低い
結論からいうと、売却後に従業員が人員整理の対象になる可能性は極めて低いといえます。
なぜかというと、買い手企業は売り手企業の技術力やノウハウを取得することによって、事業内容を多角化させたり、企業の成長速度をアップさせたり、海外進出を実現させたりしたいと考えているためです。つまり、その実現のためにも売り手企業の従業員は不可欠であるということになります。
買収から時間が経ってから、従業員が人員整理の対象になる可能性はある
ただし、買収から時間が経った後は、買収された側の従業員が人員整理の対象になる可能性はあります。なぜかというと、買収後に買収元の業績が悪化する可能性があるためです。その場合、業績の回復を見込んで、人件費の圧縮を図るケースがあると考えられます。
M&Aスキーム別!従業員への影響と注意点
株式譲渡の場合:
雇用契約は自動的に引き継がれるが、その後の変更リスクも
- 法的保護の高さ: 売り手企業の法人格は存続するため、原則として従業員の雇用契約は自動的に買い手企業に引き継がれます。個別の同意は不要です。
- 就業規則の変更リスク: 買収後、買い手企業の就業規則が適用されることで、給与体系や福利厚生、評価制度などが変更される可能性があります。変更内容が従業員に不利益な場合は、個別の同意が必要になるケースもあります。
事業譲渡の場合:
従業員の同意が必要なため、丁寧な説明と交渉がカギ
- 新たな雇用契約の締結: 事業譲渡は事業“のみ”を売買するため、従業員は買い手企業と新たに雇用契約を結び直す必要があります。
- 転籍同意の必要性: 従業員は買い手企業への転籍に同意するかどうかを自由に選択できます。同意が得られない場合、雇用は継続されません。
- 労働条件の変更リスク: 転籍時の契約で、給与や役職などの労働条件が変更される可能性があります。売り手企業は、従業員が納得できる条件を引き出せるよう、買い手企業と交渉する必要があります。
従業員を守るために売り手企業がすべきこと:交渉のポイントと対策
買収後、従業員がリストラされるリスクを下げるため、売り手企業がすべきことは主に2つあります。
それぞれ詳しく解説していきます。
従業員の雇用を見直す可能性が低い企業を譲渡先として選ぶ
前述の通り、買い手企業が従業員の雇用を見直す主なきっかけは、業績の悪化です。そのため、業績の悪化が見込まれる企業を譲渡先候補から外すことで、買収後の従業員のリストラを防げる可能性は高いといえます。
また、買い手企業の社風が売り手企業にそぐわない場合も、従業員が譲渡先に適応できず、人員整理の候補に挙がる可能性が高くなると考えられます。
譲渡契約に、リストラをおこなわない旨を盛り込む
買収後しばらくは雇用を維持することを、譲渡契約の書面に盛り込むことも有効です。口約束だと拘束力がないため、必ず書面に落とし込むことが大切です。
M&Aでの買収が経営陣に及ぼす影響
M&Aでの買収は、従業員だけでなく、経営陣にも大きな影響を及ぼす可能性があります。主な影響は次の2つです。
- 役職や職務の変化
- 新しい経営方針に対応する必要が出てくる
それぞれ詳しく解説していきます。
役職や職務の変化
M&Aで会社が買収されると、役員の役職や職務が変更となる可能性があります。買収を機に新たな経営方針が導入されるため、買収元は自社から新たな役員を派遣したり、既存の役員を再配置したりするケースが多いためです。しかも、役員の報酬や退職慰労機に関しても、株主総会によって刷新される可能性が高いといえます。
なお、非常勤役員に関しては、M&A成立後に退任となることが一般的です。
新しい経営方針に対応する必要が出てくる
M&Aが完了すると、買収先の経営陣は、新たな経営方針や戦略に適応していくことが求められます。買収先が提示する経営方針に納得できない場合でも、買収された以上、買収元に従うほかありません。
ただし、役職や職務が変化したとしても、経営陣としての籍は残された経営陣に関しては、買収先の強みを活かせるよう、新しい取り組みや戦略を提案していくことが望ましいといえます。
買収先の社長の進退は?
買収先の社長は、従業員、経営陣とは異なり、買収の話を進めた当事者です。そのため、売却するかどうかを判断したのも本人ということになりますし、今後の進退に関しても自分で決められるということになります。
では、買収先の社長は自らの進退に関してどのような選択肢を有しているかというと、主に次の3つの選択肢が考えられます。
- 会社に留まる
- 買収後に退職する
- 引継ぎ後に退職する
それぞれ詳しく解説していきます。
会社に留まる
売却の目的が会社の規模UPの場合、売却後も会社の経営や運営に携わっていきたいと考えるケースが多いようです。ただし、売却後も社長で居続けるかどうかに関しては話が別で、売却を機に役職チェンジするケースも考えられます。
買収後に退職する
社長が高齢で売却を機に引退したい意向がある場合、もしくはアーリーリタイアを希望している場合などは、買収完了後、引継ぎをおこなうことなく退職する場合があります。
引継ぎ後に退職する
社長が引き継ぎをおこなってから引退するケースは、もっとも一般的であるといえます。なぜかというと、特に買収先が中小企業でワンマン経営をおこなってきた場合などは、社長がいなければ引き継ぎ業務を進めていくことが難しいためです。そのため、買収後の経営統合作業である「PMI(Post Merger integration)」が落ち着くまで、これまで通りの業務を担当するケースがこれに該当します。
売り手・買い手双方にとってメリットの大きい買収を目指そう
M&Aでの買収は、売り手企業にとっても買い手企業にとってもメリットとリスクの両方をもたらす可能性がありますが、従業員への待遇をはじめ、双方にとってメリットの大きい形にもっていけることがベストであることは間違いありません。その実現のためにも、専門家の協力を得ながら、適切な選択を重ねていけるといいですね。
M&A・事業承継で失敗したくないなら
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「信頼できる相手を見つけたい」「交渉や手続きが不安」「適正な価格で取引したい」といった、M&Aに関するあらゆるお悩みを解決に導きます。
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この記事は、2025年8月時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部 | ジョブカンM&A編集部
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