
「株特外し(かぶとくはずし)」とは、会社が株式保有特定会社の条件に該当しないよう、対策を講じることを意味します。この対策は、主に相続税や贈与税の節税、M&A時の自社株評価額を適正に保つことを目的として行われます。特にM&Aにおいては、自社株評価額が高くなることを避けたい売り手、そして買収後の負担を軽減したい買い手双方にとって、重要な検討事項となります。具体的にどのような対策を講じればいいのか、また、実施することによって会社の将来にどんな影響を及ぼす可能性があるのかなどを詳しく解説していきます。
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株式保有特定会社とは?
冒頭で述べた通り、株特外しとは、会社が株式保有特定会社の条件に該当しないよう、対策を講じることですが、では、「株式保有特定会社」とはなにかというと、総資産の50%以上が「株式等」に分類される会社のことです。
会社が株式保有特定会社に該当するかどうかは、次の計算式で判断します。
「株式などの価格の合計÷総資産価格≧50%」
この計算式における「株式などの価格の合計」および「総資産価格」は、原則として相続税評価額を用いて判定されます。ただし、株式評価には「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」など複数の方式があり、どの方式を適用するかによって、計算結果が大きく変わる可能性があるため注意が必要です。M&Aの場面では、買い手側が時価ベースでの評価を求めることもあり、その場合、相続税評価とは異なる結果となることも考慮すべき点です。
また、ここでいう「株式等」には、次の5つが該当します。
- 上場株式
- 非上場株式
- 外国株式
- 株式制のゴルフ会員権
- 証券会社が保有する商品としての株式
一方、次の2つは「株式等」には該当しません。
- 証券投資信託の受益証券
- 匿名組合の出資
また、下記の事業者は「株式保有特定会社」の判断基準から外れます。
- 開業から3年未満
- 休業中
- 清算中
- 開業前
なお、「株式保有特定会社」は、特定の資産の保有割合が高い会社である「特定会社」の一種ですが、特定会社にはほかに、「土地保有特定会社」などがあります。
株式保有特定会社の特徴は?
前述の計算式によって、株式保有特定会社と判断される会社にはどのような会社が多いかというと、他の株式会社をグループに入れ、子会社化している企業、すなわちホールディングスです。
ホールディングスは、「持株会社」を設立して他社の株式をまとめて保有しているケースが多く、他社の株式を取りまとめている会社が「株式保有特定会社」だと判断される場合が多いということになります。「持株会社」とは、他の会社の株式を保有して、その会社の経営を支配することを目的としている会社のことです。具体的には、子会社の株式を保有して、株主として意思決定や経営戦略をおこなうことによって、グループ全体の統治を担っている会社のことです。
なお、ホールディングスがイコール「持株会社」「資産管理会社」などととらえられる場合もあります。また、いずれにしろ、これらの株式保有特定会社は事業承継時に貸される相続税や贈与税が高くなる可能性があることは、大きな特徴であるといえます。なぜかというと、税額が自社株の評価に大きく左右されるためです。
株式保有特定会社が設立される理由は?
株式保有特定会社と判断されていない会社の場合、自社株の評価は「純資産価額方式」のみ、または「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の2つを組み合わせた方式のうち、評価が低いもの(=課される税金も低くなる)を採用できます。
一方、株式保有特定会社は原則として、「純資産価額方式」しか採用できないため、相対的に株価が高く評価されることになります。つまり、税金面で不利だと思えるかもしれませんが、実際のところ、持株会社を設立する大きな理由のひとつは、節税目的です。
どういうことかというと、「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の組み合わせによって算出された自社株の評価額より、子会社化したほうが節税になる場合があるということです。
そのほか、経営の効率化や、大口株主の所得税対策となることなども、株式保有特定会社が設立される理由として挙げられます。
株特外しとは?
株式保有特定会社についての理解が深まったところで、本題である株特外しについて解説していきます。
「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の組み合わせによって算出された自社株の評価額より、子会社化したほうが節税になる場合があるのは前述の通りですが、一般的には、先に述べた理由から、株式保有特定会社に該当すると税負担が重くなります。
それを回避するために、株式保有特定会社に該当する状態を解消して(=外して)、「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の2つを組み合わせた方式を採用することで、自社株の評価を下げることを「株特外し」といいます。
この対策を実施するためには、株式等の保有割合を下げることが必要になりますが、どのようにして下げるかというと、保有資産の構成を変えればいいのです。具体的には、主に次の2つの方法が活用されます。
分母(総資産)を増やす方法
会社の資産のうち、前述した「株式等」以外の資産を増やす方法です。たとえば、不動産や投資信託、債券などを購入することが考えられます。資金にゆとりがある場合にはおすすめの方法です。
分子(株式等の評価額)を減らす方法
会社の資産のうち、株式等の割合を減らす方法です。グループ会社や関連会社の株式の一部を売却することなどがこれに該当します。
株式等に該当するもの・しないものは、先にも解説しましたが次の通りなので、「分子を減らす方法」を選択する場合、【株式等に該当するもの】のいずれかを減らすということになります。
-
【株式等に該当するもの】
- 上場株式
- 非上場株式
- 外国株式
- 株式制のゴルフ会員権
- 証券会社が保有する商品としての株式
-
【株式等に該当しないもの】
- 証券投資信託の受益証券
- 匿名組合の出資
この方法は、M&Aによって子会社株式を売却する場合にも当てはまります。ただし、株式を売却して得た多額の売却代金(現金)が新たな資産として加わることで、売却後の会社の資産構成が変化します。この現金が総資産の50%以上を占めると、M&A後の会社が「資産管理会社」とみなされることとなり、再び株式評価が高くなるリスクがあるため、売却後の資金使途まで含めて検討することが不可欠です。
株特外しを実施する際の注意点
株特外しは、多くの場合、節税を目的におこなわれるもので、それ自体は悪いことではありませんが、課税要件をすり抜けることが主たる目的の場合は、税務署から認めてもらえず、株特外しのために不動産の購入や株式の売却がおこなわれる以前の状態における株式が評価される可能性があります。そうなると、節税対策をしたはずが結果的に損をしてしまうことになるため、重々注意することが必要です。
なお、これに関して国税庁は、「評価会社が株式特定保有会社であるかどうかを判定する場合において、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式特定保有会社に該当する評価会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして当該判定をおこなうものとする(※一部編集)」と通達しています。
「合理的な理由がない」と判断されないよう対策を講じることは、専門知識がなければ難しいので、株特外しを実施したい場合は、税理士をはじめとする専門家に相談することが不可欠であるといえます。
株特外しを実施する際の税務面以外での注意点
株特外しを実施するにあたっては、「資産構成の変動に合理的な理由が認められるかどうか」を考えることに加えて、長期的な視点を持つことや、経営戦略との整合性について考えることも大切です。
一次的な対応として株特外しをすれば、万が一、その時点では税務署からチェックが入らなかったとしても、後に問題が生じる可能性が高まります。それを防ぐためにも、長期的な視点を持って実施する必要があります。また、株特外しの方法が、会社の経営戦略と整合しているかどうかを慎重に検討することも不可欠です。
加えて、資産構成は常に変動するため、定期的に状況を確認して、必要に応じて対策を見直していくこともとても大切です。
株特外ししないことにメリットはある?
前述の通り、株特外しした場合、税制面でのメリットが大きい可能性がありますが、株特外ししない場合にもメリットはあります。具体的には、主に次のようなメリットが考えられます。
事業シナジーを維持できる
前述の通り、株特外しの方法のひとつとして、グループ会社や関連会社の株式の一部を売却するという方法が挙げられますが、売却しないという選択をとることによって、グループ内で、その会社の技術や人材、情報、販売チャネルなどを総合活用することができます。
経営戦略に安定感を持たせられる
これも、グループ関連会社や株式の一部を売却しなかった場合のメリットですが、グループで経営理念や企業文化を共有して、グループでの戦略を統一することができます。
財務上の安定感を示せる
子会社の資産・売上を連結できることから、グループ全体のスケールメリットを外部に示しやすくなります。上場企業の場合、連結ベースの売上・利益も示せるため、投資家の信用力や安心感が高まることもメリットです。
M&Aや再編の柔軟性を残せる
株式を保有し続けることで、将来的なグループ内再編や再統合、非中核事業の切り出し、さらなるM&A戦略の実行などといった選択肢を持つことができます。たとえば、グループ内の別会社と統合して事業効率化を図ったり、事業再編によって特定の事業をM&A市場に売却したりする際に、株式の保有関係が重要な鍵となります。株特外しのために安易に株式を手放すと、こうした経営戦略の選択肢が狭まる可能性があります。
M&Aの成功に向けた『株特外し』戦略:専門家と連携し、慎重に判断しよう
解説してきた通り、株特外しにはメリット・デメリットの両方が存在するだけでなく、税務署から目を付けられるというリスクもあるため、実施するかどうかは慎重に判断していくことが大切です。考慮するにあたっては、グループとしての財務状況や経営戦略、子会社の事業性などさまざまな要素を視野に入れる必要があるため、必ず、専門家に相談することをお忘れなく!
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この記事は、2025年8月時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部 | ジョブカンM&A編集部
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